オレゴン州立大学 2022年2月28日
タイヤの微粒子が淡水中や沿岸河口の生物の
成長を阻害することを研究が発見

情報源:Oregon State University, February 28, 2022
Tiny tire particles inhibit growth of organisms
in freshwater, coastal estuaries, studies find

https://today.oregonstate.edu/news/tiny-tire-particles-inhibit-
growth-organisms-freshwater-coastal-estuaries-studies-find


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2022年3月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_22/220228_OSU_Tiny_tire_
particles_inhibit_growth_of_organisms_in_freshwater_coastal_estuaries.html


【オレゴン州コーバリス】オレゴン州立大学の2つの新しい研究が、タイヤからの微粒子が淡水および沿岸の河口生態系に見られる生物の成長を阻害し、有害な行動変化を引き起こすことを発見した。

 この調査結果は、マイクロプラスチック及びナノプラスチックが水生生態系と水生生物に与える影響を解明する科学者らによる継続的な取り組みの一環である。タイヤ粒子は、水生生態系で最も一般的なマイクロプラスチック・タイプのひとつである(訳注1)。

 ハーパー、ブランダー、及びその他数名の大学院生と、ブリタニー・カニンガム、サムリーン・シディキを含む彼らの研究室のポスドク研究員らは、最近、ケモスフェア(Chemosphere(Journal of Hazardous Materials)とジャーナル・オブ・ハザード・マテリアルズ(Journal of Hazardous Materials)にタイヤ粒子研究に関する2つの論文を発表した。

 ”マイクロプラスチックと現在のナノプラスチックへの焦点はまだ比較的新しい”と、ナノ材料の環境健康と安全への影響を研究し、この淡水生物のタイヤ粒子の研究を主導したオレゴン州立大学の教授であるステイシー・ハーパー(Stacey Harper)は述べた。”私たちは今、まだ科学[的裏付け]のない政策決定を下す段階にある。そのため、私たちは争ってその科学を提供しようとしている。”

 カリフォルニアはこの問題の最前線にあり、先週、州全体のマイクロプラスチック戦略が採用された。オレゴン州立大学の助教授兼生態毒物学者であり、タイヤ粒子に関する沿岸研究を主導し、カリフォルニア戦略の開発を支援したいくつかの科学諮問チームのひとつで共同議長を務めたスザンヌ・ブランダー(Susanne Brander)は、連邦レベルおよび潜在的に他の州でも同様の取り組みが見込まれていると述べた。

 タイヤ粒子は、合成ゴム、充填剤、オイル、及びその他の添加剤などの材料で構成されている。粒子自体とそれらが浸出する化学物質(浸出物(leachate)として知られている)は、それらが接触する水生生物に有害な影響を与える可能性があると研究者らは述べている。

 研究者らは、自動車のタイヤの寿命の間に、そのトレッド(自動車タイヤの地面に接する部分)の約30%が摩滅して環境に侵入することを示す研究を引用している。彼らはまた、米国では毎年 150万トン以上のタイヤ摩耗粒子が環境に流入すると推定した最近の研究を引用している。

 ”特にタイヤ粒子については、誰もがそこにどれだけの量があるかを測定しているわけではないし、それらがどのような影響を与えているかを測定しているグループもほとんどない”とブランダーは述べている。 ”それは、私たちがここで修正しようとしていたギャップである。”

 そのために、オレゴン州の科学者らは、淡水と河口の両方の生態系にある 2つのモデル生物を、異なる濃度のマイクロタイヤ粒子とナノタイヤ粒子にさらし、タイヤ粒子の分解によって生成された浸出物にさらした。マイクロ粒子は、長さが 5ミリメートル未満の断片であり、ナノ粒子は非常に小さいため、肉眼や単純な顕微鏡では見ることができない。

 ポスドク研究員のサムリーン・シディキが率いる河口生態系の論文では、モデル生物は内陸のシルバーサイド(魚名)とアミ類であった。研究者による調査結果は次のとおりである。
  • 両方の生物は、暴露後、凍結の増加(increased freezing)、位置の変化、移動距離の合計など、環境で検出された濃度で生物が野生の食べ物を見つけるための泳ぎ方及び意欲を大幅に変化させた。
  • マイクロタイヤ粒子への暴露レベルに応じて、両方の生物の成長が低下した。ナノタイヤ粒子にさらされた魚も成長が低下した。
  • 浸出物は行動に影響を及ぼしたが、どちらの生物の成長にも影響を与えなかった。
 これらの調査結果により、研究者らは、タイヤ関連の汚染の現在の環境レベルでさえ、増加すると予想され、水生生態系が悪影響を受けている可能性があると結論付けた。

 大学院生のブルターニュ・カニンガムが率いる淡水生態系の論文では、胚性のゼブラフィッシュと甲殻類のオオミジンコがモデル生物であった。調査結果の中で:
  • 両方の生物には、タイヤ粒子と浸出物への暴露による死亡率と発達に異常があった。
  • タイヤ粒子浸出物は、両方の生物の毒性の主な要因であった。
  • ナノタイヤ粒子への暴露は、浸出物のみと比較して毒性が増強した。
 これらの発見により、研究者らは、タイヤ粒子による毒性が両方の生物で観察されたが、タイヤ粒子に対する全体的な感受性は異なると結論付けた。彼らは、これらの汚染物質が有毒になるレベルを特定するために、これらの違いを理解することが重要であると信じている。この知識は、政策決定に情報を与えるリスク評価を作成するために重要であると彼らは述べている。

 研究者らはまた、タイヤ粒子が環境に侵入するのを制限するいくつかの方法についても言及した。これには、タイヤ粒子を捕捉するための道路脇へのレインガーデン(訳注:屋根、私道、または通りから雨水を集めて地面に浸すことができる窪地)の設置、車への粒子捕捉装置の設置、長持ちするタイヤの開発、人々が運転を減らすことができる公共交通機関などのグリーンインフラストラクチャへの投資が含まれる。

 この研究は、全米科学財団の成長するコンバージェンス研究のビッグアイデア助成金の援助(National Science Foundation Growing Convergence Research Big Idea grant)を受けた。この助成金は、オレゴン州立大学の太平洋岸北西部プラスチック・コンソーシアムを支援しており、このコンソーシアムは、ハーパーとブランダーが共同で主導している。

 ハーパーとブランダーは、オレゴン州立大学農学部を拠点としている。論文の他の共著者には、ブライアン・ハーパー、サラ・ハットン、ジョン・ディケンズ、エミリー・ペデルセンが含まれる。

 オレゴン州立大学(OSU)農業科学校について:農業と食品システム、天然資源管理、農村経済開発、人間の健康に関する世界クラスの研究を通じて、大学はオレゴンの最も差し迫った課題に対する解決策をオレゴンの人々に提供し、持続可能な環境と豊かな未来に貢献する。


訳注1:タイヤ粒子
 この OSU の記事で対象としている微粒子はタイヤの摩耗によって生じるマイクロプラスチックやナノプラスチックプの文脈で論じられており、タイヤの補強材として一般的に加えられているカーボンブラックやシリカナノ粒子(参考情報 参照)等、工業ナノ粒子に由来するもについの言及はない。
参考情報:タイヤ中のナノ粒子


化学物質問題市民研究会
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