グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2017年2月13日
有機食品は子どもたち脳のためにより良いのか?

情報源:Chemical Brain Drain - News, 13 February 2017
Is organic food better for new brains?
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2017/02/is-organic-food-better-for-new-brains/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年3月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Is_organic_food_better_for_new_brains.html

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【2017年2月13日】 その答えは簡単であろう。もちろん、有機食品は優れている。しかし注意もまた、必要である。まず研究結果を見てみよう。それらは最近、欧州議会の要求によってひとつの報告書にまとめられた。381の文献をレビューして88頁にまとめられた研究の中で、EU の4か国からの研究者らは、有機食品の潜在的な人間の健康利益と有機飼料による間接的利益、並びに生産方法を含んで、様々な話題を含めた。

 農薬残留に関連するリスクは、良く知られており、我々はこの問題については近いうちに立ち戻るべきであろう。有機食品の摂取は、アレルギー性疾患や肥満、糖尿病などのリスクを減らすというような追加の利益があるかもしれない。しかしその証拠は、有機食品を食べる人たちは全体としてより健康的な生活様式を持っているので、決定的ではない。そうはいっても、いくつかの実験的研究は、有機生産又は従来の生産からそれぞれ同等に配合された飼料を給餌された動物は、早期の発達に差異を示すことを示唆した。これらの結果が人の健康にも該当するのかどうかはわからない。

 ひとつの可能性は有機作物と従来型作物の組成が異なるかもしれないということであるが、その証拠もまた限界がある。有機の果実や野菜中のフェノール化合物の含有がわずかに高くても、おそらく重要ではない。同様に、有機の牛乳や乳製品はしばしば、従来製品に比べてオメガ3脂肪酸(訳注1))の含有が高い。しかし我々の重要な脂肪酸の主な摂取源は海産物及びある種のナッツとオイルであり、有機乳製品からのわずかな摂取は人間の健康への関連性にとって無視できるものである。もっと重要なことは、従来の栽培法の穀物に使用される鉱物肥料に由来するカドミウムの摂取であるが、研究結果の裏付けは決定的ではない。さらに、抗生物質耐性の重要な要因としての従来の畜産手法における抗生物質の広範な使用に対し、有機手法における抗生物質使用の制限はもう一つのありそうな長所である。

 農薬に話を戻そう。有機農法では、農薬の使用は制限される。硫酸銅(訳注2)及びシトロネラ(訳注3)は、EU の有機農法規制により認められている。それらは健康への懸念がほとんどない。有機農産物中の、さらには赤ちゃん用食品にすら、農薬含有に関する報告が時には見られるが、それはおそらく不正なラベル表示に基づくものであろう。

 農薬への主な暴露源は従来農法の果物や野菜中の残留農薬である。このことは、調査過程で従来食品から有機食品に変えた被験者の変更前後の尿分析に基づく暴露レベルに関するいくつかの研究で明らかである。いくつかの疫学的研究が、母親の妊娠中の農薬暴露に関連して、ある種の農薬への曝露が子どもの認識能力の発達に有害影響を及ぼすことを報告しており、また実験的研究がこの証拠を支持している。それでも現在の暴露は一般的に安全であると規制当局によって見なされている。しかし、食品中の農薬残留の制限値は、単一化合物の動物テストだけに基づいており、例え、げっ歯類がテストに含まれていても、脳の発達に及ぼす有害影響に関してげっ歯類の脳は人間の脳よりはるかに単純であり、我々よりはるかに感受性が低い。従ってその報告書は妊婦が有機果実や有機野菜を摂ることを推奨している。

 欧州議会への報告書は、いくつかの政策オプションの概要を述べている。有機農業の適用はある長所を持っているが、例えば総合的病害虫管理手法(訳注4)を用いて従来の農業を変えることにより、ある程度、達成されるかもしれない。

 その報告書は最近、ハーバード大学のウェブページで特集され、フェースブックにいくつかの反対意見が(もちろん多くの賛成意見も)投稿された。確かに有機食品はしばしば割高であり、現代的な化学物質支援による農業よりも効率は悪い。しかし、次世代の脳を農薬から守るための科学者らの勧告がなぜ議論になるのだろうか? 今後どのように進めるを見つけ出すのは欧州議会次第である。


訳注1:オメガ3脂肪酸
訳注2:硫酸銅
訳注3:シトロネラ
訳注4:総合的病害虫管理(IPM:Integrated Pest Management)



化学物質問題市民研究会
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