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Chemical Brain Drain - News 2015年7月6日 脳の値段 情報源:Chemical Brain Drain Website - News 6 July 2015 The price of a brain By Philippe Grandjean, MD http://braindrain.dk/2015/07/the-price-of-a-brain/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2015年7月11日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/The_price_of_a_brain.html
CNN(ニュース)は、”最高裁は EPA が大気浄化法を”不適切に解釈したと判断を下した”のだから、この裁定は、”オバマ政権の敗北”であると説明した。それは真実かもしれないが、話はそれが全てではない。良いニュースは、EPA は数か月先には規則制定の正当性を見直し、修正しなければならないが、水銀規則はさしあたり有効であるということである。それから、下級裁判所が EPA は規則のコストと便益を適切に考慮したかどうかを審査しなくてはならないであろう。この規則はすでに、水銀汚染の低減をもたらしており、これらの便益は後退させることはできないし、そうされるべきではない。 しかし、その便益はどのくらい大きいのであろうか? 良いニュースは、(EPA はこれが良いニュースであるということには同意しないであろうが)、実際に、EPA は、次世代の脳を水銀から保護することの便益を計算する時に、重大な失敗をしたということである。現在、我々が知っている全てのことから、EPA の数値は全体的に過小である。そこで最高裁の裁定は EPA の水銀汚染の規制への妨害 (妨害する:レンチを投げる throws a wrench) であるとする見方もあるが、最新の計算は EPA がより強い措置ですらとることを潜在的に正当化するであろう。 この種の経済的な計算には、Wired の記事に示されるようにいくつかの複雑さがあるので、便益の見積りは一夜にして更新できるようなものではない。それでもまだ、EPAが頼ることのできるいくつかの発表されている報告書がある。既に10年前にニューイングランド州が後援した報告書;火力発電所による汚染を防止するための投資は実行可能であり採算性があることを示した経済性評価がある。その健康経済学者らは石炭火力発電所からの水銀暴露に起因する IQ 損失は、年間7,500万ドル〜1億9,400万ドル(約90億円〜230億円)のコスト損失を社会にもたらすであろうと計算した。しかし、経済学者らは、母親の毛髪中の水銀濃度の増加 1 ppm 毎に、子どもの IQ 低下 0.6ポイントを引き起こすというフラット用量反応曲線を用いた。この計算は、後に脳毒性が過小評価されていることが判明したセイシェル諸島のデータ(訳注1)の一部に依存した。 その後の調査でより良いデータが適用され、コストは著しく上昇した。その主な理由は、水銀毒性の容量依存に関するより良い情報が利用可能となったためである。最も新しい計算は、アメリカにおける現在のメチル水銀暴露は、年間 264,000 IQ ポイントの損失に関連するということを示唆している。火力発電所がアメリカにおける主要な水銀汚染源なので、IQ 損失の多くは汚染削減により回復することができるであろう。 それではそのような IQ 損失は社会に対してどのくらい価値を減ずることになるのであろうか? 経済学者らは、IQ (平均 IQ)に依存する生涯の収入に関する情報を使用することを提案している。実際に IQ の 1 ポイント増加は、少なくとも収入の 1 パーセントに関連する。現在の手持ちのお金は、将来のある時の同額のお金より価値があり、従って将来の収入は(例えば年間3%)割り引かれるので、加算される。従って総計では、IQ の 1 ポイントは約18,000ドル(約220万円)に値する。従って、年間の IQ の損失が 264,000 ポイントなら、水銀の脳汚染によるアメリカの年間経済損失は約50億ドル(約6,000億円)になる。もう一度言うと、その多くは石炭炊きによる水銀のためである。 50億ドルは、EPA自身の見積金額(400〜600万ドル)より1,000倍高い! 米EPAが、最高裁が批判した間違いの見積もりを正すのに役立つだれかの見事な頭脳に相談できれば幸いである。そのことは、最高裁の裁定を大きな勝利にくつがえし、レンチを汚染者に投げ返すことになるであろう。 訳注1:参考情報 魚介類とメチル水銀 (フェロー諸島とセイシェル諸島の水銀調査) 訳注:参考情報 2014年5月2日 米国:石炭関連規制を巡る裁判の動向 |