国際環境法センター(CIEL) 2019年5月15日 プレスリリース
プラスチックの地球規模の
環境影響に関する広範囲な新たな報告書が
気候への深刻なダメージを明らかにする

使い捨てプラスチックの廃止を含んで
いくつかの解決策を研究が勧告している

情報源: Center for International Environmental Law (CIEL), May 15, 2019
Sweeping New Report on Global Environmental Impact of Plastics
Reveals Severe Damage to Climate
Study Recommends Solutions, Including Phasing Out Single-Use Plastics
https://www.ciel.org/news/plasticandclimate/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

掲載日:2019年7月19日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_19/
190515_CIEL_Sweeping_New_Report_on_Global_Environmental_Impact_of_Plastics.html


【ワシントン DC】新たな報告書『プラスチックと気候:プラスチック地球の隠されたコスト(Plastic & Climate: The Hidden Costs of a Plastic Planet )』によれば、2019年だけでプラスチックの製造と焼却は大気に 8億5,000万トンの温室効果ガスを排出することが予想され、これは新設 500メガワット石炭火力発電所 189基による汚染に匹敵する。水圧破砕法(hydraulic fracturing)(訳注1)からの安価な天然ガスにより支えられてプラスチック産業の世界規模の急速な成長は環境を破壊し、人の健康を危険にさらすだけでなく、炭素汚染を減らして気候の大惨事を防ぐための努力を損なうものである。

 これが、国際環境法センター (International Environmental Law)、環境十全性プロジェクト (Environmental Integrity Project)、フラクトラッカー連合 (FracTracker Alliance)、焼却代替のための世界連合 (GAIA / Global Alliance for Incinerator Alternatives)、5つの還流 (5 Gyres)、及びプラスチックからの解放 (Break Free From Plastic)による広範囲な新たな研究『プラスチック産業の地球規模の環境』の結論である。

 その新たな報告書は、プラスチックの気候への影響についてのかつてない最も包括的なレビューを作成するために、精製及び製造を通じての化石燃料としてのその誕生から、プラスチックの有用な使用中及び使用後の極めて多量な温室効果ガスの排出まで、プラスチックのライフサイクルの各段階における温室効果ガス排出に関する研究を収集している。

 プラスチック及び石油化学産業の現状の急速な拡大とともに、プラスチックの気候への影響は今後十年間に劇的に加速しようとしており、地球の気温上昇を 1.5 ℃以下に保とうとする国際社会の取り組みを脅かしている。もし、プラスチックの生産と使用が現在、計画されているように成長するなら、2030年までに排出量は年間 1.34ギガトン(13億4,000トン)に達し、295.500 メガワット以上の石炭火力発電所による排出量に相当する。2050年までに、プラスチックの生産と処分は 56ギガトン(560億トン)の排出ガスを生成し、残っている地球の全カーボンバジェット(炭素予算)(訳注2)の14%に当たる。

 水圧破砕法ブームによる安い天然ガスによってもたらされた過去10年間の産業の急速な成長は、アメリカで最も劇的であり、ガルフ海岸及びオハイオ川流域で新たなプラスチック生産基盤の劇的な発展を目撃した。

 例えばペンシルべニア州西部では、プラスチック産業の原料を供給するために建設されている新たなシェル社天然ガス製品プロセス・プラント(”エタンクラッカー”と呼ばれている)は、毎年、二酸化炭素換算で最大 225万トンまでの温室効果ガスを排出することができる。プラスチックと気候(Plastic & Climate)報告書によれば、テキサス州ガルフ海岸沿いのエクソン・モービル社のベイタウン製油所の新たなエチレンプラントは最大 140万トンまで排出するであろう。これら二つの施設だけからの年間排出量は、ほとんど 80万台の新車が道路に加わることに相当する。それらはアメリカだけで現在建設されている主にプラスチックとプラスチック添加剤のための 300以上の新たな石油化学プロジェクトの中の二つでしかない。

 環境中のプラスチックは、もっと研究がなされていない排出源のひとつであり、プラスチックの気候への影響に関する以前の研究の中で欠落している重要な部分のひとつである。海は地球上で生成される温室効果ガスのかなりの量−工業時代が始まって以来人間が作り出す全二酸化炭素の 40%程度−を吸収する。プラスチックと気候報告書は、小規模であるが発展中の研究が、環境中に投棄されるプラスチックが二酸化炭素を吸収し隔離する海の自然の能力を損なっているいるかもしれないということを強調している。同報告書は、通常のシナリオの下にプラスチックの気候への影響の投影を生成するために、控えめな仮定を使用している。すなわち、プラスチックの実際の気候への影響はこれらの投影を超えているように見える。

 同報告書は、プラスチック危機に対応するべきほとんどの効果的な方法は、不必要なプラスチックの製造を劇的に減らすことであると結論付けつつ、これらの気候への影響を低減するためにとることができる、例えばほとんど全ての使い捨てプラスチックの国家及び世界的な禁止をはじめとする、一連の行動を特定している。

