WWF/CHEMTrust/HEAL リーフレット2010年8月
化学物質のカクテル 有害な混合物が私たちのホルモンを乱す
EU の化学物質政策はどのように私たちの健康と環境を守るのか?

情報源:A Lieflet by WWF, CHEMTrust and HEAL, Aug 2010
Chemical Cocktails
Hermful Mixtures Upset Our Hormones
How Eu Policy Should Protect Our Health and The Environment
http://assets.panda.org/downloads/edc_chemical_cocktail_leaflet.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2010年8月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_10/10_08/1010_Aug_Chemical_Cocktails.html


身の回りの日用品−有害化学物質に目を光らせよう!

 あなたが使用しているボディーローション、缶詰食品、MP3プレーヤーは、あなたの健康や野生生物に有害で取り返しのつかないダメージをもたらすかもしれない様々な化学物質を含んでいるということをご存知ですか?

 工業化学物質は現代生活の重要な一部分であり、プラスチックから塗料、電気製品、化粧品、おもちゃにいたるまで多くの日用品の中で使われています。それらが多くの生活上の便利さをもたらすことは疑いありませんが、それら化学物質の多くは最初に市場に出されるときに、安全性について適切にテストされ評価されることはありませんでした。現在、それら化学物質のあるものの毒性テストが多くの懸念を提起しています。

 人工化学物質と農薬は、工場から、農場から、消費者製品から、直接環境中に放出されます。車、家具、電子機器、調理器具、衣類、靴、その他多くのものは全て、あなたの体内に入り込み、それらのあるものはあなたの体のホルモン系をかく乱することができる化学物質を含んでいます。

 あなたは、赤ちゃんの哺乳瓶に使われているビスフェノールA(BPA)や床材のような塩ビ製品中の可塑剤(フタル酸エステル類)の安全性に関する議論を聞いたことがあるかもしれません。ホルモンかく乱物質は大人と子どもに広範な影響を及ぼし、精子数の減少や発達障害をもたらします。胎児や新生児は最も脆弱です。ホルモンかく乱物質への曝露は胎内の赤ちゃんの発達中に始まり、後になってから影響が出るかも知れず、それは取り返しのつかないことです。

ホルモンかく乱物質とは何か

 ホルモンかく乱物質は、私たちの体内の化学的信号である天然ホルモンの作用を阻害する化学物質です。

 私たちのホルモンは内分泌腺から出るので、これらの化学物質は時には内分泌かく乱物質又はEDCsとも呼ばれます。このことは、それらが私たちの体の機能を阻害し、生殖、行動、脳機能、免疫系に問題を引き起こします。いくつかの研究は、たとえ私たちが極めて微量の化学物質に曝露しても、それらの影響を受けることを示唆しています。低用量影響と呼ばれています。

内分泌かく乱物質には次のようなものがあります
  • 化粧品や家庭用クリーナーなどに含まれるパラベンのような保存剤
  • 床材や靴などに含まれるフタル酸エステル類のような可塑剤
  • 赤ちゃんの哺乳瓶やDVDのためのポリカーボネート・プラスチックを作るために、又は食品缶詰や感熱紙に使用されるビスフェノールA
  • タイヤ、印刷インク、塗料、布製品処理に使用されるオクチルフェノール/オクチルフェノールエトキシレート
  • サンダルやおもちゃ用の塩ビプラスチック中の安定化剤として使用されている有機スズ化合物

ホルモンかく乱作用に関連する健康影響

男性の生殖健康をかく乱する化学物質:
少年、男性、そして将来の世代に対する一生の脅威


 いくつかのEU諸国では、若い男性の5人に1人は生殖系に問題があります1。男性の”ジェンダー・ベンダー”ホルモンかく乱物質への曝露がこの問題に関係していると言われています。動物のオスの研究もまた私たちが曝露しているかもしれない男性ホルモン(テストステロン)をブロックする化学物質が、ペニスや睾丸の先天的異常や精子数の低下を引き起こすかもしれないことを示しています。したがって、これらの化学物質が男の赤ちゃんの先天的異常、若い男性の精子数低下、精巣がんなどに役割を果たしているようです。

女性の乳がんのリスク

 ヨーロッパでは約10人に1人の女性が現在、乳がんになっており、20年前より高い割合となっています2。その割合が高くなったの、寿命、高年出産、遺伝的リスク、乳がん発見率の改善だけのためではありません。

 エストロゲン様のホルモンかく乱物質が増えていることを疑うのに十分な理由がありあす。女性のエストロゲンへの生涯曝露が乳がんのリスクに影響を及ぼすということがよく知られているからです。研究は、人々のホルモンかく乱化学物質への曝露に対応せずに、乳がんを減らすことはできないことを示唆しています。

