グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2015年1月15日
フタル酸エステルの問題

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
15 January 2015
Phthalate trouble
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2015/01/phthalate-trouble/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年1月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Phthalate_trouble.html

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【2015年1月15日】 化学物質脳汚染の新たな原因が出現した。フタル酸エステル類である。これらの物質は、多くの種類のプラスチック、また子ども用おもちゃ、化粧品、医療器具のような様々な製品への添加物としての用途に大量に生産されている産業化学物質である。我々は全て、フタル酸エステル類に暴露している。これらの化学物質の約12種が一般的に使用されており、その中にはフタル酸ジプチル(DBP)がある。それらは材料に柔軟性と耐久性をもたらすが、それらはプラスチック化学物質に結合することはなく、したがって、例えば食品容器材料から漏れ出すかもしれない。最近のレビューで、フタル酸エステル類は潜在的な脳汚染物質であると考えられるようになった。

 過去数年間に証拠が蓄積し、さらに新たなひとつの研究訳注1)が著しい重みを加えている。ニューヨークの 7 歳児 328 人が IQ テストを受け、その結果が母親のフタル酸エステル類への暴露と比較された。出生前暴露は、1998年から2006年の間に妊婦の尿中の分解物質から決定された。調査対象の全ての母親は 非喫煙者であり、研究者らは多数のリスク要素を照査した。子どもたちは、母親が妊娠中により多くのフタル酸エステル類に暴露していると脳機能が低下する傾向を示した。母親のフタル酸ジプチル(DBP)とフタル酸ジイソブチル(DIBP)の尿中レベルが最も高いと子どもたちは、母親の尿中のこれらの化学物質のレベルが最も低い子どもたちより知能指数(IQ)が約6〜8ポイント低かった。能力の欠陥は、情報処理スピード、非口述情報の理解力、及び短期的記憶力にも見られた。

 もちろん弱点や不確実性はあり、従って著者らはそれらを可能な限り注意深く照査した。最も重要なことは、子どもたちの出生前暴露は、妊娠中の母親から収集された単一の尿サンプルだけから得られたということである。フタル酸エステルの排泄分解物は変化することが知られており、従って単一サンプルでは、子どもたちのこれらの化学物質摂取の正確な測定とは言えない。しかし、この種の検査は一般的に真の影響の過小評価を引き起こす。従って、暴露レベルに関する不完全な情報にもかかわらず、この研究が強い否定的な IQ 影響(低IQ)を検出することができたということは驚きであり、懸念でもある。

 フタル酸エステル類は、潜在的な脳汚染物質であるだけでなく、ホルモン機能を阻害する内分泌かく乱物質であるとも考えられている。そのために、現在EUではその使用の制限が検討されている。既に子ども用のおもちゃと布製品出の使用は禁止されており、あるフタル酸エステル類は化粧品中でも禁止されている。EU 加盟国の圧力を受けて、EU の化学物質庁(ECHA)は、フタル酸エステル類を”高懸念物質”として管理することを計画しており、欧州委員会(EC)は、暴露を制限するために追加的なメカニズムを採用しつつある。フタル酸エステル類を含む製品はこの影響について通常表示しておらず、消費者への助言は、プラスチック容器入りの食品を電子レンジで加熱することや香気入りの身体手入れ用品を使用することは回避すること−というような、非常に一般的なものである。レベル表示 3, 6, 7 のリサイクル可能プラスチックはフタル酸エステル類を含有しているかもしれず、ガラス性容器が推奨される。

 これら助言や規制行動が、次世代の脳のために安全なレベル以下に暴露を下げるのに十分かも知れないし、不十分かもしれない。問題は、現在の研究がこの特定の情報を提供することができないことである。不確実性があるなら、行動は慎重な考慮に基づかなくてはならない。フタル酸エステル類の問題は実に厄介である。


訳注1:関連情報
AFP2014年12月12日 妊婦のプラスチック化学物質への暴露、子どもの知能指数低下と関連か 研究


化学物質問題市民研究会
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