グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2014年1月28日
アルツハイマー病と脳汚染

情報源:Chemical Brain Drain Website - News, 28 January 2014
Alzheimer and brain drain
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2014/01/alzheimer-and-brain-drain/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2014年7月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Alzheimer_and_brain_drain.html

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【2014年1月28日】増大しているアルツハイマー病の発症は遺伝だけでは説明できない。何か環境的要因が関与しているに違いない。例えば、頭部外傷はしっかりした科学的文書により支えられているひとつのリスク要素である。昨日、アメリカの神経学者らのグループが、アルツハイマー病患者及び同等の健康な参照群の血清中における農薬 DDT とその代謝物 DDE の濃度に関する報告書を発表した。彼らは2002 年から 2008 年の間に収集された血清サンプルを用いて、アルツハイマー病患者らの平均濃度は参照群に比べて3.8倍高いことを発見した。この相違は統計的に非常に有意である。

 血清サンプルのあるものは検出限界以下の濃度の農薬を含んでおり、参照群の30%とアルツハイマー病患者の20%のサンプルが測定できないレベルの DDE を含んでいた。かくして、二つのグループ間の相違は、血清中に高い農薬レベルをもつアルツハイマー病患者によってもたらされていた。濃度が上位3分の1にある対象者だけにリスクが増大していることは明らかであった。この結果は脳汚染化学物質DDTによるものである。

 この新たな証拠は、遺伝的リスクの重要性を否定するものではない。約20の遺伝子が晩発性アルツハイマー病のリスク増大に関連していることが知られているが、その多くはリスクに及ぼす影響が小さい。アポリポプロテインE(APOE)の遺伝子だけが共通で強いリスク因子であり、この遺伝子の突然変異はリスクを3倍に増大する。この傾向はまた、昨日発表された新たな研究の中でも明白であった。この新たな研究は、DDT 曝露は APOE 変異が加わって、アルツハイマー病のリスクをさらに増大させることを示した。

 実験的研究は、鉛のような脳汚染化学物質への暴露は遺伝子発現とアルツハイマー病に関連するある蛋白質の生成に影響を及ぼすことができることを示唆している。出生時にへその緒の血液中に高い濃度の鉛を持っていた成人は、アルツハイマー病に典型的なアミロイド蛋白の生成に関連する生化学的な変化を示した。

 もう一つの例として、韓国の最近の研究は APOE 変異の存在がメチル水銀の2歳児の脳発達への有害影響をさらに悪くすることを示した。従って、アルツハイマー病にとって重要なこの遺伝的リスク要素は、すでに脳の発達中に生じているのかもしれない。水銀暴露した人はこの病気に耐える力が小さいのであろうか?それはわからないが、アルツハイマー病は環境化学物質がきっかけとなるかもしれないという仮説は確かにありそうなことである。

 それにもかかわらず頭蓋骨外傷が唯一の確かなリスク要素である。このことは物理的傷害は化学的損傷よりもっと重要だからであろうか? おそらく、そうではない。頭蓋骨外傷に関する情報は、過去の医療歴と病院のカルテから容易に得ることができる。対照的に、脳神経毒化学物質への若齢期の暴露又は他の過去の暴露に関する利用可能な情報はほとんど存在しない。この新たな研究は、DDT−及び特にその分解物質であるDDE−には高い残留性があり、曝露後長い年月、体内に残留するであろうという事実を利用した。研究者らは、検死体の脳組織が血液中で生じるものに比例するレベルでDDEを含有したことを示した。かくして、最近の血清サンプルは、たとえそれが診断時に採取されたものであっても、過去に起きた暴露に関する情報を明らかにすることができる。しかし、成人の血清濃度が彼らの若齢期の暴露を反映するのかどうかについては疑問がある。

 実験室モデルは、ある産業汚染物質はアルツハイマー病に関連する生化学的影響を誘引することができることを示唆している。従って、頭蓋骨外傷だけが環境リスク要素ではないことは明らかである。しかしながら我々は他の要素が何なのかを知らない。結論を引き出すためには証拠は十分ではないが、脳に有害な物質はこれに関して極めて疑わしいとみなされなくてはならない。



化学物質問題市民研究会
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