米化学会 ES&T サイエンス・ニュース 2008年4月16日
PFOS は低用量暴露で免疫系に影響を与える
研究者らは、PFOSが一般のヒトの暴露レベルでマウスの免疫系に影響を与えることを発見

情報源 ES&T Science News - April 16, 2008
PFOS alters immune response at very low exposure levels
Researchers find that PFOS affects the immune-system responses in lab mice
at levels reportedly found in the general human population.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2008/apr/science/cc_turtles.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年4月29日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_08/08_04/080416_est_PFOS.html


 毒性科学(Toxicological Sciences)に発表された論文(2008, DOI 10.1093/toxsci/kfn059)によれば、かつては防汚剤等に使われていた過フッ素化合物がヒト免疫系に影響を与えるかもしれない。マウスに毎日、28日間、経口でパーフルオロスルフォン酸(PFOS)を暴露させる研究を行った結果、研究者らはマウスの免疫系がかつて報告されたことのない低いレベルで影響を受けることを観察した。

 サウスカロライナ医科大学医療小児科部門及び海洋生物医学センターのマーギー・ペデン・アダムスと彼の同僚らは、オスとメスのマウスに一般の人々に見出されるのと同等のレベルでPFOSを暴露させた。実際の環境中のレベルと同等なこれらのPFOSレベルは米疾病管理予防センターの全国健康栄養試験調査(NHANES)のデータの中で報告されている。全国健康栄養試験調査(NHANES)は、米国人の健康、栄養、及び汚染暴露の現状(スナップショット)を提供するものである。

 この論文の結果は、”PFOSへの暴露のために、今日、ある人々は免疫系が弱体化している”という仮説を支持するものである”と、サウスカロライナ州チャールストンのホーリングス海洋試験場の研究者である共著者、ジェニファー・ケラーは述べている。

 PFOSは最早、製造されていない。その製造者であった3M社は、2002年までに製造を止めることに同意していた。しかしそれは難分解性の地球規模の汚染物質である。PFOS 及び、パーフルオロオクタン酸(PFOA)のような他の過フッ素化合物が野生生物やヒトの体内に蓄積していることはよく知られている。いくつかの研究がすでにPFOAによる免疫低下について報告しているが、PFOSの免疫系への影響についての研究は現在まで発表されたことはなかったとケラーは述べている。

 ペデン・アダムスと同僚らは、B6C3F1マウスに、体重1kg当たり5mgの最大管理用量(TAD)を毎日チューブを通じて経口でPFOSを投与した。実験の終了時点において、マウスは有毒性影響の目に見える大きな兆候は示さなかったが、科学者らは免疫毒性反応を観察した。腫瘍やウイルス感染細胞を攻撃する特別のタイプの白血球細胞であるナチュラル・キラー(NK)細胞による活性は、PFOSに暴露したオスのマウスにおいて著しく増大(約2倍)した。”更なる研究が行われるまで、NK細胞のこの種の変調が有用かどうかわからない”と共著者であるネバダ・ラスベガス大学のデボラ・ケイルは説明している。

 同時に、抗体が抗原を攻撃し破壊していることを示す免疫系であるプラーク形成細胞(PFC)反応の抑制が、コントロール・マウスに比べて低用量暴露でオス及びメスの両方で起きた(オス及びメスでそれぞれ0.05 及び 0.5 mg/kg TAD)。

 しかし、もっと重要なことは、T-independent抗体生産が抑制されたとことの発見であるとペデン・アダムスは述べている。T-helper細胞からの助けなしに抗体をつくるB-cellの能力が影響を受けた。このことを知ることは、PFOSがどのように抗体生産を減少し、ヒトと野生生物へのリスクは何なのかを調べるために重要であるとペデン・アダムスは指摘している。

 ”PFOSへの低用量暴露はまた、妊娠中の免疫系発達に影響を与えるかもしれない”とケイルは述べている。この研究者らのグループは毒性科学(Toxicological Sciences)に過フッ素化合物(PFC)反応は胎児期にPFOSに暴露しただけの成マウスに障害をもたらすという姉妹編の論文を発表している(2008, DOI 10.1093/toxsci/kfn015) 。”胎児の発達は敏感な期間なので、この期間に過フッ素化合物が原因となるかもしれない将来の長期的影響について検証することは重要である”とケイルは述べている。

 免疫系が抑制されると成獣と成人は疾病に脆弱になるとケラーは述べている。2006年に発表された研究で(Environ. Sci. Technol. 40, 4943-4948)、アルバーニーにある大学、SUNYの環境健康科学部門のクルンサチャラム・カナンは、カリフォルニアの海岸で80頭のメスの成ラッコの肝臓を検査した。彼と同僚は、感染した病気のラッコは健康なラッコに比べてPFOAとPFOSの濃度が著しく高いことを発見した。更なるマウスやトカゲ研究もまた”PFOSによる免疫抑制を暗示”する”とカナンは付け加えた。

 免疫反応がどのようにして起こるのか、またその作用のメカニズムは明らかではないとカナン及びペデン・アダムス述べている。”マウスはPFOSのような作用物質 peroxisome proliferator-activated 受容体アルファ(PPARα)に非常に敏感かもしれない”とペデン・アダムス述べており、”そして、もしそのメカニズムがPPARαによるものならヒトへの健康影響はたいしたことはないかもしれない”としている。このことが、変化がどのようにして起こるのかを理解するために、更なる研究が必要であるかの理由である。

 米EPAの免疫毒性学者ボブ・リューブクは、”これら研究者らの結果は、ヒトにおいて報告されているものと同様な血清濃度において抗体生成の著しい抑制を見出しているので、特に注目に値する”と述べている。カナンもこれに同意して、”この研究のよかったことは、使用された暴露用量が現実的であり、測定された血清中PFOS濃度は、ヒトで見出される範囲内であったということである”。

キャサリン M.コーネイ(CATHERINE M. COONEY



化学物質問題市民研究会
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