EHN 2009年12月2日
人体内の化学物質のテスト
展望と限界


情報源:Environmental Health News, December 2, 2009
New frontiers ? and limitations ? in testing people's bodies for chemicals
By Harvey Black

http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/new-horizons-in-biomonitoring

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年12月3日
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 バイオモニタリングにおける新たな展望が、がん、神経学的障害、糖尿病などを含む健康問題の原因になっているかもしれない環境暴露を特定しつつある。研究者らはすでに、数千人のアメリカ成人から150種近くの化学物質を精密に測定している。現在、米疾病管理予防センターはもっと広範なデータの発表を準備中であり、さらに500人の赤ちゃんのへその緒をテストすることによってその範囲を拡大しようとしているが、これは赤ちゃんが子宮中でどのような化学物質に暴露しているのかを科学者らが決定することを可能にするものである。バイオモニタリングは”環境健康におけるルールの変更(a game changer)である”とジョーンズ・ホプキンズ大学のトーマス・ブルケは述べた。それにもかかわらず、この情報の実際の使用はまだその可能性を完全には満たしていない。
By Harvey Black
Environmental Health News
December 2, 2009


 科学者らにとってそれはデータの埋蔵物であり、世界の長年の医学的な神秘のいくつかを解明するのに役立つかも知れないものである。人々が体内に有している化学物質を測定するというバイオモニタリングにおける新たな展望は、神経学的障害、糖尿病などを含む健康問題の原因になっているかもしれない環境暴露を特定しつつある。

 研究者らはすでに、数千人のアメリカ成人から150種近くの化学物質を精密に測定している。現在、米疾病管理予防センター(CDC)はもっと広範なデータの発表を準備中であり、さらに500人の赤ちゃんのへその緒をテストすることによってその範囲を拡大しようとしているが、これは赤ちゃんが子宮中でどのような化学物質に暴露しているのかを科学者らが決定することを可能にするものである。

 バイオモニタリングは”環境健康におけるルール変更の出来事(a game changer)であるとジョンズ・ホプキンズ大学健康政策管理の教授であり、全米研究協議会(National Research Council)委員会の議長であるトーマス・ブルケは述べた。

 ”我々は20年前にはこのようなレンズを持っていなかった”と彼は述べた。”私のニュージャージーでの経験から言ってもそれほど昔のことではない。当時、我々は有害廃棄物埋立地からの健康影響があるかどうかを調べようとしたが、誰が何に暴露しているのかを調べることについて非常に制限があった。したがってこれは途方もない躍進である。それは環境政策をの方向を変える可能性がある”。

 それにもかかわらず、この情報の実際の使用はまだその可能性を完全には満たしていないと専門家らは述べている。

 最近の政府のある報告書は非常にわずかな化学物質しか評価されておらず、そのデータは人々を有害物質への暴露から守るための規制に反映されていないと結論付けた。

 米政府監査院(GAO)報告書は、”市場に出ているほとんどの化学物質についてバイオモニタリング・データがない”と言及した。米環境保護庁が”最も人への暴露源であるらしいとみなす”約6,000種類の化学物質があるとGAO報告書は述べている。

 それに対して、CDCは第4回環境化学物質へのヒト暴露に関する全米報告書を年末までに発表する準備をしており、それは8,000人のアメリカ人の血液と尿から212種の化学物質を特定している。

 CDCの取り組みは、農薬、消費者製品中の成分、産業用化合物を含む化学物質暴露を範囲とする世界で最も包括的なものである。それはCDCの2005年の報告書にある148種より43%多い化学物質を分析しているが、それでもそれはまだほとんどの人々が暴露する化学物質のわずか1%である。

 CDCはまた、初めて幼児のテストを実施しつつある。パイロット・プロジェクトでは500組の母親と幼児が血液と臍帯血のテストを受けることになっている。

 臍帯血は以前にもテストされていたが、エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)が水曜日に発表したものを含んで今までの研究は同時に5〜15人の赤ちゃんをテストしただけであった。EWGの最新の報告書(訳注1)では人種及び少数民族グループからの10人の新生児のへその緒中に232化学物質を見出している。

 臍帯血測定は、新生児が初めて呼吸する以前の化学物質暴露に最も敏感な期間に何に暴露していたかを示すものである。

 ”我々が知りたいことは、母親及び幼児の体内で起きている化学物質暴露のレベルである”とCDCの環境健康の実験科学部門の主任医学官ジョン・オスターロは述べた。彼はCDCの暴露報告書を担当している。

 パイロット・プロジェクトでテストされるべき化学物質の数はまだ決定されていない。しかし、担当官らは、消費者製品に使用されておりおり、胎児の発達の阻害に関係しているフタル酸エステル類や過フッ素化合物が含まれるであろうと述べた。

 ”糖尿病の子どもたちのグループとそうではないグループに分け、化学物質Xが糖尿病でないグループより糖尿病のグループの方に多く見つかるかどうかを調べると”と調査官は述べた。

 すでに多くの科学者が疾病との関連を探すためにバイオモニタリングにアクセスしている。

 昨年、イギリスの研究チームが、ポリカーボネート・プラスチッのボトルや食品缶詰のライニングに用いられているビスフェノールAの尿中レベルが高い人々は心臓血管疾患と糖尿病になりやすいと報告した。この発見は1,455人のアメリカ人のバイオモニタリンに基づいていた。

