グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2017年2月28日
脳汚染物質を優先づける

情報源:Chemical Brain Drain - News, 28 February 2017
Prioritizing brain drainers
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2017/02/prioritizing-brain-drainers/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年4月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Prioritizing_brain_drainers.html

Yes_No.jpg(5123 byte)
【2017年2月28日】 アメリカの規制機関である食品医薬品局(FDA)は、昨年末に医師と科学者に不意打ちを食らわせた。食品医薬品局(FDA)は、3歳以下の子ども又は第三期(妊娠末期)の妊婦に対して外科手術の間に一般的な麻酔薬や鎮痛薬を繰り返し又は長期に使用すると、子どもの脳の発達に有害影響をもたらすかもしれないと警告した。

 当ウェブサイトの読者は、高用量では脳に継続的有害影響を及ぼすことができる物質に依存している麻酔薬のリスクの可能性について良く知っているであろう。深鎮静(deep sedat)(訳注1)だけを引き起こす少量なら、他に医学研究からの利用可能な証拠はないので、しばしば安全であると見なされている。長期的又は繰り返しの麻酔からの有害影響はサルで行われた研究で支持されている。しかし、臨床研究はもっと不明確であり、文書化するのが難しい。そして先天性心臓疾患や外科手術が命を救うような深刻な状態の子どもの命を救いたいと望むときには、他に代わりの方法がない。

 FDA の決定は医療従事者にとって驚きであった。FDAはなぜ、もっと明確な化学的脳汚染物質のあるものにではなく、不明確な (そして多分非常に小さい) リスクをともなう重要な麻酔薬に焦点を当てるのであろうか? 麻酔薬の代替は現在、現実的ではないにもかかわらず、それは予防原則の適用の様に響く。加えて、多くの脳に有害な化学物質が FDA の権限内に存在するにもかかわらず、FDA が保持するものは、公衆と発達中の脳の保護に関する完全な記録とはほど遠く、予防的な記録ではないことは明らかである。最近の事例は、ヒ素汚染のライスケーキ、又は農薬が残留する赤ちゃん用食品である。FDA は、次世代の脳を安全にするために何をしてきたのか? 多くのことをしていない。水銀汚染の魚を考えてみよう。長い議論の末に、FDA は先月、健康的な魚と海産食品の摂食について消費者のための新たな助言の方法を決定した。緑、黄、赤。忙しい消費者にとっては非常にわかりやすいアプローチであるが、FDA は、計算上、小さなマグロ(時には jackfish と呼ばれる)は、少なくともアメリカの消費者の4分の1 に水銀暴露を引き起こしており、(またオメガ3脂肪酸(訳注2)の含有はマグロを特別扱いするほど高くないにもかかわらず、)マグロの缶詰を魚の最良の選択(緑)のひとつとしてリストした。

 それでは、プラスチック容器や食品缶詰の内面ライニングからから漏れ出すことができる物質、BPA についてはどうか? FDA は、BPA の人間のホルモンへの影響を調べるために研究が行われている途上なのに、”低レベル”のBPA 暴露は安全であると 信じている。だから、それらが確かに安全ではないとわかるまで、その暴露を許すべきことは明白であるとしている。それではフタル酸エステル類はどうか? それらは、ほとんどどこにでも存在する食品包装に用いられるプラスチック添加物である。まずいことに FDA は20万人の消費者から行動を起こすよう要請を受けた後でさえ、行動を起こしていない。

 汚染ライスケーキ(餅)に対する強い行動、食品容器で使用されるプラスチック物質の廃止、そしてマグロを避けるための忠告は、広い範囲の支持を得ている一方で、麻酔薬はもっと危機にさらされている。

 年間、推定 150万人から 200万人のアメリカの 3 歳以下の子どもたちが、麻酔を必要とする外科手術を受けている。治療の多くは子どもが 3歳になるまで待つことができない。少数の代替物質としてアヘン由来の鎮痛剤があるが、それらは一般的な麻酔薬としては不十分である。ニューイングランド医学ジャーナルに書いている医師らは今月、発達中の脳の保護に賛成しているが、魅力的な代替が存在しない状況下で、両親や医師仲間と麻酔について議論することを強いられるのは居心地が悪るそうだ。

 我々は、FDA が麻酔薬について、とりあえず低姿勢を保ち、その代わりに数百万の発達中の脳への計り知れない利益をもたらす容易に解決のできる何かに焦点を合わせるよう提案してもよい。


訳注1:深鎮静(deep sedation)
訳2:オメガ3脂肪酸


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る