グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2014年8月11日
鉛汚染者 刑務所へ

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
Lead polluters jailed, 11 August 2014
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2014/08/lead-polluters-jailed/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2014年8月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Lead_polluters_jailed.html

sGas_nozzle.jpg(12054 byte)
【2014年8月11日】先週、世界で唯一残存するガソリン鉛添加剤の製造会社イノスペック社の3人の重役が懲役刑の判決を受けた。彼らはそれぞれ、18カ月から4年の懲役刑に服するであろう。かつてのオクテル社(Associated Octel Ltd.,)として知られている同社自身は、2010年にイラクとインドネシアの政府高官にわいろを贈ったことを認め、1,270万ドルの罰金刑を受けていた(“Only one chance”の第8章を参照)。

 そのわいろは、ガソリンのオクタン価向上剤としてのテトラエチル鉛(TEL)の供給契約を確実にしてもらうことの報酬として意図されていた。鉛汚染された車の排気ガスは、脳が発達中の全ての世代を、最も有毒な脳汚染物質のひとつに暴露させてきた。アメリカでは1970年の大気浄化法の制定を受けて、鉛含有ガソリン添加剤の廃止を1973年に開始し、それ以来、テトラエチル鉛(TEL)は世界のほとんどの国で禁止された。

 この問題は、イラクにおける石油食料交換プログラム(訳注1)に関する不正についての国連の調査に関連して明らかになり、イノスペック社がイラクに対する国連の制裁に違反し、汚職に関与したとする証拠が示された。同社は、イラクとインドネシアの両国で計画された加鉛ガソリン禁止を数年遅らせるために政府高官にわいろを贈ったことを認めた。これらの発展途上国への鉛添加剤の輸出総額は、約18億ドルであり、その3分の1以上が利益であった。そのような利益に比べて、法廷により科せられた罰金は些細な額のように見える(アメリカにおける追加的罰金は未決定)。

 3人の懲役刑に加えて、罪を認めているもう一人のイノスペック社取締役は、16カ月の執行猶予と300時間の地域社会活動義務を課せられた。アメリカでは、イノスペック社代理人が不正送金及びその他の違反への関与の謀議について以前に罪を認めており、米・証券取引委員会による訴訟で2011年に30か月の懲役刑を受けた。

 イギリスの判事ゴイマーは、”これらの被告たちはだれも、不正行為又は暴力の罪を犯す共通の犯罪者として同じカテゴリーに自身が入るとは考えないが、公衆の生命への影響、地域社会への影響、及び特にこの汚職の環境への影響には、現実の危害が存在する”と述べている。

 法廷の審判に基づき、イノスペック社の副社長ブライアン・ワットは、彼の会社は自動車ガソリンのためのテトラエチル鉛(TEL)を一か国だけで販売を続けていると述べた。それはアルジェリアであり、同国はその使用を2015年に廃止することを計画している。国連環境計画から入手可能な最新のデータ(2011年)によれば、イラク、アフガニスタン、アルジェリア、ミャンマー、北朝鮮、及びイエメンでは、エンジンノッキング防止のために、車とトラックにテトラエチル鉛(TEL)を添加したガソリンを合法的に使用することができた。しかし、イノスペック社は、同社は世界で唯一残存するTELの製造者であると主張しているが、ハフィントン・ポスト(Huffington Post)は、中国及びその他における潜在的な製造者についての未確認情報に言及している。

 テトラエチル鉛(TEL)は唯一の鉛暴露源ではなく、他の製品もまた、この有毒な物質に発達中の脳を暴露し続けている。非営利団体 Occupational Knowledge International の代表であるペリー・ゴッテスフェルドは、発展途上国で売られている塗料中の高濃度の鉛を明らかにした。彼は、米国の会社が所有している鉛ベースの塗料製造会社が少なくとも一社、海外にあることを見つけた。ハフィントン・ポストに対してゴッテスフェルドは次のように述べた。”加鉛ガソリン産業と加鉛塗料産業の歴史的な行動を見れば、そこには類似性があることがわかる。それは、彼らがいかに鉛の使用を支えてきたかという点から、長く不毛な歴史であった”。


訳注1:石油食料交換プログラム - Wikipedia
 1995年に国際連合が国連安保理決議986に基づいて行い 、2003年末頃終了したプログラムである。このプログラムは、イラクが軍隊を再構築することなく、食品・医薬品その他のイラク市民にとって人道的に必要な物資と交換に、イラクが石油を輸出できるようにすることが目的であった。このプログラムが終了してから、プログラムの資金に関する汚職が明らかになった。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る