グランジャン博士の
化学的脳汚染ニュース 2018年9月
脳汚染と時間尺度

情報源:Chemical Brain Drain - News, September 2018
Brain drain and the time scale
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2018/09/brain-drain-and-the-time-scale/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2019年7月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Brain_drain_and_the_time_scale.html

 このサイトは長い間、活動していなかったが、再び蒸気圧を高めて活動を開始する。圧力を高く保つことは疑うまでもなく良いことであるが、将来の脳の安全もまた、今後数十年間利益を生み出す長期的な投資である。今日は、化学的脳汚染に関してどこからとりかかろうか?

 良いニュースがある。初期の発達期間、特に脳の発達の感受性の高い段階に脆弱性に目を向けた追加的な研究がある。しかし、アメリカ国立医学図書館(National Library of Medicine)の PubMed データベースを利用する時に、その結果はすべてが励みになるというわけではない。

 科学誌中の論文のあるものは、”胎児期(暴露)の遅延的影響(prenatal delayed effects)”と呼ばれる一つの分野に分類することができる(訳注1)。1990年ごろから毎年少なくとも 100の論文が初期の発達期間中に発生した有害物質への暴露の有害影響に焦点を当てている。10年前にはその論文数は 400近くに上昇し、最近 5年間の平均は、若干の減少傾向はあるものの、約 700(下記棒グラフの暗色棒)である。重要なことに、疫学研究で人間への有害影響に焦点を当てた論文の数は増大しており、現在、10年前の 20%レベルから倍増を示している(淡色棒)。しかし悪いニュースは、わずか 12〜24の論文しか、脳に焦点を当てていない(小さい暗色棒)ということである。

 かくして、国立医学図書館の分類は、非常に少ない論文しか人間の化学的脳汚染に焦点を当てていないことを示唆している。それは誇張かも知れないが、しかし、もちろん、もっと多くの研究が必要である。脳毒性は 5月の PPTOX(訳注:妊娠前・胎生期・小児期における環境と発育、健康影響における国際会議)の主要なテーマであった。

 現在までに我々は、脳の発達への[低レベルメチル水銀]用量依存影響(dose-dependent effects)についてはよく知っている。しかし、変性疾患(degenerative diseases)(訳注2)や老化などへの[水銀の]長期的な有害影響についてはどうか? 研究がまだ行われていないので、明らかに我々は多くを知っているわけではない。それは、脳の老化という点で若年期の水銀暴露が無害であるという意味ではない。

 最近発表された論文が水俣病被害者の運命について述べている。彼らは最初に、痙性対麻痺(けいせいついまひ)(訳注3)や精神遅滞とよく似た症状をもって認識能力と運動能力に深刻な影響を被った。現在では患者らは 60歳台となり、急速に衰えており、彼らの多くは車いすの生活を送っている。したがって通常の老化は、犠牲者らにより大きな影響を与えており、それはおそらく、通常の老化に関連する脳中の細胞消失に耐えるための緩衝または確保能力を少ししか持っていないからである。

 そのように、この情報は水俣病の発見以来 60年以上経過してから顕在化してきた。神経毒性影響の我々の認識の遅れは多分、非常に長いのであろうけれども、そのことは我々が処理しなくてはならない時間尺度を強調している。まさに証拠書類作成の遅れのために、介入も同様に、あるいはそれ以上に遅れる。発達神経毒性の生涯に及ぼす影響があるのだから、それを補うために、慎重な防止政策はもっと厳格でなくてはならない。科学的証拠がまだ手元にないという事実は、見るべきものがないということを意味しない。化学的脳汚染にあるような重要な時間尺度は、公衆の健康と健康政策の中にはない。


訳注1:prenatal delayed effects 関連情報
訳注2:変性疾患(degenerative diseases)
訳注3:痙性対麻痺(けいせいついまひ)(spastic paresis)


化学物質問題市民研究会
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