Deutsche Welle (DW) 2021年12月29日
ドイツの長い反原発抗議は終結する 活動家たちは 35年間、ドイツ北部のブロクドルフにある原子力発電所の前で抗議してきた。 しかし、同発電所は電力網から外されることになり、彼らの行動はついに終わった。 ティム・シャウエンブルク 情報源:Deutsche Welle (DW), December 29, 2021 Germany's long anti-nuclear protest ends By Tim Schauenberg Activists have been protesting in front of the nuclear power plant in Brokdorf, northern Germany for 35 years. But now that the plant is set to be removed from the grid, their vigil is finally over. https://www.dw.com/en/germanys-long-anti-nuclear-protest-ends/a-60278006 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2022年1月2日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_22/211229_DW_ Germanys_long_anti-nuclear_protest_ends.html
その多くが高齢者の小さな一団が、ブロクドルフ原発の警備された門に「原発を停止せよ」と書かれた黄色いバナーを掲げていた。 この冬の曇った日にドイツ最北端のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州のこの地に集まった活動家たちは、ほとんどがこの地域の出身であるがが、ハンブルクやそれ以遠から来た人もいる。 平和の歌を歌い、輪になっておしゃべりをしている人々は、過去 35年間、毎月 6日に同原発の門の前に集まっているので、凍えるような寒さに慣れているように見える。 今日、活動家たちは再び参集し、彼らの近隣にあるこの原発の停止を要求しつつ、原発事故の犠牲者を記念するための集会を開催している。 しかし、今日はいつもと少し違う。この 425 回目の抗議行動は最後になるであろう。今月後半、ドイツの 2022年の脱原発(訳注1)の一環として、このブロクドルフ原子力発電所が閉鎖される予定だからである。 この原発は、ドイツで最も物議を醸している原発のひとつであり、また世界で最も生産性の高い原発のひとつでもある。 ”段階的に廃止されてうれしい”と、活動組織の創設者であり牧師であるハンス・ギュンター・ヴェルナーは述べた。”悲しいことではないが、もうこれからはすぐには会うことはないと皆が知っており、少し懐かしい気持ちである。” ”しかし、原子力発電所の運転がようやく終わりに近づいていることに安心している”と彼は付け加えた。 ”当時、私たちは、ここにこんなに長く立つ必要があるとは思っていなかった。”
1980年代に反原発運動が拡大する中、数十万の人々がブロクドルフ原子力発電所の建設に抗議した。 何度も何度も、抗議者たちは警察と衝突した。特に 1986年のチェルノブイリでの原発事故の後、ドイツ全土で土壌と食品の放射線レベルが上昇した。 ”私には砂場で遊ぶことを許されていない小さな子どもたちがいた。私たちは皆パニックに陥った”と、抗議活動の傍観者であったウェルナーは言った。 1986年後半に完成したブロクドルフは、チェルノブイリ事故後、世界で最初に運転を開始した原発であった。 当時、ヴェルナーと数人の仲間は平和的に抗議し、今後も抗議を続けることを決意した。彼らは、ブロクドルフが閉鎖されるまで、月に一度集まることを誓った。 彼は、”反対を示すことも抗議することも、私たち自身の恐れと戦うのに役立った”と言った。 がんリスクの増加とアイススケート場 彼の恐れはもっともであった。 2008年の調査によると、ドイツの原子力発電所のすぐ近くで育った子どもたちは、白血病を発症するリスクが高くなっていた。 それでも、ドイツの原発はそのような健康上の脅威の中にあっても運転を続けていた。理由のひとつは、ブロクドルフ市が工場にかける税を通じて何十年にもわたって高収入を得てきたことであろう。地元の政治家はこの収入をあきらめることを嫌がっていた。 住民が1,000人以下のこの村は、原子力発電所からの税収入で 700万ユーロ(800万ドル、約9億円)のアイススケート場に資金を提供することができ、100メートルのウォータースライド(滑り台)を備えた公共プールの入場料を非常に安くすることができた。 ”これは私たちの自治体での商業活動であり、自治体として私たちは常に地元企業を支援している”と、ブロクドルフ市長エルケ・ゴッチェは述べている。 ゴッチェは、原子力施設がしばらくの間送電網に留まることを望み、そうすれば再生可能エネルギーへの移行がもっと容易になったと主張した。しかし、今では、原発からの資金提供の幸運はもはやない。 原発は気候変動対策への貢献を主張 ドイツは 2022年末までに残りの全ての原子力発電所を段階的に廃止しようとしているが、フランス、英国、米国、インド、ロシア、中国などの他の国々は引き続き原子力エネルギーに依存している。
現在、さらに 300基の原子力発電所が計画段階にある。一方、原子力ロビーは、原発をクリーンであるとし、最も重要なこととして、気候にやさしい代替案として原子力エネルギーを推進している。 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は今年、2050年までに気候中立(訳注2)を達成するために、フランスは数十年ぶりに新しい小型原子力発電所を建設する計画を再開すると発表した。 原子力からの排出量は、石炭、石油、天然ガスからの排出量よりも大幅に少なくない。 しかし、風力や太陽エネルギーからの電力と比較すると、原子力技術のコストははるかに高く、原子力発電所の建設には、はるかに長い時間がかかる。 軍事的動機 サセックス大学の科学技術政策の教授であるアンドリュー・スターリングは、州が依然として原子力発電に固執しているという事実には、明らかに別の理由もあると述べた。 ”世界的に言えば、原子力の民間利用に最も真剣に取り組んでいる国々は、核兵器も持っているか、核兵器を手に入れることに非常に熱心である”と彼は述べた。 スターリングによれば、核エネルギーの民間利用は、核兵器計画の実現のためにしばしば必要とされる。これは、核武装したフランスと米国が認めたことである。 スターリング は、商用原子力分野で働く技術者と専門家がいなければ、原子力潜水艦を建造することは不可能だと説明した。 ”米国からの報告書は非常に明確である。原発によるエネルギーのコストが 2倍高くても、軍事活動を続けることができるので、原発を建設することは理にかなっている”と彼は述べた。 最後の抗議活動 コーヒー、ケーキ、カボチャのスープをみんなで楽しむブロクドルフの活動家たちは、35年間の抗議行動を共に振り返る。 個人の写真アルバムの画像を含む写真のコラージュが広げられている。 ブロクドルフは12月31日に送電網から切り離されるが、この原発は数十年にわたって核廃棄物の一時保管施設として機能し続ける。放射性廃棄物の最終的な保管場所はまだ決まっていない。 ”したがって、私たちの公約はまだ終わっていない”と活動家の一人は言った。その直後、誰かがギターを弾き始めた。 抗議者たちは歌を歌いながらブロクドルフ原発を離れる。 35年経って初めて、彼らは勝者として去っていく。 DW RECOMMENDS
訳注1
■脱原発に肯定的又は原発に否定的な内容
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