グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2013年7月29日
脳はどのように汚染されるか

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
How the brain is drained, 29 July 2013
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2013/07/how-the-brain-is-drained/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2013年8月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/How_the_brain_is_drained.html

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 有害化学物質に暴露すると多くの生物化学的プロセスはよくない結果をもたらすことになる。これらの逸脱のあるものは短期間しか持続しないかもしれないが、脳が急速に発達する時に生じた影響は、継続する結果をもたらすかもしれない。例えば、 もし脳細胞の遊走(migration of brain cells)(訳注:参考情報)が停止したら、例えその化学物質の干渉がすでになくなっていても、脳の構造は異常をきたすかもしれない。しかし化学物質が脳細胞中のDNAに干渉するなら、生物化学的影響は長く持続することがあり得る。突然変異ではなしに、ある環境化学物質はDNAのメチル化パターンに干渉することが知られている。染色体に沿った重要な領域にあるメチル基がある遺伝子を活性化させるかどうかを決めるので、そのような変異はきわめて重大である。

 DNAのメチル化は、脳の発達のために、また学習と記憶の基礎となる柔軟性のために重要であると考えられている。ある国際的な研究グループが、人の脳及びマウスの脳の前頭皮質中のDNAメチル化に関する詳細を最近発表した。彼らは、メチル基の広範な再配置が、胎児期から若い成人期までの成長の過程で生じること示した。神経細胞中のメチル化パターンは他の細胞とは異なり、メチル基の位置がおそらく脳の機能にとって重要である。

 これらの結果は、化学的脳汚染(chemical brain drain)の観点から興味深い。鉛やその他の金属、大気汚染物質、タバコの煙、多環芳香族炭化水素、内分泌かく乱物質のような脳毒化学物質(brain-toxic chemicals)は、様々な細胞の中でDNAメチル化に影響を及ぼすことはすでにはっきりしている。これが有害化学物質により脳が汚染されるメカニズムなのであろうか? 組織サンプルは簡単には得ることができず、組織バンク(銀行)または解剖から得なければならないということもあって、人の脳に関する研究は非常にわずかしかなされておらず、現時点ではこの疑問に正しく答えることはできない。

 しかし、この仮説を支える間接的な証拠はある。DNA化学は、自殺完遂者46人及びその他の理由で死亡した16人の比較参照者の脳で検証された。脳の海馬中に、研究者らは、ふたつの対照群中で異なってメチル化されている合計366の重要なDNA領域、いわゆるプロモータ(訳注:転写(DNA からRNA を合成する段階)の開始に関与する遺伝子の上流領域:ウイキペディア)を見つけた。これらの領域の約4分の1は、自殺完遂者ではメチル化が少なく、残りの領域がメチル化が多く、それによって認識プロセスに関与する遺伝子影響を与えている。これらの結果は、発達初期に起きるメチル化の変化はDNAの再プログラミングをもたらし、それにより行動、気分、及び自殺リスクの再プログラミングをもたらした可能性がある。

 残念ながら、DNAメチル化の変化は容易には元に戻すことができないが、この最近の研究は、化学的脳汚染が脳の発達に極めて重大な永続する影響及ぼすメカニズムを示唆している。



化学物質問題市民研究会
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