MotherJones 2019年9月12日
本日のおすすめ:プラスチック汚染の鮭の網焼き
我々はマイクロプラスチックは魚の腸に留まると思ってきた。
恐ろしい新たな研究は小さな粒子が魚肉に移動することを示唆している。

リザ・グロス
情報源:MotherJones, September 12, 2019
Today's Special: Grilled Salmon Laced With Plastic
We used to think microplastics stayed in a fish’s guts.
Chilling new research suggests the tiny particles migrate into its flesh.

Liza Gross
https://www.motherjones.com/environment/2019/09/
todays-special-grilled-salmon-laced-with-plastic-flesh/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年9月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_19/
190912_MJ_Grilled_Salmon_Laced_With_Plastic.html


Andrii Zastrozhnov/Getty

 50年近く前、北大西洋を研究している科学者らは、微小なプラスチック片がプランクトンや海藻サンプルに見つかっていることを警告し始めた。彼らが発見した微粒子は有害化学物質を吸着しており、カレイ、パーチ(ヨーロッパ産の食用淡水魚)、及びその他の魚に食べられていた。しかし最近まで研究者らは、これらの摂取されたプラスチックは生物の腸内、及び恐らく肝臓中に留まると考えていた。食卓に出す前に魚の内臓を取り除けば、プラスチックを食べるというリスクはなくなるように見えた。

 しかし最近の研究は、これらの微小なプラスチック片は魚の肉の中に移動することを示唆している。そして、最近のある研究は、現在までの所、分析された平均的なアメリカの消費者にとって、ボトル飲料水及び大気に次いで、海産物が化学物質を帯びた”マイクロプラスチック”の三番目の汚染源であることを発見した。”プラスチックは現在、我々の食物系の一部である”とその研究を主導したブリティッシュコロンビアにあるビクトリア大学の海洋生態学者であり、博士論文提出志願者であるキーラン・コックスは述べている。


アメリカ人は、少なくとも年に 74,000片のマイクロプラスチックを食べ、吸入し、飲んでいる

 マイクロプラスチックは、鉛筆の先に付いている小さな消しゴムの幅のように 5mm より小さなプラスチックの小片である。この小片の大部分は、ボトル、ボトルキャップ、ストロー、及び袋のような”使い捨て”のプラスチック製品に由来する。Environmental Science & Technology 誌に 6月に発表されたその研究は、アメリカ人は、少なくとも年に 74,000片のマイクロプラスチックを食べ、吸入し、飲んでいると見積もっている。しかしそれは”極端な過小評価”であるとコックスは言う。それは、肉、乳製品、及び穀物のような主要な食物中のマイクロプラスチックの含有量を誰も測定していないからである。

 このプラスチックを摂取するということが人間の健康にどのような意味があるのか言うことは難しい。我々は、まだ人々の暴露を評価するための分析手法を標準化していないと、独立系スイス慈善食品容器・包装フォーラムの管理ディレクターである環境毒性学者ジェーン・マンケは言う。彼女はビクトリア大学の研究に関与していない。血液中及び尿中のマイクロプラスチックのレベルを測定するためのバイオモニタイリング研究はもちろん、そのような標準の確立は、我々の健康を守るために設計された規制を実施するために極めて重要である。

 1950年代以来、90億トン以上のプラスチックが製造されてきた。今日、その約40%は容器・包装のために使用されており、ほとんどが使い捨ての食品及び飲料容器である。

 海洋生物学者が 1972年に海洋の表面を汚染しているプラスチック粒子を初めて発見したときに、北大西洋のサルガッソ海で 1平方キロメートル当たり[訳注:原典によれば直径が 0.25〜0.5 cm の]約 3,500粒子を測定した。その後数年で問題は劇的に広がった。1986 年から 2008 年の間に同じ海域で採取されたサンプルの分析が Science 誌に報告されたように、研究者らは 1平方キロメートル当たり平均 20,328 粒子、1997年には最大 580,000 粒子を見つけた。

 湖と川は大量のプラスチック破片を運び、毎年最大 1,400万トンが海に達すると研究者らは 2015年の研究で見積もった。もし、現在の管理方法が続くなら、わずか 6年で10倍に増加すると彼らは見積もった。まだ発表されていないが五大湖の最近の調査で、ペンシルベニア州立大学エリー校の持続可能性取りまとめ者である化学者シェリー・メーソンは、オンタリオ湖で 1平方キロメートル当たり 230,000万片のプラスチックを発見した。オンタリオ湖は連なる 5つの湖の最後に位置するので、そのプラスチックの多くは北大西洋に注ぐセントローレンス川に流れ込むとメーソンは指摘した。

 プラスチックは、海洋でより小さな細片になりながら分解するために数百年かかり、膨大な数の細片が海を汚染する。研究者らは現在、最深の海溝から北極圏の遠方まで、どこにでもマイクロプラスチックを見出す。

