ChemSec, 2021年3月17日
防護服に使われている”永遠の化学物質”は
消防士の健康を脅かす炎を煽る


情報源:ChemSec, March 17, 2021
"Forever chemicals" in turnout gear fan the flames of
hazard against the health of firefighters
https://chemsec.org/forever-chemicals-in-turnout-gear-fan-


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年3月31日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/210317_ChemSec_Forever_chemicals_
in_turnout_gear_fan_the_flames_of_hazard_against_the_health_of_firefighters.html



 消防士は、一般の人々と比較して、不釣り合いにがんに襲われている。その原因として、消防用防護服を撥水性にする(訳注1)ために防護服に適用されている PFAS(分解しないため、「永遠の化学物質」としても知られている)を挙げる証拠が増大している。

 彼らは、毎日他人を救うために命を懸けている男性及び女性である。しかし、消防士には、燃え盛る火から彼らを保護することを意図したまさにその装備によって引き起こされる、燃えている建物に飛び込むのと同じくらい致命的である可能性がある目に見えない職業上の危険が伴う。

 アメリカで[全米防火協会(NFPA)により]実施された 2つの大規模な研究によると、消防士は一般の人々と比較して、がんと診断される可能性が 9%高く、がんで死亡する可能性が 14%高い。

”今では全てがんである”

 25年間消防士を務め、過去 1年間に 2人の同僚をがんで亡くした、オーランド消防士組合の会長であるロン・グラス中尉が、ニューヨークタイムズの記事に次のように書いている。

 ”私が最初に雇用されたとき、主な死因は職務上の火災事故であり、それから心臓発作であった。今では全てがんである。”

 消防の専門家には職業上の危険がある。当初、高いがん発生率の原因は、建材の燃焼による有毒ガスと、消火剤中の有害な PFAS(パー及びポリフルオロアルキル物質の略)の存在にあるとされていた。

答えは服に隠されているのではないか?

 しかし、消防士が精巣がん、中皮腫(訳注2)、非ホジキンリンパ腫(消防士にとって最も一般的な 3つのがん形態)を発症する割合は低下していないが、現在は洗練されたスモークマスクとエアパックを使用して有毒ガスから身を守っている。

”PFAS は外殻だけでなく、私たちの肌に接触する内層にもあることがわかった”
 ”それから私達はバンカーギア(消防士用個人防護装備)を調べ始めた。メーカーは当初、何も悪いことはなく、有害なことは何もないと言っていた。しかし、PFAS は外殻だけでなく、私たちの肌に接触する内層にもあることが分かったとロン・グラスはニューヨークタイムズの記事で述べている。

 ノートルダム大学の実験核物理学、化学、生化学の教授であるグラハム・F.ピースリーは、昨年アメリカ化学会のジャーナルに発表された研究を主導し、消防士の防護装備に大量の PFAS 化学物質が適用されており、水に濡れて重くなったりすることがないよう撥水加工が施されていることを発見した。

消防士の妻が不審に思った

 ピースリー博士は、ベテランの消防士の夫が進行性前立腺がんと診断されたダイアン・コッターから連絡を受けた 2017年にその研究を開始した。ポール・コッターは健康であり自分の身の回りのことは全て自分でしていたので、ダイアン・コッターは煙以外の何かががんを引き起こしたのではないかと疑った

 彼女は予感を抱きつつ、彼の防護服を調べた。外殻は無傷のように見えたが、内側の布地にほころびが見られたため、防護服から有毒な化学物質が漏れているのではないかと考えた。

”私が今まで見た中で最も高度にフッ素化された布地”
 30以上の使用済み及び未使用の防護服のセットが、ピースリー博士と彼のチームによって調査された。彼らは、衣服の外殻のはフッ素(PFAS)は平均 2重量%強であるのに対し、外殻と皮膚に最も近い布地の間にある水分バリアには、平均で 30重量%を超えるフッ素が含まれていることを発見した。ピースリー博士は、防護服を”私が今まで見た中で最も高度にフッ素化された布地”と説明している。

