グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2015年7月28日
貧困は脳汚染を引き起こすか?

情報源:Chemical Brain Drain - News, 28 July 2015
Does poverty cause brain drain?
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2015/07/does-poverty-cause-brain-drain/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年8月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Does_poverty_cause_brain_drain.html

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【2015年7月28日】貧困は、遅れた又は不十分な脳の発達に関連している。従って、貧しい家庭の子どもたちは標準的な学力テストで点数が低く、彼らの学級や学歴は、富裕層の子どもたちのものより低い。これはごく最近、MRI(磁気共鳴画像診断)による389人の子どもと青年たちの研究によって示されたことである。

 そこで分かったことは、貧困層と中間層の子どもたちの間のテスト点数の差の約20%は、それぞれ前頭部及び側頭部にある前頭葉及び側頭葉と呼ばれる脳の発達が不十分である結果かも知れないことを示唆している。家族の収入が減少すると、それだけ欠陥が大きくなる傾向があるが、大きな影響は最貧家庭、いわゆる貧困レベル以下の家庭のこどもや青少年に見られた。

 ロイターとのインアビューで、この研究の上席著者であるウィスコンシン大学マディソン校のセス・ポラークは、不十分な脳の発達の他のリスク要素を持つ子どもたちは、低出生体重及び注意力問題を持つ子どもたちを含んで、分析から外されたことを強調した。従ってこの研究は大部分、家族の収入が異なるというだけの観点で、アメリカで最も健康な子どもたちを比較している。

 しかし、それは完全に真実であるとは言えないかもしれない。オリジナルの研究データによれば、合計75人の子どもたちが ADHD という診断のために除外されたが、”鉛中毒”のために除外されたのは3人だけであった。除外された多くの対象者数と、総数433人の中から算入された人数を考えれば、この鉛中毒の人数は驚くほど少ない。

 鉛暴露は、この研究の所見に寄与することが出来たのであろうか? 本サイトで以前に議論されたように、就学前の鉛暴露は不十分な学業成績の原因要素であることが十分に報告されている。また、いくつかの研究もまた貧困をリスク要素として特定しているが、鉛暴露は少なくともある地域社会ではもっと重要であるように見える。また、余分な鉛に暴露している子どもたちは、停学を命じられそうなもっと低い暴露レベルの子どもたちの2倍を越えていた。その様な影響は、マサチューセッツで示されたように、従来”低レベル”であるとみなされてきた暴露レベルで起きている。貧困と学校要因を調整する場合でも、小学校の児童テスト点数は血中の鉛濃度が高いと低かった。さらに、子ども時代の鉛暴露が最近は減少してるということは、テスト成績の明確な向上と関連しており、特に低所得の地域社会の子どもたちがその恩恵を受けている。

 環境正義研究が、貧しい地域は大気汚染物質といくつかの化学的脳汚染物質を含む環境有害物質に不均衡に高いレベルで暴露していることを示している。従って、貧しいということは所得が少ないというだけではない。

 考慮される必要があるもうひとつの問題がある。その新たな研究では、MRI 検査で灰白質(gray matter)の容量が小さいということは貧困と関連するとしているが、それは有害化学物質のためではないのか? 実際に、成人の灰白質容量の減少は子ども時代の高い鉛暴露と関連することが報告されている。また、よく使われる農薬クロルピリホスへの胎内での暴露は学齢期の薄い灰白質に関係している。そのような有害物質への発達期の暴露は貧しい家庭の子どもたちにより多いようである。

 従って、貧困と低い学業成績及び少ない脳の灰白質を関連付けているこの新たな研究は、そのような脳汚染を引き起こすのは貧困であるということを証明していない。貧しい家庭の子どもは、空腹であり、疲れているので、学校に行く準備ができていないかもしれないことは事実かも知れないが、子どもたちに満足に食物を与えたり、面倒を見ることができない貧しい両親という事実以上の何かがある。発達中の脳は貧困という環境の下で害を受けやすいが、貧困家庭への社会的な支援は化学的脳汚染物質への暴露を防ぐことにより補われる必要がある。



化学物質問題市民研究会
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