 海洋生物は、餌と間違ってこれらのプラスチック粒子を取り込み、意図せずにろ過摂食し、あるいは汚染された餌を食べることにより摂取する。淡水生物もまた、エラを通じて、そしてひょっとすると皮膚を通じてマイクロプラスチックを吸収する。魚と貝類を含んで、220以上の生物種がこれらの細片をがつがつ食べ、数多くの有害影響を示している。マイクロプラスチックは、魚類、甲殻類、その他の生物の腸を詰まらせ、器官に穴をあけ、又は胃をくずで満たすことにより

 魚の腸内にいったん入ると、これらの小片は肝臓さえ含んで、循環系細胞、及び組織に入り込み、獲物の取り方や餌の取り方などに問題を引き起こす。マイクロプラスチックの摂取はまた、炎症、免疫系の変更、摂食活動の低下、及び子孫の成長問題に関連している。これらの発見は、野生界でみられるよい高い用量で生物に暴露させる実験室での調査に主に由来する。それでも公衆健康専門家らは、もし暴露が慢性的ならより低い用量でも海洋生物と人間に問題を引き起こすであろうと懸念する。

 そして科学者らはかつて、人々が内蔵を抜けば海産物を食べることのリスクを低減できると仮定していたが、最近の研究はそれは最早安全な仮定ではないことを示唆している。 2017年にマレーシアの研究者チームがScientific Reportsに、2種の乾燥魚のマイクロプラスチックのレベルは肉の方が器官より高かったと発表した。そして8月にはFood Additives & Contaminants に発表されたある研究で、イランの研究者らは、彼らが分析した 5種の海産物全ての肉にマイクロプラスチックを発見したと報告した。


 筋肉組織に入るプラスチック粒子は非常に小さいので、多くの研究所はそれらを検出するツールを持っていない。

 最近まで、魚の体内プラスチックの大部分の研究は、胃腸管の方を選択して、肉を無視していた。その理由のひとつは、研究者らはマイクロプラスチックは胃腸管内に留まると考えていたためであり、また他の理由は筋肉組織に入り込んだ粒子は非常に小さいので、多くの研究所はそれらを検出するツールを持っていなかったためである。同様に、ほとんどの研究は、マイクロプラスチックが、餌から捕食者へと食物連鎖中で上位に移動しながら動物の肉の中に濃縮(concentrate)又は”生物濃縮(biomagnify)”し、したがってより多くの量を、そして潜在的により大きなリスクを[最上位者]である人間に引き渡す。

 イランの研究者らがペルシャ湾の魚屋から買った魚、カニ、及びエビに関する疑問を彼らの 8月の研究で検証した時に、それらを食べた魚の肉中に甲殻類からのマイクロプラスチックが濃縮しているという証拠はなかった。しかし、テストしたサンプルの 82%は筋肉中にプラスチック粒子を持っていたこと報告していたので、地場の海産物を食する家族は食事でプラスチックを取り込んでいる。

 アメリカ人はほとんど他の魚種より鮭を多く食する。カナダの科学者らは、若いキングサーモン(juvenile chinook salmon)の腸の中にマイクロプラスチックを発見したことを今年の初めに Environmental Pollution 誌に報告した。サケの肉中にこれらのプラスチック片を見つけたと報告した人はまだ誰もいないが、誰かが報告するのは多分、時間の問題である。そのような大衆向けの海産物中にマイクロプラスチックを見出す可能性があるということは、”大きな懸念である”と、バーモント州のベニントン大学客員教授であり、p年の10月に、研究者らは異なる 8カ国からの 8人の排泄物中にマイクロプラスチックを見出したという小さなパイロット研究の予備的結果を報告した。先週、ピアレビュー誌である Annals of Internal Medicine に発表されたその研究は、1人当たり 1サンプルだけを分析したものであり、マイクロプラスチックが血流又は肝臓に入り込んだか、又は健康影響があるのかどうか決定しなかった。

 プラスチック製造が指数関数的に増えることが予測されており、我々はその物質にますます暴露し続けそうである。”海産物産業はこの問題の前面に出て、プラスチック汚染を削減するための立法のために働くことにより、役に立つであろう”と環境庁の前地方行政官エンクは言う。食物系のプラスチックについての懸念が増大しているので、人々は、アメリカ人が典型的に丸ごと食べるエビ、カキ、及びムール貝のようなものをはじめとして、海産物の購入を止めるであろうと彼女は信じている。

 コックスは人々が世界中でタンパク質や栄養の価値ある源である魚を食べることを止めるよう示唆することをためらう。我々の食生活の中で見つかるマイクロプラスチックの最大供給源は、現在までの所、ボトル入り飲料水の容器であると彼は言う。ボトル入り飲料水を減らせば、摂取されるプラスチックが減るだけでなく、捨てられるプラスチックも減る。

 環境毒性学者マンケは、この災難の責任は企業側にあると考えている。”プラスチック製造者には、彼らの製品を地球中に、そして我々の食物中に、特に結果が未知の場合に、ばらまく権利はない”。

 この記事は、非営利の調査ニュース団体である Food & Environment Reporting Network との協力の下に作成された。



化学物質問題市民研究会
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