EHP2006年10月号 Meeting Report
2006年9月2〜6日パリ
 環境的疫学及び暴露に関する国際会議
早期暴露に厳しく目を向ける


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 10, October 2006
Meeting Report
International Conference on Environmental Epidemiology and Exposure
Looking Hard at Early Exposures
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-10/forum.html#expo

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年10月1日


 2006年9月2〜6日、パリで開催された環境的疫学及び暴露に関する国際会議では約30の異なるセッションで子どもの健康について討議された。同会議で、生涯の早い時期の及び受胎前の両親の環境有害物質への暴露は、後々の代謝系障害、心臓血管系疾患、及び生殖系障害をもたらすかもしれないと研究者らは述べた。

 米国立子ども健康人間発達研究所(NICHD)の疫学者ゲルマイン・ブック・ルイスによれば、受胎前の母親及び父親の暴露と、精巣発育不全症候群(testicular dysgenesis syndrome)や研究は少ないが卵巣発育不全との間の関係を支える科学的な証拠がある。”受胎周辺期(periconception)は、暴露に関する研究にとって重要である”とブックルイスは述べた。

 英ブリストル大学社会医学部の研究者ジョージ・デビー・スミスは総会で、胎児期及び出生後の早期における感染症物質やタバコの煙などの環境要素への暴露は、成人してからの血圧、インシュリン耐性(糖尿病への可能性)、及び心臓血管系疾患への影響ご関係していると述べた。スミスは、いわゆる予言的適応的反応(predictive adaptive responses (PARs))−有害な環境的要因に反応した発達的”プログラミング”−がこれらの関連性のいくつかの根底にあるかもしれないと述べた。進化論的には、これらの反応は生命の困難に備えて組織の発達を準備するよう意図されている。例えば、妊娠中の母親の栄養不良は、胎児の出生後の栄養摂取の困難を”予言”するかもしれない。その結果として生ずる胎児の代謝系及び心臓血管系の発達の変化は、もしその子どもが実際には栄養的に恵まれない環境でなければ、不適応を示し、結果は代謝症候群となり得る。

 特に子どもの健康と環境化学物質に関するセッションでは、カリフォルニア大学バークレー校教授ブレンダ・エスケナジは、まだ未発表ではあるが、3か所の NIEHS/EPA 子どもの環境健康センター(カリフォルニア大学バークレイ、コロンビア大学、及びマウントサイナイ医学センター)からの研究結果をまとめて発表した。それは有機リン系殺虫剤への暴露と神経発達系影響との関連性について3か所の研究が類似した結果を示したというものである。エスケナジは、”子どもセンターは成年になり始めており、今は、我々の長期的出生コホート調査のための手法の調和が成果を上げる時期である。それは、異なる人口集団で類似した研究を行うことの重要性を示している”と述べた。(訳注1

 有害な環境暴露が子どもたちにどのような影響をもたらすかに関する調査研究の促進は、パリ会議においてその設立が発表された新しい学界の主要な目標である。子どもたちの健康と環境のための国際学会(International Society for Children's Health and the Environment)は、研究、訓練、政策策定、医療介護、及び教育を通じて化学的、物理学的、及び生物学的な有害環境影響から子どもたちを守ることに専心する。同学会はまた、子どもたちの環境の質を向上させることによって彼らの健康を促進することを求めている。

 シンシナティ子ども病院医療センターの子どもの環境健康センターのディレクター、ブルース・ランフィアーはこの新たな学会の設立メンバーである。彼は、”子ども達は多くの環境的危険性に特に脆弱であるということがますます明確になってきている。この学会は、これらの危険から子どもたちを守るための我々の取組を統合し強化するために設立される。”同学会は現在、会員を募集中である。

 子どもの健康の保護は、同会議において発表された国際環境疫学学会とヨーロッパ呼吸器学会の科学者らによる共同宣言の基礎の一部であり、それは欧州連合の当局に対し、提案された大気質指令(air quality directives)を強化するよう求めている。オランダのユトレヒト大学の環境疫学教授バート・ブルネックリーフは、”現在のレベルでは公衆健康を完全には又は十分には保護できないということが、今は広く認められている”と述べた。彼はこの提案は、子どもたちのぜん息の増加と肺機能の低下に関連する微粒子汚染の削減のための法的要求を含んでいないので、実効性に欠けると述べた。欧州委員会は2006年10月13日に提案された指令を見直すことになっている。

キンバリー・シグペン・タール(Kimberly Thigpen Tar)


訳注1
EHP2005年10月号 NIEHS News/子どもセンター:子どもと化学物質について調査 (当研究会訳)
ES&T 2006年4月5日/ブッシュ政権 全米子ども調査の予算を切り捨てる(当研究会訳)



化学物質問題市民研究会
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