PFASへの慢性暴露

 時間の経過とともに、表面処理として適用された PFAS 化学物質は、防護服の外殻(表地)から防湿防水層を通過して、皮膚に接触する可能性のある断熱層に移動するように見える。その化学物質(PFAS)は磨耗して脱落するため、吸入して摂取することもあり得る。

 ”そして消防士らはこれについて知らされていない。だから彼らはそれを身に着けており、呼び出しの合間に防護服を着たままくつろいでいる。それは慢性的な曝露であり、それは良いことではない”と、ニューヨークタイムズの記事でピースリー博士は述べている。

 ピースリー博士の研究は、消防用防護服における PFAS 曝露のこの潜在的な原因を最初に特定したものである。 1月に彼と科学者のチームは、15の消防署から収集されたほこりを調査する研究を追加的に実施した。
”消防士らはこれについて知らされていない。だから彼らはそれを身に着けており、呼び出しの合間に防護服を着たままくつろいでいる。それは慢性的な曝露であり、それは良いことではない”。

 チームは、粉塵サンプルから 24種類の PFAS 化学物質を発見した。これは、防護服の更衣室及びその周辺から収集された濃度が最も高いもので、消防士らの間で防護服が有害な PFAS の重要な発生源であるという確信をさらに強めている。

それらは、数が多く、有毒で、永遠の化学物質である

 ”永遠の化学物質”と呼ばれる PFAS は、同様の構造と特性を持つ約 4,700の人工化学物質のグループである。それらは残留性があり、水、グリース、汚れ、熱に耐性があり、泡消火剤及び消防士の防護服と共に、焦げ付き防止フライパン、チャイルドシート、ファーストフード容器の一般的な成分である。

 PFAS 化学物質は毒性があり、生体内蓄積性があり、肝障害、生殖能力の低下、喘息、甲状腺疾患、さまざまな形態のがんなど、多くの疾患に関連している。 1950年代から生産に広く使用されているため、PFAS は世界の人口の 97%の人々の血流に含まれている。

 それらの類似した構造と特性にもかかわらず、PFOA や PFOSなど、使用が禁止または制限されているPFAS 化学物質はごくわずかである。このことは、しばしば”残念な代替(regrettable substitution)”につながり、そこでは、ひとつの PFAS が制限されても、しばしば同じように有害な、またはさらに有害な規制されていない”いとこ”に単純に置き換わるだけである。
”消防士らは我々のために命を危険にさらしている。我々にできることは、可能な限り最も安全な装備を提供することである”。
 ”PFAS のいくつかのものは段階的に廃止されているが、代替品がより安全であることは証明されていない”とピースリー博士は言う。

 彼は次のように結論づけている。

 ”これは本当に残留性の化学物質のクラスである。それは血流に入ると、そこにとどまり、体内に蓄積する可能性がある。その存在と相関する病気があるので、私たちは本当にこのクラスの化学物質がそこに存在することを望んでいない。消防士らは我々のために命を危険にさらしている。私たちにできることは、可能な限り最も安全な装備を提供することである”。

 ChemSecでは、これ以上 PFAS に同意できない。それが我々が PFAS 運動を開始した理由である。これは、”永遠の化学物質”を世界から永久になくすことに取り組んでいる企業のための、また、すべての PFAS をグループとして禁止するよう議員に要請する企業による運動である。(参照:No to PFAS. Chemsec's Corporate PFAS Movement.)

 さらに読み、PFAS運動に参加して、消防士と一般の人々をこれらの有害物質から保護するのを支援いただきたい。


訳注1:消防士用防護服

訳注2:中脾腫の原因
Environ. Sci. Technol. Lett. 2020, 7, 8, 594-599
Another Pathway for Firefighter Exposure to Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Firefighter Textiles
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.estlett.0c00410



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