 ひとつの目標は、健康問題を引き起こすかもしれない暴露を防ぐためのデータとして単に特定するだけでなく、GAOの今年4月の報告書によれば、EPAはこのデータを使用してヒト暴露を低減したいと望んでいる。

 GAO報告書は、”EPAはバイオモニタリング研究を統合する又はバイオモニタリングデータを化学物質リスク評価プロセスに統合するための調整された戦略をまだもっていない”と述べた。

 同報告書はまた、バイオモニタリングは、ある人が化学物質に暴露しているということだけを明らかにし、その化学物質がどのようにしてその人に到達したのか? 食物、大気、水、その他の媒体? ということについての情報がないと言及している。この情報がないことが規制の取り組みを阻んでいる。

 2006年全米研究協議会(National Research Council)委員会は、体内の化学物質を検出する能力は”健康リスクを解釈する能力に勝っている”と言及している。そして GAO 報告書は、人体内に見出されるレベルは懸念をもたらすかどうか調べるためにもっと多くのデータが必要であり、またEPAは化学会社にそれを提供させる能力がほとんどないと指摘した。

 ”市場にある多くの製品が安全データがないかほとんどない化学物質を含んでいるということは残念な現実である。もしバイオモニタリングが人々はほとんど評価がなされていない化学物質に暴露しているということを示すなら、緊急にそれらの潜在的な毒性を理解する必要があることは明らかである”と環境団体から基金を受けている研究組織であある科学と環境健康ネットワーク(SEHN)のテッド・シェトラーは述べている。

 しかし、バイオモニタリングは貴重ではあるが限界もあるとシェトラーは指摘する。それらの主要なひとつは、車の排気ガス中に存在する有毒汚染物質であるベンゼンのような短い半減期の化学物質を測定する場合の信頼性である。

 CDCのテスト用に選定された化学物質は、疑われる健康影響の深刻さと米国民が広く暴露していることなど2〜3の要素からなるとオスタローは述べた。

 全米研究協議会の報告書は、”ある化学物質をバイオモニタリング研究に含めるるのか含めないのかの選択のための調整され一貫した公衆の健康に基づいた戦略がない”と述べてそのアプローチを批判した。

 しかし、ブルケは改善されたと見ている。彼は、CDCには、化学物質の”広範な間口と包含があると述べた。しかしまだ、”今日の公衆健康の懸念に関して十分なデータがないという懸念は常にある”。

 溝を埋め政治的行動に拍車をかけるのに役立てるために、エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)やその他の環境団体は自分達自身でバイオモニタリングを実施している。EWGは、CDCが求めようとしているもの2倍以上である400以上の化合物を人体から検出している。2005年に同グループは10人の赤ちゃんについての自身のテストで300近くの化学物質を検出した後、CDCに臍帯血のテストを開始するよう求めた。

 欧州議会の議員やビル・モイヤーズやアンダーソン・クーパーなどのジャーナリストを含む何人かの有名人がこのテストを受けた。

 科学者らは、もっと多くのデータが収集されれば、人への健康影響をもっとよく理解することができると希望を述べた。

 化学産業界は人体内に化学物質の痕跡を見つけることは健康リスクがあることを意味しないと強調した。ブルケは、人々が体内にもっと多くの化学物質が存在してから警告されるのでは遅すぎると述べて同意した。

 しかし、『失われし未来』の共著者であるテオ・コルボーンはバイオモニタリングは低用量暴露と健康影響との間の関係がすでに存在するのだから極めて重要であると述べた。

 ”我々は、野生生物や実験室で起きていることから多くの情報を持っている”と1990年代に環境汚染がホルモンをかく乱することを発見した科学者として賞賛されるコルボーンは述べた。”もしこれらの化学物質が存在する時には問題があるということを我々が野生生物や実験室の動物から知らされていなければ、これらの化学物質を探すこすらしなかったであろう”。

 CDCのバイオモニタリング・データは研究者らが年齢及び人種ごとに脆弱な集団を探すことを可能にする。

 たとえば、2003年報告書は、メキシコ系アメリカ人はアフリカ系アメリカ人や非ヒスパニック系白人より農業用農薬への暴露が著しく高いことを示した。そして2005年の報告書によれば、子ども達は多くの化学物質について成人より高いレベルで暴露していた。

 1999年にさかのぼって人々から収集されたデータもまた、どの化学物質暴露が増大しており、どれが減少しているかを示している。

 しかし地域的な情報は欠如している。

 ”各州は州特有のデータ又は共同体特有のデータを持っていない”と、データのギャップを埋めるために2006年に立法化されたカリフォルニア州バイオモニタリング・プログラムを展開しているカリフォルニア州環境健康調査所の科学者ダイアナ・リーは述べた。

 このプログラムのための資金は限られているが、同州はパイロット研究を開始しているとリーは述べている。その目標は、人々の健康に対するリスクをもっと正確に決定するであろう追加的な研究調査に使用することが出来るカリフォルニアに特有な情報を提供することであると彼女は述べた。


訳注1:EWG Report
訳注:参考情報


化学物質問題市民研究会
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