グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2013年8月15日
遺伝子は脳を傷つけやすくすることができる

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
Genes can make brains vulnerabled, 15 August 2013
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2013/08/genes-can-make-brains-vulnerable/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2013年8月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Genes_can_make_brains_vulnerable.html

DNA-blue-186x133.jpg(4045 byte)
 簡略化するために、研究者らはしばしば、我々は全て、ほとんど均等に有害化合物にぜい弱であると仮定する。そこで我々は、脳の汚染影響の平均的なリスクを計算し、10倍以上のぜい弱性を持つ人がいるなどとは考えない。この仮定は一般的に規制機関により作られているが、我々はもっと大きなぜい弱性が起きているのではないかと疑っている。しかし、現在までのところ、散発的な報告があるだけである。

 アメリカの研究者らは、なぜ、他の人々は影響を受けることがないのに、ある人々には歯の詰め物の水銀アマルガムに関連する脳神経学的症状がでるのか不思議に思ってきた。それは、ある人々は歯の詰め物から放出される非常に微量の水銀にも感受性が高いからと言えるかもしれないが、それでは他の人々はどうなのか?

 歯科医や歯科補助者らのある研究によれば、対象者に代謝遺伝子の変異があると、脳神経学的能力の欠陥が最もしばしば生じ、またある研究によれば、ある重要な脳の酵素に信号を送るある遺伝子中に変異がある人々に症状がでる頻度が増大する。ある報告書は、金属結合メタロチオネインの生成(訳注1)に関与する遺伝子の変異は、子どもの水銀アマルガムからの有害影響への感受性を高めるかもしれないことを示している。これらの研究は、我々全てが、水銀蒸気への感受性が同じであるというわけではないことを示唆している。

 他の新たな研究は、遺伝子変異はまた、我々が魚や海産物からのメチル水銀にぜい弱となるかどうか決めるかも知れないことを示唆している。グルタチオンと呼ばれる有機分子を規制する遺伝子の変異は、体内の水銀の運命とメチル水銀の保持に影響を与えるが、それはアマゾン川流域のブラジル人の新たな調査で示されるように、これらの変異に依存しているように見える。

 この証拠は現在、イギリスで20年前に生まれた子どもたちの調査に拡大して展開されている。この研究チーム(それにはPG(グランジャン博士)も参加した)は、水銀の脳汚染に関連があるで遺伝子を入念に調べて、特定の場所のひとつ又はふたつの変異が8歳児の水銀に由来する知能の低下に大きく関連する4つの遺伝子を発見した。変異のない子どもたちは、胎児期のメチル水銀曝露に事実上、耐性があるように見えた。この結果は今月のはじめにある会議で発表された (訳注:8月に英国エジンバラで開催された2013年水銀国際会議におけるグランジャン博士のインタビュー録画)。

 これらの発見には、二つの重要な示唆がある。第一は、我々が化学物質の脳汚染のリスク評価を実施する時に、感受性はわずかにしか変動しないとする重大な誤った仮定をしているということである。もし暴露規制が平均的な感受性に基づいて行われるなら、集団の中の相当な数の人々はその規制では保護されないかもしれない。例えば、欧州食品安全機関(EFSA)は最近、最も脆弱な子どもたちは、平均よりも2倍以上ぜい弱であるということはないと結論付けた。この新たな研究は、この仮定が非常に楽観的に過ぎ、多くの子どもたちを危険にさらすかもしれないことを示している。

 第二に、遺伝子的要素は、脳の発達に重要な役割を果たすが、遺伝子だけでは、とみに報告されている最近の神経発達障害の増加を説明することができないということである。また、現在までのところ、非常に少ない症例の割合以上に関わりがあるように見える遺伝子は発見されていない。 全体として、遺伝子的要素は、神経発達障害のすべての症例の30〜40%以上に関与しているということはないかもしれない。したがって、非遺伝子的な環境曝露が原因として関与しているに違いない。この新たな研究は、脳の汚染は特定の遺伝子の変異と相互作用するかもしれないということを示唆している。したがって、将来の調査は、平均的な脳毒性は時には小さく見えるかもしれないが、ぜい弱な部分集団がダメージの矢面に立つかもしれないということを考慮する必要がある。


訳注1:メタロチオネイン関連情報
環境汚染バイオマーカーとしてのメタロチオネインの有用性/佐藤雅彦、遠山千春



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る