グランジャン博士の化学的脳汚染ニュース 2017年4月12日
リスクを伝える

情報源:Chemical Brain Drain - News, 12 April 2017
Communicating the risk
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2017/04/communicating-the-risk/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2019年7月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Communicating_the_risk.html

【2017年4月12日】本日、米国 EPA 監査総監は、汚染された魚から脆弱な集団を保護するために EPA によって作成されたガイダンスと指導に関する報告書を発表した。手短に言えば、EPA の取り組みは本来あるべきほどに効果的であったとは認められず、また EPA はメチル水銀のリスク評価を更新する必要があることが見いだされたという内容である。これらの発見は驚くベきことではないかもしれないが、それらはより広い展望の中で見られる必要がある。

 今年(2017年)、EPA は FDA と共同で水銀汚染された魚に関する更新された勧告を発表した。その勧告は、食べることのできる全ての魚種を 3つのグル−プに分けた。すなわち、栄養に優れ、リスクが最小な魚種、2番目は制限されるべき魚種、そして3番目は回避されるべき魚種のグループである。魚が大好きな人々には幸いなことに、”良い”魚のグループは市場の 90%近くの魚を占め、それはアメリカ、そしておそらく他の多くの国で一般大衆の水銀曝露の主要な汚染源であるライトツナ缶(びんながまぐろ以外のツナを使った缶詰)を含む。この勧告が有害な水銀曝露からどのように人々を保護しようとしているのかわかりにくい。

  EU におけるアプローチも何も変わらない。欧州委員会は、マグロやメカジキのような捕食性魚種の許容レベルを決定しているが(最近、許容レベルを 1ppm から 2ppm に変更した)、消費者にどのように勧告するかに関しては加盟国に任せている。そのアプローチは、控えめに言っても欧州各国で非常に異なっている。

 別の観点から、ある政府のウェブサイトから隠されているかもしれないその勧告を誰が読むのか? カリフォルニアにいる同僚が最近 eメールで次のように言ってきた。”私は、この”助言”は市場に出ている魚を食べる人々の大部分によって見られることは決してないであろうと、ほとんど断言できる。FDA は、産科医、家庭医、総合内科医らに冊子を手渡すよう頼んでいるのであろうか?エンバイロンメンタル・ワーキング・グループにより最近実施された調査で、週に2〜3回魚料理を食べる女性の 30%以上が EPA の暴露制限(いわゆる参照用量)を超えていた。ヨーロッパ、東アジア、その他どこでも、ある集団は、”悪い”種類の魚を食べて水銀にひどく暴露している。発達中の脳は特に脆弱なので、妊婦を保護することは特に重要である。このことはどのようになされているのか?

 発表されたばかりのある研究が、妊婦が最初の超音波検査のために来院した時に、妊婦に毛髪水銀分析を提案することは十分な効果を上げることを示している。通常の栄養相談に関連して、新たに妊娠した女性に毛髪水銀検査が無料で提供され、3か月後の 2回目の検査のための毛髪サンプルが要求された。最初の検査時には約 5人に1人が非常に高い水銀濃度を示したが、3か月後にはわずか 8%だけが制限値を超えた。この3カ月の間に、魚介類の総摂取量は同じレベルを保たれたが、平均毛髪水銀濃度は 21%減少した。これらの変化は、大型の捕食性魚種(マグロを含む)を避け、その代わりに安全な魚介類を摂るようにとの食事指導と直接的に関連して生じた。我々は、毛髪水銀分析は、約 10ドル(約 1,100円)で行うことができ、事後の事務費やその他の経費を加えても、そのコストは、守ることのできる多くの子どもたちの IQs と比べれば、極めて小さいということを指摘する。これは善意のウェブサイトよりはるかに良いのではないか?

 最近の研究が EPA の安全制限値がは高すぎるということを示唆しているので、水銀曝露を防ぐことがもっと重要である。考慮すべき懸念は、共通の遺伝的差異が発達中の脳に対して水銀を大いに有害にするかもしれないことである。EPA の安全制限に関する決定は 15年前になされたのだから、我々は EPA がその制限値を下方に修正するよう期待することができるのではないか? EPA 監査総監は同じ質問をしており、それに対する EPA の回答は次のようなものであった。”我々は、水銀の健康影響に関する疫学的研究の発表が科学的文献に情報を加えたことを認める。しかし、新たな文献の存在は必ずしも自動的に再評価実施の必要性の引き金になるとは限らない”。

 我々ならもっとうまくできる。


訳注:参考情報


化学物質問題市民研究会
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