提案された解決策
  • 単回使用の使い捨てプラスチックの製造と使用を終わらせること
  • 新たな石油、ガス、及び石油化学の基盤施設の開発を止めること
  • ゼロ廃棄物社会への移行を育成すること
  • 巡回経済の重要な要素として、拡大生産者責任を実施すること
  • プラスチック製造を含む全ての分野からの温室効果ガスの排出を低減するための野心的な目標を採用し、実施すること
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著者らの話
  • キャロル・マフェット:国際環境法センター(CIEL)センター長
     ”人類は、世界の温室効果ガスの排出を半分に削減するために12年しか猶予がなく、それらをほとんど完全になくすためにわずか30年しかない。プラスチックの製造と廃棄からの極めて多量で急速に増大している排出は、気候変動を1.5 ℃以下の温暖化に保つという目標を損ない、世界の取り組みを危うくする。プラスチックが世界の環境を脅かし人の健康にリスクを及ぼすということはすでに長い間、明らかなことである。この報告書は、プラスチックは他の化石経済と同様に気候にもリスクを及ぼすことを実証している。気候危機とプラスチック危機の推進力は密接に関連しているので、その解決として:人類は地球がもはや支えることのできない化石燃料と化石プラスチックへの依存を止めなくてはならない”。

  • コートニー・ベルナール:環境十全グループ 研究ディレクター
     ”我々の世界はプラスチックの海に溺れており、プラスチック産業は温室効果の主要な源として見逃されてきた。しかし、この問題を解決する方法はある。我々は、単回使用の使い捨てプラスチック容器の製造を止め、ゼロ廃棄物の将来への移行を推進する必要がある”。

  • マット・ケルソ:フラックトラッカー連合 データ・技術マネージャ
     ”圧倒的多数のプラスチックは、天然ガスと石油の成分であるメタンから製造される。プラスチックの気候変動への寄与の話は実のところはウェルヘッド(ガス/原油井戸の坑口装置)から始まり、したがって我々は石油及びガス生産からの炭素排出の一部はプラスチック製造に帰すということができる。ガスは数百、数千の井戸から、はるかかなたの下流側施設までパイプラインのネットワークを通じて送られるので、ガスの漏洩、ガス抜き、及び不要ガスの燃焼を通じて、大部分は二酸化炭素及びメタンの形で、無数の炭素放出がある。しかしこれらの影響の全体像を得るために、我々は、同産業の炭素汚染をもはや改善することができなくする広範な林野の伐採とともに、この巨大産業のために働くトラックや重機からの排出もまた検証してきた。大気中の二酸化炭素が劇的に急上昇しているこの時に、我々は、プラスチックの製造のためを含んで、まず第一に大地からの炭素の抽出の結果をよく検討する必要がある”。

  • ドーン・ムーン:焼却代替のための世界連合(GAIA) 研究員
     ”プラスチックはそのライフサイクルの最終段階に達した後も長らく気候に著しい脅威を及ぼし続けるので、プラスチックには、”寿命の終わり(end-of-life)”というようなことはない。’廃棄物からエネルギーへ’とも呼ばれる焼却は、例えそのプロセス中に発電が行われることを考慮しても、プラスチック廃棄物管理からの温室効果ガスの主要な排出源である。産業側の石油化学製品製造と廃棄物焼却の両方を大々的に拡大するという計画は、気候緩和のための緊急の必要性と両立しない。我々の分析は明らかに、プラスチック製造の削減を伴う廃棄物防止は、温室効果ガス(GHG)を削減するための最も効果的な方法であり、ますます深まる気候変動の流れを変えるために現実的な唯一の方法であることを示している”。

  • レイチェエル・ラッベ=ベラス:5つの還流(5 Gyres) 科学計画・開発マネージャー
     ”5 Gyres の『CIEL プラスチックと気候報告書』への協力は、潜在的に加速されているマイクロプラスチックからの温室効果ガスを含んで、海洋プラスチックの可能性ある温室効果ガスの影響、及びプラスチックの海洋生態系による CO2 取り込みの影響を説明するのに役立つ。 5 Gyres は海洋プラスチックについての専門性はあるが、この報告書は今日に至るまで、海洋プラスチック温暖化ガス排出について目を向けた唯一の科学的出版物なので、これは 5 Gyres にとって新奇な対象であった。海洋プラスチック汚染に関する10年の研究の間に、我々は、この問題に関する我々の理解の進化を観察している。今、我々は今まで以上に、プラスチックが海洋に入り込む前の海洋ラスチック発生源を理解する方向に関心が移ってきていることを見てきた。 5 Gyres の根底にある信念は、我々は発生源から海洋へのプラスチック汚染の流れを止めなくてはならないということであり、そのことは、この報告書の中に見ることができる。 CIEL は上流のプラスチック製造の影響から、海に浮遊し、海岸に打ち上げられ、あるいは海底に沈んでいるプラスチックの”寿命の終わり”までの話を繋げつつ、勇気をもって我々を仲間に入れることに指導力を発揮した”。