野生生物のメス化

 野生生物もまた、ホルモンかく乱物質への曝露による被害を受けており、CHEM Trustの報告書5は、生物学的に”メス化”というオスの野生生物中に見られる多くの影響を検証しています。世界中の汚染地域における多くの異なる生物種のいくつかの個体群の中で、繁殖力の低下が報告されています。

ホルモンかく乱物質と関連する野生生物の影響

  • EUの河口及び北海の多くのオスの魚はメスの卵黄たんぱく質を生成している。
  • 世界の一部の場所のカエルとヒキガエルは精巣中に卵巣を持っている。
  • 例えばスペインではオスのハヤブサがメス化し、メスの卵黄たんぱく質を生成する。
  • カワウソの停留睾丸が報告され、ヨーロッパでは繁殖力が低下している。
  • 生殖器が小さいオスのホッキョクグマが発見されているので、それらもホルモンかく乱物質に影響されているように見える。
国際的な科学者らが警告
(脳の発達障害、先天性異常、糖尿病、肥満、不妊、乳がん/精巣がん)

 男性の精子数減少と乳がんの増加に加えて、研究は、化学物質が子どもの非常な早熟、女性の子宮内膜症、脳発達障害、心臓血管系疾病、肥満、糖尿病などに、ある役割を果たしているらしいということを強調しています。

 2005年、ホルモンかく乱物質による潜在的な健康リスクを懸念して、数百人の国際的な科学者らがプラハ宣言3訳注1)に署名し、私たちの曝露をを減らし、私たちの健康を守るために予防的行動が必要であると述べました。同様に国際内分泌学界が、2009年の科学的声明4訳注2)の中で、潜在的な内分泌かく乱物質によるリスクについて下記のように知識に基づく予防的決定の必要性に言及しました。

 ”内分泌かく乱化学物質への曝露による有害な生殖影響(不妊、がん、奇形)は強力であり、甲状腺、神経内分泌、肥満と代謝、そしてインスリンとグルコースのホメオスタシス(恒常性)などの他の内分泌系への影響について多くの証拠があります”。

訳注1
内分泌かく乱物質に関するプラハ宣言概要

訳注2
Endocrine Reviews 2009年6月号 内分泌かく乱化学物質に関する内分泌学会の科学的声明


カクテル効果

 毎日、私たちは、呼吸する空気、食物及び飲料水を通じて、人工化学物質の混合物に曝露しています。そして、たとえここの化学物質への曝露はそれ自身が影響を及ぼすレベル以下であっても、新たな科学は、それらが加算され洗剤液に危険な”カクテル効果”を引き起こすことを示しています。

 最近のデンマークの調査は、食品や屋内環境で一般的に見出されるホルモンかく乱物質への日々の複合曝露が2歳の子どもたちにリスクを及ぼしているかもしれないという懸念を提起しています。この調査は、フタル酸エステル類エステル、パラベン、ビスフェノールA6のようないくつかの物質を対象にしました。同様に、ドイツ環境局の研究は、3歳〜14歳までの599人の子どもたちの内591人からビスフェノールAを、いくつかのフタル酸エステル類エステク類の代謝物をほとんど全ての子どもたちから検出しました7

 エストロゲン(女性ホルモン)様の汚染物質又はテストステロン(男性ホルモン)を阻害する汚染物質、又は脳の発達に重要な甲状腺ホルモンをかく乱する汚染物質が全て一緒に作用することが見出されました8

 カクテル効果は、単独の化学物質を個別に検討し”リスク評価”を通じて安全レベルを決定している現在の政府のやり方は人々や野生生物が常に多くの化学物質に同時に曝露しているという現実を無視するものであることを意味しています。このやり方は、現実のカクテル曝露による私たちの健康リスクを過小評価するものです。したがって科学者らは現在、化学物質の複合リスクを評価するよう公衆当局に働きかけています9

代替は可能である

 多くの会社はすでに既知の又は疑いのあるホルモンかく乱化学物質をより安全な代替に替えることに成功しており、あるいは異なる製造プロセスを使用しています。ビスフェノールAを含まない赤ちゃんの哺乳瓶は現在、広く入手可能であり、パラベンを使用しない化粧品もあります。時にはその解決は、ホルモンかく乱性の難燃剤を加える必要のない低燃性の材料を使用するなど、異なる設計又は材料を使用しています。健康で環境に適切な製品を製造することを望む会社は可能な限り、ホルモンかく乱物質の使用を避けるべきである。いくつかの内分泌かく乱物質(EDCs)はケムセックのSINリスト(訳注3)に示されています。

訳注3
ケムセック(ChemSec)REACH SIN List

ホルモンかく乱化学物質に対応するEU政策

 10年以上前、欧州連合はホルモンかく乱物質の懸念への対応を開始し、1999年に、研究を推進し適切な政策措置を特定するために、”内分泌かく乱物質のための欧州共同体戦略(European Community Strategy for Endocrine Disrupters)を策定しました10。それ以来、REACH11訳注4)のようなホルモンかく乱物質を扱おうと試みる新たなEUの法律が施行されましたが、それらはまだ、効果的に実施されていません。REACH はまた、市民にホルモンかく乱物質がよりよく管理され、利用可能ならより安全な代替に置き換えられるということを確実にするために、改善される必要があります。

