EHN 2016年7月6日
妊娠中のアセトアミノフェンの服用は
自閉症に関連する

ブライアン・ビエンコウスキー(EHN)

情報源:Environmental Health News, July 6, 2016
Acetaminophen during pregnancy linked to autism
By Brian Bienkowski (Environmental Health News)
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/july/
acetaminophen-during-pregnancy-linked-to-autism


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2016年7月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehn/
160706_EHN_Acetaminophen_during_pregnancy_linked_to_autism.html

 スペインの母子の新たな研究によれば、出生前に、タイレノール(Tylenol)(訳注1)など多くの商品の中でよく使われる鎮痛剤成分アセトアミノフェン(訳注2)に暴露した男児は小児期に自閉症の症状を示しやすい。

 これは、広く妊婦に処方されているアセトアミノフェンは、子宮内で暴露した子どもたちの脳の発達と行動に影響を与えるかもしれないことを示唆する最新の研究である。

 ”これは良い、重要な研究であるが、決定的ではない”と、ニューヨーク州マウントサイナイ病院の生殖科学教授シャーナ・スワンは述べた。彼女はこの研究に関わっていない。”アセトアミノフェンは根拠なく、時には不必要に使用されることがある。それは危険であり、そう言えばそれで十分だと思う”。

 米・疾病管理予防センターによれば、その程度には幅があるが、意思の伝達と社会的相互作用が困難であることを特徴とする発達障害である自閉症は、アメリカでは一貫して増大しており、最近の見積りでは、その概略の割合は 68 例の出産のうち 1例が自閉症であるとしている。他の先進国での割合もまた上昇しているが、いくつかの途上国での割合は低く停滞しており、先進国の増大は妥当なのか、少なくともその一部は検出技術の進歩のためではないかという疑問が提起されている。

 アメリカにおける明白な増大には何が寄与しているのかに関し、遺伝子、妊娠中の問題、そしてある化学物質への暴露を含む複雑な要素は全て犯人の疑いがあるが、よく分からないままである。

 ”この研究により、今すぐ医師や病院などのプロバイダーや患者の行動を変えるべきではなく、関連があるのかどうか簡単にはわからない”と、米国産婦人科学会の産科実施委員会の議長ジェフリー・エッカー博士は述べた。彼はこの研究に関与していない。

 鎮痛剤は、母親と赤ちゃんの健康を保つために、時には必要であると、ボストンのマサチューセッツ一般病院の産科医であるエッカーは述べた。”この研究が対応していないことは、人々が ’タイレノールはいらない’ と言ったときの潜在的なリスクである。防ぐことができたはずの熱又は痛みがもたらす結果もまた、潜在的に有害である”と彼は述べた。

 この最新の研究では、スペインの研究者らは 2,644 人の母親に、一般名パラセタモールとしても知られる鎮痛剤を妊娠中に使用したかどうかについて質問し、次に彼女らの 1歳又は 5歳の子どもについて注意力の能力、及び自閉症のマーカーを評価した。

 一貫して鎮痛剤に曝露した男児らは、自閉症スペクトラム症状をより多く持っており、一貫して暴露したすべての子どもたちは、より多動症的及び直情的であった。

 ”継続的に暴露した子どもたちと非暴露の子どもたちを比較して、我々はいくつかの注意力機能損傷のリスクが約 30%増大することを見つけた”と、『International Journal of Epidemiology』 誌に先週発表された研究の著者らは書いている。

 ”子どもたちの約40%は、妊娠32週までアセトアミノフェンに暴露していた。この研究の著者のひとりで、スペインのバルセロナにある環境疫学研究センターの研究者であるジョルディ・ジュルベスはeメールで、男児の脳が発達中にそのような暴露に対して脆弱であることはあり得る”と述べた。

 ジュルベスは、アセトアミノフェンはある脳受容体又は免疫系の成長を変えて、赤ちゃんに酸化ストレスをもたらすことがあると述べたが、これらの全ては胎児と幼児の適切な脳の発達を損なう可能性があることを意味する。

 また、アセトアミノフェンは、あるホルモンの生成を変更して内分泌系をかく乱することができ、それは胎児の脳発達を阻害する。

   この研究は、アセトアミノフェンと発達問題の間の関係を報告した最初のものではない。ノルウェーの 2013年の研究は、48,000人の子どもたちの中で、その母親が妊娠中にアセトアミノフェンを服用していた子どもたちは発達遅れ、行動問題、多動などをより多く抱えていた。

 そして昨年、大いに宣伝されて発表されたデンマークの研究は、64,322組の母子を追跡し、妊娠中にアセトアミノフェンを使用していたと報告された女性は、自閉症及び多動性や衝動性のようなその他の行動問題を持つ子供を約 50%多く持つらしいことを発見した。

 しかし、これらの研究及び今回のスペインの研究は全て、実際には母親の鎮痛剤の使用をテストしなかったという点に限界がある。”問題は、彼らは人々がよく思い出せないことについて質問していることである”とスワンは述べた。”そして、(医師の処方が不要で)店頭で入手した薬剤の使用は、しばしば過小に報告される”。

 妊婦の概略半分は、アセトアミノフェンを使用している。妊婦はそれを熱と痛みのために使用するが、妊娠中の熱は胎児の発達を阻害することがあるので、その使用は赤ちゃんのためにもなる。

 自閉症とその他の行動障害の潜在的な原因を研究することは複雑である。化合物の行動への影響をテストすることは難しいし、動物研究では自閉症のような症状の検出はうまく機能しない。

 科学者らはさらに調査を続ける中で、妊婦らは彼らの使用を監視すべきであるとスワンは述べた。”我々が今すぐ必要とするメッセージは、妊婦はそれを決して服用すべきではないということではなく、それを必要に応じて控えめに使用するということであり、そのことはそれが今どのように服用されるかということではない”とスワンは述べた。

 エッカーはそれに同意しつつ、薬を服用する誰にとっても最もよいことは、病気に必要な最低の用量を最小の期間、服用することであると付け加えた。

 ”私が見ていることは、健康な母親は健康な妊娠を意味するということである”と彼は述べた。


訳注1
 ・タイレノール/ウィキペディア
 タイレノール(Tylenol)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンが販売するアセトアミノフェンを単一成分とする解熱鎮痛剤である。現在アメリカでは鎮痛剤市場の約35%をタイレノールが占める。日本では武田薬品工業がジョンソン・エンド・ジョンソンとの提携の下にタイレノールを販売しているOTC薬品(医師の処方箋なしに店頭で購入できる薬品)である。

訳注2
アセトアミノフェン/ウィキペディア
 パラセタモール(国際一般名)とも呼ばれ、軽い発熱や、寒け、頭痛などの症状を抑える解熱剤、鎮痛剤として用いられる薬物の主要成分。その広い薬効のため、服用量が過剰となることが少なくない。


化学物質問題市民研究会
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