EHN 2012年2月27日
化学物質への曝露 主要な疾病に匹敵するほど
子どもの知能指数低下を引き起こす


情報源:Environmental Health News, June 14, 2010
Chemical exposures cause child IQ losses that rival major diseases
Synopsis by Aimin Chen and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2012/01/
2012-0223-chemicals-iq-loss-similar-to-disease/


オリジナル:Bellinger DC, 2012. A strategy for comparing the contributions of environmental chemical and other risk factors to children’s neurodevelopment. Environmental Health Perspectives http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1104170

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年6月27日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehn/120224_chemical_exposures_child_IQ.html



familymwr/Flickr
 主要な3つの環境化学物質−鉛、有機リン系農薬、及びメチル水銀は、早産や注意欠陥多動症(ADHD)のような主要な医学的異常に匹敵するほど、全体的な集団の子どもたちの知能指数(IQ)に影響を与えるかもしれない。すでに発表されているデータの再分析から得たこの発見は、これらの目には見えないが広範に及ぶ汚染物質である鉛、有機リン系農薬、及びメチル水銀は、今までの個々の研究が示唆していたリスクよりはるかに厳しいかも知れない。

 鉛は、計算上最も厳しい影響をもたらし、集団中で推定2,300万ポイントのIQ損失があった。対照的に、早産に由来する予測低下は1,300万ポイントである。IQのどのような低下も人々の成功と社会的な必要性にとって有害である。

 この種の初めての研究で、著者は2,550万人の子どもたちのすでに発表されているデータを分析し、曝露による集団あたりのIQ損失の見積りをいくつかのよく知られている子どもの医学的異常と比較した。集団のリスクに類別するというこの新しいアプローチは、研究者等が最も有害な曝露を特定し、支援プログラムの効果を評価するのに役立つかもしれない。

何をしたか?

 個人的ではなく社会的レベルでの子どもたちのIQに及ぼす影響を定量化するために、研究者等は。子どもたちの知能に及ぼす環境曝露と医学的異常の影響を評価した研究の発表されたデータを分析し比較した。彼は、アメリカの5歳以下の2,550万人の子どもたちに基づいて損失推定を行なった。

 彼は、先天性異常、早産、ADHD、自閉症、頭部損傷、その他子どもたちによくある健康問題を検証した。環境的側面に関しては、鉛、有機リン、及びメチル水銀を調査した。影響の大きさに関する集団ベースの信頼できる見積りを生成するために十分なデータがあった。影響の大きさは子どもたちのIQが環境曝露又は医学的異常の増加とともに、どのように変化するかについてのひとつの指標となる。

 就学年齢前のIQデータは信頼性のある測定をすることができ、公表されている研究の中で共通に測定され報告されているので、彼は分析をIQだけに限定した。

 彼は、一般的集団における環境曝露の濃度及びその集団における医学的異常の発生率に基づいて、子どもたちのIQ損失を推定した。彼はIQ損失の程度を曝露毎又は医学的異常毎に比較した。

何を見つけたか?

 アメリカの子どもたちの鉛曝露は、この研究の集団において約2,300万ポイントのIQ損失に関連していおり、検証した3つの化学物質の中で最も有害な環境曝露であった。

 有機リン系農薬は、集団レベルで約1,700万ポイントのIQ損失であった。

 メチル水銀自身は、アメリカの子どもたちの中で約30万ポイントのIQ損失であった。

 あわせると、この3つの環境化学物質は4,000万ポイント、集団の子どもたちのIQを減少させた。このことは2,550万人の子どもたち一人当たり1.6ポイントのIQ損失であった。社会の平均的1Qは、100である。

 これらと比較すると、アメリカの新生児の12%が該当する早産についての見積りは、3,400万IQポイントである。他の一般的な問題や障害による子どもたちの社会的なIQ損失への寄与は、ADHDが1,700万ポイント、自閉症が700万ポイント、外傷性脳損傷が約700万ポイント、先天性心臓障害によるものが10万ポイントのIQ損失である。

何を意味するか?

 曝露に関連する推定IQ低下を医学的異常によるものと比較したこの研究によれば、環境曝露の子どもたちの神経系に及ぼす潜在的な公衆健康影響には著しいものがある。この研究によれば、鉛と有機リンはともに、相当な社会的な負担をもたらす二つの疾病である早産とADHDよりも大きな影響を及ぼす。

 この結果は、ひとつの集団の中で環境曝露による知的損失の程度を初めて推定したという点で重要である。以前の研究は個人の1Q損失を評価したものであり、子どもの中でも広く変動する。集団のIQ影響を検証することは社会に及ぼす影響についてよりよい指標を与える。

 環境曝露は、防ぐことができるものであり、有害化学物質を削減する努力がなされてきた。しかし、この研究の発見は、それらの努力がまだ十分ではないことを示唆している。更なる削減がIQの低下に関連する公衆の健康影響をもっと回避するのに役に立つであろう。

 人のIQがたとえわずかに低下しても、学校や職場において特別の援助の必要性が増す。社会的なレベルで、IQスコアーの減少は全体的な知的能力、競争力、成績達成の低減、及び学校と健康介護のコスト増大をもたらす。

 この分析は化学物質曝露に焦点を当てているが、このアプローチは、子どもたちの知能に同じく影響を及ぼすかもしれない放射線又は騒音のような非化学物質影響にも適用することができるであろう。子どもたちの認識機能に及ぼす影響を削減することを試みる場合には、子どもたちの発達に及ぼす化学物質及び非化学物質の両方の脅威を防止することが考慮されるべきである。

 この研究は、IQに関する情報を収集した。社会的適応、行動、実行機能(記憶、推論、注意)などの環境曝露からのその他の影響もまた、あり得る。ここで特定された有害化学物質への子どもの曝露を防止することもまた、同様にこれらの影響に対応することであるかも知れない。

 この研究は両親、さらには妊娠前の女性でさえも共通の環境曝露や、どのようにしてそれらを減らすかについて知るべきであると示唆している。著者は、研究者らが子どもたちの発達中の神経系に有害な歴史的な、そして既存及び新しい有害化学物質を特定することを研究するよう勧告している。



化学物質問題市民研究会
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