NPR, 2020年3月31日
プラスチック戦争:
産業側は、もっと多くのプラスチックを売るために、
リサイクルに数百万ドルを使っている

ローラ・サリバン、NPR Investigations 特派員

情報源:NPR, March 31, 2020
Plastic Wars: Industry Spent Millions Selling Recycling - To Sell More Plastic
By Laura Sullivan, Correspondent, NPR Investigations
https://www.npr.org/2020/03/31/822597631/plastic-wars-
three-takeaways-from-the-fight-over-the-future-of-plastics


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年4月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_20/200331_npr_Plastic_Wars_
Industry_Spent_Millions_Selling_Recycling_To_Sell_More_Plastic.html


NPR と FRONTLINE の共同調査
 この報告は、、本年3月31日に PBS (公共放送サービス)局及びオンラインで公開されるドキュメンタリー『プラスチック戦争』を含む NPR (ナショナル・パブリック・ラジオ)と PBS のシリーズ番組 FRONTLINE との共同調査の一部である。

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オレゴン州セイラム市ガーテン・サービス社から埋め立て地に運ばれる廃棄プラスチックの壁。プラスチックの圧倒的多数はリサイクルできないかリサイクルされない。Laura Sullivan/NPR
 数十年間、アメリカ人は、ほとんどのプラスチックはリサイクルされるものと信じて、彼らのゴミを分別してきた。しかし真実は、製造された全てのプラスチック製品の圧倒的多数はリサイクルできない、又はされないということである。[プラスチックのリサイクルが始まった 1980年代以降] 40年間、プラスチックは 10%以下しかリサイクルされなかった。

 共同調査で NPR と PBS シリーズ番組 FRONTLINE は、プラスチックの製造者である石油・ガス会社は、[プラスチックリサイクル促進と称して]数百万ドル(数億円)を費やしながら、アメリカ国民に[リサイクルは経済的に成り立たないという本音とは]逆のことを言っていることをずっと知っていたということを見つけた。

 以下に我々の調査から判明した重要なことを示す。

プラスチック産業は、リサイクルが本当に実行可能なのかという”重大な疑念”を持っていた

 1980年代後半から、プラスチック産業は、人々にプラスチックはリサイクルすることができ、またそうすべきであると言って、広告、リサイクル・プロジェクト及び広報活動を通じてリサイクルを促進するために数千万ドル(数十億円)の金を使い始めた。

 しかし、1970年代にさかのぼる彼ら自身の内部報告書は、産業界幹部はプラスチックを大規模でリサイクルすることは経済的に実行可能であるようにはとても見えないということを示していた。

 1973年4月に産業界最高幹部に送られたある報告書は、プラスチックのリサイクルは”金がかかり”、”難しい”とみなした。同報告書は、古い製品からの回収はないと言い、分別を”実行不可能”であるとした。1年後のもう一つの文書は率直であった。プラスチック・リサイクルは”経済的ベースで実行可能であったことは一度もない”という”重大な疑念”が広がっていると述べている。

産業側はプラスチック禁止を回避するためにリサイクルを促進した

 それにもかかわらず以前には公的に発言したことのなかった 3人の元最高幹部は、産業側が 1980年代及び 1990年代にプラスチックに嫌悪を示す潮流の高まりを押し戻すためのひとつの方法として、リサイクルを促進したと述べた。産業側はプラスチックの使用を禁止する又は抑制するという外圧に直面していた。その元最高幹部が NPR と FRONTLINE に言うには、リサイクルはプラスチックの禁止を回避し、もっと多くのプラスチックを売るための手段となった。

 ”リサイクルが最終的には大いに機能するであろうという熱狂的な信念は決してなかった”と、当時プラスチック工業会(Society of the Plastics Industry / SPI)と呼ばれていた産業側ロビーイング・グル-プの政府担当部門の元副会長リュウ・フリーマンは言う。

 2000年まで10年間以上 SPI を統率した、もう一人の最高幹部ラリー・トマスは、リサイクルを推し進める戦略は単純であったと言う。

”プラスチック産業界は批判を浴びていると感じていた。”我々は、[禁止や抑制を]軽減するのに必要なことは何でもした”とトマスは言う。”もし国民がリサイクルは機能すると考えるなら、彼らは環境について懸念することはないであろう”。


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 1980年代の後半にプラスチック産業は、かつてない増大するプラスチック・ゴミの量を懸念する人々から非難を浴びた。しかし産業側にはある計画があった。プラスチック禁止をうまくかわし、その販売を増やすというものであった。(Frontline and NPR YouTube)


リサイクルをすればするほど、石油・ガス会社の利益は少なくなる

 現在のプラスチック産業の幹部はインタビューで、圧倒的大部分のプラスチックをリサイクルすることは過去にはうまくいかなかったことを認めた。しかしプラスチックのリサイクル規模を拡大することになるであろうと彼らが信じる新たな技術に産業は資金をつぎ込んでいると彼らは述べた。彼らが言うには、その目標は彼らが製造するプラスチックの 100%をリサイクルすることである。

 ”リサイクルはもっと効率的でもっと経済的でなくてはならない。我々は廃棄物を収集し、それを分別することについて、もっと良い仕事をしなければならない”とシェブロン・フィリップス化学会社の持続可能担当副社長ジム・ベッカーは言う。”5〜10年前は、産業側はもう少し闘争的であった。しかし現在は、それは本当に広報活動だけではない。我々もまた環境中に廃棄物を見たくない。全く見たくないのだ。我々はそれを解決したい”。

 しかしプラスチックをリサイクルすればするほど、産業側が新たなプラスチックを売って儲けるお金は少なくなる。そしてこれらの利益はますます重要となってきている。会社は株主に対して、輸送のために使用される石油及びガスから得られる利益は、燃料効率の改良と電気自動車の使用増大のために、今後数年で減少することが予想されると述べている。産業側の分析担当者らは、石油とガスの化学産業からの需要は、今後十年間で輸送分野からの需要を超えるであろうと予測している。全体のプラスチック生産量は現在、2050年までに 3倍になることが予想されており、そしてもう一度言うが、産業側はプラスチックとそのリサイクルを促進するために広告と広報活動にお金を費やしている。

 プラスチックは以前より、もっと広く行きわたっており、リサイクルすることが難しくなっている。ガスの価格は歴史的な低いレベルにあり、新たなプラスチックを作る方が、リサイクルされたプラスチックを利用するよりも安い。そして産業側は現在、もっと多様で複雑なプラスチックを製造しているが、それらは分別するのにもっと金がかかり、多くの場合リサイクルすらできない。プラスチックの消費を減らす取り組みは全国的に増大しているが、プラスチックの低成長をもたらすどのような計画も、産業側に数十億ドル(数千億円)規模の将来の利益を危うくするであろう。

  PBS / FRONTLINE と NPR によるドキュメンタリー 『プラスチック戦争』 は、 PBS 局とオンラインで 3月31日に公開。



化学物質問題市民研究会
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