Mother Jones 2015年7月29日
除草剤中の奇跡と言われる成分は
実際には効果がないと
科学者らは言う


情報源:Mother Jones, Jul. 29, 2015
Scientists Say Supposedly Miraculous Ingredients in Weed Killers Don't Actually Work
By Tom Philpott
http://www.motherjones.com/tom-philpott/2015/07/are-farmers-using-nanotech-fight-superweeds

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年8月5日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_15/150729_Mother-Jones_Ingredients_in_Weed_Killers.html

 農薬は研究室から農場に行く前に、まず環境保護庁(EPA)により審査されなくてはならない。しかし、農薬は一般的に、時には製造者により、時には農民自身により、殺虫剤の場合には植物の葉に一様に広がらせることにより、除草剤の場合には効果的に雑草を枯らすよう植物の外皮を貫通させることにより、農薬の効力を増強する補助剤と呼ばれる物質で混合される。
 補助剤はいたるところで使用されているにもかかわらず、EPA によりまったく審査されない。それらは”不活性”成分であるとみなされているからである。
 カリフォルニアにおけるアーモンド開花時期のミツバチ大量死の原因として殺菌剤と混合された補助剤が疑われた昨年、私は初めてそれらについて書いた。最近、業界ウェブ Ag Professional に掲載されたパデュー大学の雑草科学者によるびっくりするような記事が補助剤について私の関心を再び呼び起こした。その記事は、これらの添加物が規制されない、まるで開拓時の西部のような状況を描いている。

 その記事の中で著者は、除草剤耐性雑草の蔓延という災難に対処する奇跡の解決法のひとつとして、二つの会社が補助剤製品を熱心に促進していることに言及している。それは、耐性雑草が現在 6,000 万エーカー以上の農地を襲っているのだから、力強い主張である。

 さらに妙なことに、両社は彼らの製品の効果はナノテクノロジーによるものであるとしている。ナノテクノロジーは、普通の物質を微小な粒子に分解すると通常のサイズの時とはきわめて異なる様子でふるまう特性を持つという事実を利用する、議論があり、少しばかり規制されているエンジニアリング・ツールである。ナノ粒子は非常に微小なので、それらのサイズはナノメートル、10 億分の1 メートル、という単位で測定される。人間の髪の毛の幅は約 80,000 ナノメートルであり、ナノ粒子は通常 100 ナノメートル以下のサイズである。

 ミネソタを拠点とする C&R エンタープライズという会社の ChemXcel と呼ばれる補助剤は、グリホサートのような一般的な除草剤と混合すると、除草剤耐性を持つ雑草を枯らすと主張している。それは、”個々の DNA 遺伝子配列を内部的にコーティングすること”により”グリホサートの化学的性質を変える”特許登録された独占所有権のあるナノドライバー”を通じてその魔法を働かせると主張している。

 また、 Max Systems という会社により市場に出されている NanoRevolution 2.0 というのもある。同社が言うには、少量の NanoRevolution 2.0 を混ぜることにより、”雑草の駆除が難しい場合でも、より早い強化された除草剤吸収を雑草にもたらし、ナノ粒子が葉の構造に浸透すると除草剤を乗せたナノ粒子が除草剤を直接雑草の根系に運ぶ”。

 この主張とナノテクの利用と言うことにびっくりして、私は EPA に問い合わせをし、何か言うことがないか尋ねた。”我々はこれらの特定の製品についてはよく知らないが、EPA は農薬の定義、すなわち、それらは有害生物を殺す、寄せ付けない、防ぐ、又はそれ以外の方法で抑制するという主張に合致する物質に対して法的権限を持っている”と、EPA の報道官はメールで述べた。”農薬補助剤に関する限り農薬であると主張していないので、補助剤は農薬ではなく、従って補助剤の成分は農薬の活性成分でも不活性成分でもなく、従って EPA の審査対象ではない”。

 Ag Professional の記事の共著者であるパデュー大学の科学者ビル・ジョンソンは彼のチームとともに、これらの”ナノ”製品のどれも、宣伝されているようには機能しないことを見つけたと述べている。この記事を書いた経緯を次のように述べた。”私はこれらのことがインディアナ州北部で推し進められているという報告について問い合わせを受けるようになった”。

 そこで彼と仲間たちは、グリホサート耐性であることが知られている一区画の雑草に、製造者により推奨されているレベルでグリホサートと混合した製品を散布してテストした。その結果は業界誌 Ag Professional に発表されたが、しらけたものであった。ラウンドアップ(グリホサート除草剤のモンサント社版)は雑草の13.8%を枯らしただけであった。 ChemXcelとの混合では雑草の15%を、一方、NanoRevolution 2.0/Roundup 混合では雑草の18%を枯らせた。

 ジョンソンは、除草剤は常に補助剤と混合される。補助剤は概して除草剤が雑草の外皮を浸透するのを助けるために必要であると説明した。しかし、これら特定の補助剤は市場に出ている従来の補助剤と何ら変わらない役割りしか果たさず、会社が主張するように、除草剤耐性問題を解決するようには見えない。

 C&R Enterprises のオーナーである C.J. マンネンガはジョンソンの評価に強く反発し、彼の結果に異議を唱えた。”我々は、我々の製品が有効であることを知っている”と彼は述べた。”我々はそれをジョージアで示した。オハイオで、ミズーリで、アイオワで示した”と彼は述べた。我々が火曜日(7月28日)の午後に話した時に、マンネンガはカンザス州オズボーンで、”この製品に非常に関心を持っており・・・、私がこの製品はよく機能することを示したい”大手の農業化学品販売業者に会うつもりであると、私に告げた。

 製品情報シートはその活性成分を示していないが、彼は快く私に明らかにした。”それはカーボン・ナノチューブである”。

 カーボンナノチューブは最も議論あるナノ粒子のひとつであり、吸入すると肺を突き刺さす能力があり、問題を引き起こすアスベストとしばしば比較される。マサチューセッツ大学ローウェル校の研究者らによる2014年の評価によれば、カーボンナノチューブは到底安心できるものではない:
 カーボン・ナノチューブ(CNT)のライフサイクルを通じての生態系への影響はまだ調査中であるが、ある水生生物にはリスクを及ぼすかもしれないということを証拠が示唆している。近年、CNTs の規制には著しい進展があるが、これらのナノ物質の潜在的な発がん性影響への関心の欠如は、安全に対する誤った意識をもたらすかもしれないと言うことを意味する。

 一方、NanoRevolution 2.0 の製造者である Max Systems の従業員からは、私のコメント要請に対して回答がない。



化学物質問題市民研究会
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