  • フォン・フェルナンデス:プラスチックからの解放(Break Free From Plastic)グローバルコーディネーター
     ”気候緊急事態とプラスチック汚染危機の両方は、化石燃料依存によって引き起こされる。したがって、プラスチックの製造、使用、及び廃棄を続ければ、さらに気候危機を悪化させるであろうということは驚くべきことではない。簡単に言えば、使い捨てプラスチックがもっと増えれば気候変動はますます暴走するということである。人類が壊滅的な気候変動を防ぐ真の戦いの機会を持つために、そして同時にプラスチック汚染危機を逆転するために、プラスチックの製造は著しく低減されなくてはならない”。

報告書にアクセスする:https://www.ciel.org/plasticandclimate


専門家らの話
  • ジェフリー・モリス Ph.D.:サウンド・リソース・グループ
     ”我々のゴミには少なくとも 3つの非常に問題のある物質が存在する。オムツ、ペット廃棄物、及びプラスチック容器とフィルムである。それらを管理するには、固体廃棄物システム管理者を夜も寝かさないでおくことである。特に、リサイクル仕分け装置においていくつかの問題を引き起こすプラスチック容器とフィルムは、廃棄物発電施設で焼却されるときに多量の化石炭素を排出する源であり、また環境中のゴミとしていたるところに存在する。プラスチックは燃料源として比較的非効率的であり、また人間と環境の健康に有害な汚染物質を排出する多くの添加物を含んでいるので、我々の水や土地を散らかすプラスチックに対する解決策は、廃棄プラスチックをエネルギー源として使用することではない。それは、廃棄プラスチックが我々の気候と健康に対してすでにもたらしている危害を増大させるだけであろう。むしろ我々のプラスチック危機に対する効果的な解決は、全ての種類の使い捨てプラスチック容器を廃絶する、再使用可能でたい肥化可能の食品持ち帰り用の容器を推進する、そして道端、水路、及び海で現在見出されるすべてのプラスチックに真の生物分解性を求めるなどの行動により、プラスチック廃棄物の生成の削減がらもたらされる必要がある”。

  • グラハム・フォーブス:グリーンピース、世界プラスチック・プロジェクト リーダー
     ”この報告書は、なぜ企業の使い捨て文化が終わらなければならないかについてのもう一つの例である。プラスチックは、海洋哺乳類を殺し、我々の健康を危険にさらし、世界の汚染危機を作り出しているだけでなく、それらは壊滅的な気候変動に寄与している。企業と政府は使い捨てプラスチックを直ちに廃止し、再使用のシステムに向けて進むための強い行動をとらなくてはならない”。

  • プリシラ・ヴィラ:アースワークス( Earthworks)、アースワークス南テキサス組織者
     ”プラスチックは、石油とガスからできているので、気候大災害を煽り、石油とガス汚染は気候変動が急速に加速されている主な原因である。ガルフ海岸及びアパラチア地域に計画されているプラスチック製造施設は、脆弱な地域をハリケーン・ハービー(訳注:2017年8月末にテキサス州を襲った大型ハリケーン)のような、もっと激しい嵐で脅威にさらすとともに、世界の気候危機をさらに悪化させることになるであろう。我々は使い捨てプラスチックを含んで、化石燃料からの脱却を早急に進める必要がある。”

  • ジャクリーン・サビッツ:国際海洋保護団体オセアナ(Oceana)、北アメリカ首席政策担当
     ”この報告書は、我々の海洋に流れ込む、毎分ダンプトラック一台分に相当するプラスチックの洪水は氷山の一角であることを示している。窒息しそうなウミガメ、餓死しそうな海鳥、そして死にかけているクジラに、我々はプラスチックが原因の氷帽(訳注3)の氷解、海面上昇、及び壊滅的な嵐も加えることができる。海岸の住人であろうと又は農民であろうと、海洋哺乳類であろうと又はウミガメであろうとであろうと、プラスチックは敵である。我々はその製造を制限し、次に削減していく必要がある。企業は我々により良い選択肢を提示しなくてはならない。さもなければ、我々は全て、文字通りではなくても、比ゆ的に、プラスチックの中で溺死するであろう”。

  • ダイアナ・コーヘン:プラスチック汚染連合(Plastic Pollution Coalition)、共同設立者、 CEO
     ”我々は、プラスチックの憂慮すべき気候への影響を示すための CIEL とそのパートナーによる新たな報告書『ラスチックと気候:プラスチック地球の隠されたコスト』を称賛する。プラスチック汚染は緊急の世界的危機であり、プラスチックは、抽出から廃棄及び焼却に至るそのライフサイクルの全ての段階で汚染する。これは、我々がもはや通常のビジネスとして受け入れることができない決定的な瞬間である。地球とそこに生きる全ての生物のために、我々と一緒にシステムを変えることを求めていこう”。


訳注1
訳注2
訳注3


化学物質問題市民研究会
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