Phys.org 2019年9月6日
海洋プラスチック汚染は、
我々の食品中の神経毒素を隠す

海洋プラスチック汚染は水銀の人間の脳への新しい強力な経路

ビビアン・リ、イジェネレーション・ユース

情報源:Phys.org, SEPTEMBER 6, 2019
Marine plastic pollution hides a neurological toxin in our food
By Vivian Li, Igeneration Youth
https://phys.org/news/2019-09-marine-plastic-pollution-neurological-toxin.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年9月10日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_19/190906_Phys_org_
Marine_plastic_pollution_hides_a_neurological_toxin_in_our_food.html

 1950年中頃、日本の水俣の飼い猫が、不思議なことに激しく身もだえし、海に転落し始めた。その後すぐに水俣の人々が同様な症状を示し、しゃべる、運動する、そして考える能力を失い始めた。

 日本の化学会社であるチッソ社は、1932 年から 1968年の間に、600トン以上の水銀を同社の排水を通じて海に投棄した。不思議な症状示したその死因を見つけるために医師らが混乱する中で、1,784 人が数年の間に徐々に死亡した。

 水俣病は、メチル水銀中毒が中枢神経系に長期的損傷を引き起こす神経系疾患である。水銀に関する水俣条約は世界的な水銀汚染を制限することを目的とする国際条約として2013年に制定され、現在 112か国が批准している。それ以来、アメリカの環境保護庁(EPA)と世界中の政府機関は発電所及びその他の企業から地表水に入り込む水銀を制限しているが、この毒素は人間の脳への新しい強力な経路として海洋プラスチック汚染を見出した。

 ”今日の海洋の表面レベルの水銀濃度は、500年前のそれと比べて、おそらく 3〜4倍高い”と、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UCSC)海洋科学部門の准教授カール・ランボルグ博士は述べた。メチル水銀は、海洋生態系の最小生物である植物プランクトンや動物プランクトンから魚類、そして人間までの食物連鎖を通じて、我々の食卓にまで旅をする。

 UCSC の博士研究員カトリン・ボーマンは、どのように水銀が食物連鎖に入り込むのかを研究している。メチル化を通じて海洋中の水銀は、その元素水銀の有機的形態であるメチル水銀になる。それは食物連鎖を移動中に容易に濃縮するのではるかに有害である。重金属毒素は水中で自然にプラスチックに付着し、濃縮された有害な化学物質の”魚餌”爆弾になることで水銀汚染問題を引き起こすと彼女は述べた。

 ”プラスチックは負電荷であり、水銀は陽電荷である。正反対の電荷は引き合うので水銀は付着する”とボーマンは述べた。マイクロプラスチックは、表面積が大きいので、多くのひだと狭い隙間に有害な水銀粒子を補足して、メチル水銀が高濃度になる。

 ”マイクロプラスチックは、そのサイズが 5o より小さい粒子として定義されている”とアトランティック大学の海洋研究科学者アビガイル・バロウズは述べた。”それらはあらゆるプラスチック用品から生じる”。それらは身体手入れ用品中のマイクロビーズや衣料品から引き裂かれたマイクロファイバーを含む。プラスチック袋、ボトル、そしてプラスチック用品類は時間とともに分解してマイクロプラスチックになる。

 ”もしマイクロプラスチックがメチル水銀生成率を高めるなら、環境中のマイクロプラスチックは間接的に魚類中に蓄積する水銀の量を増やしていることになる”とボーマンはは述べた。

 ふたつの重要な概念がメチル水銀の影響を悪化させる。生物蓄積(bioaccumulation)と生物濃縮(biomagnification)である(訳注1)。

 生物蓄積については、メチル水銀は体内から決して排出されず、時間とともに蓄積していく。

 ”魚は長く生きれば生きるほど餌の中の水銀を食べ続けるが、それは排出されず、魚の組織中に非常に高いレベルで水銀が蓄積する”とニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の特別教授ニコラス・フィッシャー博士は述べた。”メチル水銀はまた、生物濃縮するが、それは捕食者中の濃度が獲物の濃度より高いことを意味する”。

 2012年の欧州員会の水銀問題解説(Mercury Issue Briefing)によれば、最上位の捕食者は、周囲の水に比べてその組織内に10万倍以上のメチル水銀を持っている。

 しかしここでは、我々の関心は水銀放出よりむしろプラスチック汚染の問題におかれる。

 ”水銀は大気と海洋の間を非常に容易に往復する”とランボルグは述べた。この毒素は環境中を循環しているが、プラスチックは水銀に対して磁石のように作用し、水銀の海洋中での寿命を延ばし、プランクトンと魚の口に水銀を送り込む。人々が水銀で汚染された海産物を食べる時、同時に濃縮された水銀を食べる。

 水俣病は、水銀中毒の恐ろしい影響についてはっきりと説明している。アメリカの EPA 及び他の国際機関は、水質浄化法及び安全飲料水法のような規則を1970年代以来制定しており、それらは地表水への水銀放出を著しく引き下げてきた。しかし、2015年に Science に発表された報告書によれば、毎年海洋に入り込む 800万トンのプラスチックは問題を確実に膨らませるであろう。

 ”製造されるプラスチックは、次の 20年間で倍増する傾向にある”とバロウズは述べた。”だから我々の環境について心配するという状況の中で、注力する必要があるのはプラスチック問題であると私は思う”。


訳注1:生物蓄積と生物濃縮の違い
  • 生物濃縮/ウィキペディア
    • 生物濃縮(せいぶつのうしゅく)は、ある種の化学物質が生態系での食物連鎖を経て生物体内に濃縮されてゆく現象をいう。生体濃縮(せいたいのうしゅく)ともいう。
    • 生物濃縮に類似して生物蓄積の用語があり、英語のBioaccumulationの訳語とすることがある。これは生物蓄積が、有害物質が水などの環境媒体から生物体内へ濃縮される過程(生物濃縮・Bioconcentration)と食物連鎖により増強される過程(Biomagnification)とを合わせたものであるためである。

  • What is the Difference Between Bioaccumulation & Biomagnification? (Study.com)
    • Bioaccumulation refers to the build-up of a toxic chemical in the body of a living organism. What essentially happens is that an organism absorbs the chemicals across their skin or otherwise takes them in.
    • Biomagnification is when a toxic chemical increases in amount each time it moves up a food chain.


化学物質問題市民研究会
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