 新たに修正された農薬に関するEU法(訳注5)は、”有害影響を及ぼすかもしれないホルモンかく乱特性”を持った農薬は、曝露が無視できなければ最早使用のために承認されないと述べています。しかし、どの農薬がホルモンをかく乱するのか明確に述べておらず、欧州委員会が2013年12月までに基準のドラフトを作成するよう指示しています。したがって、それまではどの農薬が禁止されるべきかの多くの議論があるでしょう。

訳注4
EU 新化学物質政策 REACH 発効後の情報

訳注5
EurActiv 2009年3月16日 欧州連合(EU) 16年間の農薬見直しを完了


曝露が起きている。私たちは、今すぐ行動を必要としている


政治家はEU市民の健康を守る必要がある。彼らは次のことを確実にするする必要がある。
  • 可能な限りホルモンかく乱物質への曝露を排除するために既存のEUの法律の十分な実施
  • ホルモンかく乱物質の複合及び低用量影響に対応する新たな化学物質法
  • 例えばREACHの下で、最も懸念ある化学物質をもっと早く特定し、迅速な措置を取ること。このことは加盟国の規制当局にもっと多くのリソースを与え、仕事を緊急に処理できるようにするこ
消費者として、私たちはホルモンかく乱物質への曝露を低減する手段を取ることができる。
  • 肉と乳製品を少なくし、果物と野菜を多く食べる。(動物の脂肪は特にあるホルモンかく乱物質で汚染されることがある)
  • 農薬を使わないで生産される食物を食べる。可能なら(認証を受けた有機食品)。
  • 化学物質の不必要な曝露又は使用を避ける。特に庭と屋内での農薬使用。
  • 身体手入れ用品と化粧品の使用を最小にする。特に妊娠中及びの妊娠前。ホルモンかく乱に関係する化学物質を避け、生物分解性成分を使用している環境に適切な認定されたブランドから石けん、シャンプー、化粧品、洗剤などを選ぶ。
  • 屋内埃中を含んで屋内で見出される化学物質を除去するために、よく換気し、掃除機をかける。
ホルモンかく乱物質のリストに関する更なる情報:
http://ec.europa.eu/environment/endocrine

私たちは全て、積極的な消費者になろう!
  • 地方政府やく中央政府に、もっと厳しいホルモンかく乱物質の規制を行なうよう手紙を書く。 http://www.chemicalshealthmonitor.org/spip.php?rubrique122
  • EU化学物質規則REACHの下に新たな公衆の”知る権利”を利用し、製品中の有害化学物質に関する情報を要求する。(説明資料とサンプルレターは下記ウェブページ)
    http://www.chemicalshealthmonitor.org/spip.php?rubrique111
  • 地域の当局又は学校に、どのような農薬が公共の場所、公園、学校のグラウンドなどで散布されているのか質問する。(サンプルレターは下記ウェブページ)
    http://www.pesticidescancer.eu/spip.php?rubrique2
  • 学校は室内装飾作業に環境的に適切なクリーナーと革新的な材料を使用するよう要求する。

 脚注

1 CHEM Trust report, written by Prof R. Sharpe, on EDCs and male reproductive health disorders, 2009
http://www.chemtrust.org.uk/documents/ProfRSHARPE-MaleReproductiveHealth-CHEMTrust09.pdf
2 CHEM Trust and HEAL report, written by Prof A. Kortenkamp, on breast cancer and exposure to hormonallyactive chemicals, 2008
http://www.chemtrust.org.uk/documents/BCexposuretochemicals.pdf
3 http://www.ourstolenfuture.org/Consensus/2005-0620praguedeclaration.htm
4 http://www.endo-society.org/journals/ScientificStatements/upload/EDC_Scientific_Statement.pdf
5 CHEM Trust report, written by G. Lyons, on effects of pollutants on male vertebrate wildlife, 2008
http://www.chemtrust.org.uk/documents/Male%20Wildlife%20Under%20Threat%202008%20full%20report.pdf
6 Danish survey:
http://www.mst.dk/Publikationer/Publications/2009/10/978-87-92548-81-8.htm
7 http://www.umweltdaten.de/publikationen/fpdf-l/3822.pdf
8 http://ec.europa.eu/environment/chemicals/pdf/report_Mixture%20toxicity.pdf
9 US National Academy of Sciences Report, Phthalates and Cumulative Risk Assessment, 2008
10 http://ec.europa.eu/environment/endocrine/documents/comm1999_en.htm
11 Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals




化学物質問題市民研究会
トップページに戻る