グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2014年1月8日
金がものをいう時

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
When money talks, 8 January, 2014
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2014/01/when-money-talks/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2014年10月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/When_money_talks.html

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【2014年1月8日】先月、カリフォルニア州高等裁判所の判事による少し注目されていた予備判決は、鉛塗料製造 3 社が鉛白(訳注1)及びその他の鉛含有の塗料で塗られた家屋での鉛暴露の危険性を除去するために11億ドル(約1,200億円)の基金を創設するよう命令した。最終判決は昨日出された。それは、ロサンゼルス、サンディエゴ、及びサンフランシスコを含んで10の市と郡の子どもたちにとってためになるであろう。基金は、検査、鉛塗料除去、そして有害な塗料が塗られていた家屋の修理を含む。

 この裁判は13年間続いた。最終的に判事は(この裁判で3人目)は、鉛含有塗料がその有害性を良く認識されていたのに、それを市場に出して販売して公衆に危害を引き越したことについて塗料製造者に責任があることを認めた。

 実際に、3社のうちの 1 社のメモは、既に1900年に鉛を”致死的に蓄積する毒物”として記述していた。判事ジェームス P. クラインバーグにより結論付けられたように、鉛の毒性に関する知識は、”各被告人に家庭用途の鉛顔料及び/又は鉛塗料の促進と販売を止めさせるべきものであった。しかるに、鉛塗料に関連する危険性を認識するようになった後も彼らは販売し続けた”。

 州と自治体は過去の有毒塗料使用に関連する費用について塗料製造者を訴えていたがこの決定は、20年以上の間の約50の訴訟の中で塗料製造者の最初の敗訴である。ロードアイランド州は 2006年に勝訴したが、塗料製造者の上訴により敗訴した。産業側は抵抗することが予想され、カリフォルニア州高等裁判所の判決を上訴することを検討するであろう。

 外部の観察者にとって、有毒製品の製造者が人々の家からそれを除去するための費用をカバーすることを逃れることができると言うことは不当であるように見える。防衛戦略の一環として産業側は、鉛塗料はいくつかある鉛暴露のうちのほんのひとつであり、どのような危険性も誤った使用か保守の欠如のためであると主張している。産業側は、この弁護に様々な専門家の支援を求めた。

 先月には、非常に尊敬されていた研究者についての悲しいニュースがもたらされた。パトリシア・バッフラーは、国際的に尊敬された主に小児がんに関する研究者であった。バッフラー教授は、カリフォルニア大学バークレー校の学部長を務め、広く称賛されていた。バッフラー博士は、米国医学研究所のメンバーであり、米国科学振興協会の特別研究員であり、米国疫学会の名誉会員であった。彼女はまた、疫学分野の3つの学会の会長を務めた。これらの感銘的な業績の全ては、彼女がいかに尊敬されていたかを示すものである。それにもかかわらず、昨年9月の彼女の死の後に、いくつかの驚くべきニュースが明らかになった。

 この鉛訴訟でバッフラー博士は、この有毒塗料を市場に出していた3つの会社のために専門家証人を務めた。バッフラー博士は、古い家屋内の鉛ベースの塗料は子ともにほとんどリスクを及ぼさないとし、現場で研究を実施してきた同僚らにより強く指摘された意見とは全く対照的な結論を主張した。時間当たり600ドル(約65,000円)のバッフラー博士は過去3年間のこの裁判への取組みで360,000ドル(約約3,900万円)の報酬を得ていた。判事はバッフラー博士の主張を退けた。

 バッフラー博士はまた、ダウケミカル、デュポン、ユニオンカバード、シェル石油、グッドイヤー、アトランティック・リッチフィールドなど数多くの主要産業のコンサルト業務を行っていた。バッフラー博士はまた、30億ドル(約3,300億円)の農薬企業である FMC 社の重役を務めた。その重役としの彼女への報酬として同社は株を与え、彼女はそれで200万ドル(約2億2,000万円)以上の利益を得た。バッフラー博士の重役としての仕事は、農薬曝露が及ぼす子どもの白血病に関するバークレーにおける研究と並行して行われた。

 同僚らはこれらの暴露により気絶しそうになった。信頼されていた同僚が、学部長、連邦政府の助成金を得た研究の主要研究者、若い同僚の指導者を務めると同時に、彼の同僚の研究について疑義を提起する既得権益のための専門家を務めることなど、どうしてできるのであろうか? 金がものをいう時には、我々はその脈絡を確認した方が良いように見える。


訳注1鉛白 - Wikipedia
 鉛白(えんぱく、White Lead)は古代から使用されてきた白色顔料で、組成は塩基性炭酸鉛 2PbCO3Pb(OH)2である。現在では油彩用顔料として使用されている。毒性があるので、長期にわたる皮膚などからの摂取には注意を要する。



化学物質問題市民研究会
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