ETC グループ ニュース・リリース 2006年8月16日
モンサント社発表
デルタ&パイン・ランド社とターミネータ種子技術を買収


情報源:ETC Group News Release, 16 August 2006
Monsanto Announces Takeover of Delta & Pine Land
and Terminator Seed Technology (again)
http://www.etcgroup.org/article.asp?newsid=572

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月28日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_06/06_08/060816_etc_Monsanto.html


 種子企業帝国の拡大を求めて、世界最大の種子企業であるモンサント社は昨日、世界的な綿の種子会社で米ミシシッピー州に拠点を置くデルタ&パイン・ランド社(D&PL)を15億ドル(約1,650億円)で買収すると発表した。
 モンサント社 とD&PL 社は、アメリカの綿の種子市場で合わせて57%以上のシェアを持つ。中国、インド、ブラジル、メキシコ、トルコ、及びパキスタンのような主要な市場を含む13カ国にある D&PL 社の関連会社も含むこの買収は、モンサント社が世界の最も重要な貿易農産物のひとつを支配下に置くとともに、数百万の農民が遺伝子組み換え(GM)の綿の種子を受け入れざるを得ない圧力を受ける状況となることを意味する。

 マリ共和国の全国小作農団体の代表イブラヒム・カウリバリは、”この合併はすでに存在する西アフリカ諸国政府に対する遺伝子組み換え種子を受け入れさせる巨大な政治的圧力をさらに強めることになる”−と述べている。デルタ&パイン・ランド社(D&PL)は、モンサント社なら及ぼすことができるような影響力を行使することはできなかった。この取引は我々農民と食料主権に対する重大な脅威である。アフリカの農民団体と民間社会団体は多国籍企業と米国国際開発庁(USDA)のアフリカ諸国政府に対する遺伝子組み換え作物の採用を求める圧力に抵抗するために国際的な支援を必要としている。

不妊綿花
 デルタ&パイン・ランド社(D&PL)はアメリカ農務省とともにターミネータ技術−遺伝子組み換えにより収穫時の種子を不妊にする技術−の初期の開発を行ったことで悪名高い。農民、民間社会、及び多数の政府による大規模な反対にもかかわらず、デルタ&パイン・ランド社(D&PL)はその技術を商業化すると繰り返し主張し、彼らの主要な市場は、アフリカ、アジア、及びラテン・アメリカであると宣言した。同社はすでに温室でターミネータ遺伝子を含む遺伝子組み換えの綿とタバコを栽培していると主張している。

 世界中で500以上の団体が、不妊種子は収穫種子に依存している14億人以上の人々の生計と文化を破壊するとしてターミネータ技術の世界的な禁止を要求している。2006年3月、国連生物多様性条約(UN-CBD)の2年毎の会合で加盟国政府は満場一致でターミネータ種子のフィールド・テストと商業化に関するに国際的なモラトリアムを再確認し強化した(訳注1)。

 デルタ&パイン・ランド社(D&PL)の買収により、モンサント社は、遺伝子種子不妊技術に関するアメリカ、ヨーロッパ、及びカナダでの特許権とともに、ターミネータ種子を商業化することに特化した研究プログラムを入手する”−とETCグループのホープ・シャンドは述べた。”我々は、モンサント社は D&PL から入手するであろうターミネータ研究プログラムを閉鎖し、これを最後にターミネータ特許を断念することを社会的に公約することを求める”−と彼は述べた。

モンサント、綿花への適用を回避
 モンサント社による1998年のデルタ&パイン・ランド社の18億ドル(約2,000億円)での買収計画は、ターミネータ技術に関し世界的に議論が行われていた1999年に破談となった。大きな反対に対応して、モンサント社の前 CEO、ロバート・シャピロは1999年に、同社は不妊種子技術の商業化は行わないと公に約束した。しかし、2005年に同社は、ターミネータ種子を非食料作物(例えば綿?)には使用すると示唆しつつ、”食料作物には不妊種子技術を商業化せず、将来、ターミネータの他の用途を除外することはしない”と公約の記述を修正した。

 本日のETCグループとの電子メールによる連絡で、モンサント社の報道官ロリ・フィッシャーは種子を不妊とする技術を使用するつもりはなく、”食料作物に対しては不妊種子技術を商業化しない”という2005年の公約に立っていると伝えてきた。この公約はまた、”モンサントの人々は技術の発展に伴いこの立場を常に再評価する”と述べている。

 ETCグループは同社の公約は将来の技術開発について門戸は開放されており除外するものではないということを指摘する(1)。モンサントの公約は、同社はいつでもその公約のどの部分に関する立場も変更することができる。綿は世界で最も儲かる非食料商業農産物のひとつである。それはモンサントの最初のターミネータ遺伝子作物の標的となるのではないか?

熱狂的な買収
 モンサントの D&PL 買収は種子会社によるこの10年間の一連の買収劇のうちの最近の出来事である。モンサントは2005年1月のセミニス社(Seminis)買収で世界最大の野菜種子会社になった。2005年4月にはモンサントは、アメリカ第三位の綿会社であるエマージェント・ジェネティックス(Emergent Genetics)(ストーンビル(Stoneville)を含む)を買収した。過去数年間、モンサントはアメリカに拠点を置く12社以上のトウモロコシと大豆の種子会社を支配下に置いた。ちょうど3ヶ月前に、D&PL はシンジェンタ社(Syngenta)のインド、ブラジル、ヨーロッパ、及びアメリカのいくつかの綿部門を含む世界的な綿種子部門を買収したばかりである。

世界の綿花王
 デルタ&パイン・ランド社(D&PL)の買収によって、モンサントは世界中で綿の細胞にバイオテク特性を注入することを目指している。西アフリカの抵抗が高まっているにもかかわらず、2004年に D&PL はブルキナファソ(訳注:アフリカ西部の内陸国)、マリ、及びエジプトで遺伝子組み換え綿のテストを実施した(2)。モンサントと D&PL はすでにインドの複合綿種子市場の推定3分の1を支配下に置いた。 モンサントによれば、D&PL は現在、ブラジルの綿種子市場の3分の1を、そしてオーストラリア市場のほとんど4分の1を支配している。

 モンサントの D&PL 買収は6月24日のジュネーブにおけるドーハラウンド(訳注:ドーハ開発ラウンド)の決裂の後に行われた。特に西アフリカの綿輸出国は、アメリカにおける綿生産者に対する綿補助金を引き下げさせるため、また綿完成品のためのEU市場を拡大するために世界貿易機関(WTO)を頼りにしている。WTOでの不成功により、アメリカの40億ドル(約4,400億円)の綿補助金は据え置かれ、アフリカとアジアの綿栽培農民の前途は暗いように見える(訳注:転機を迎えるWTOドーハラウンド)。
 このことはモンサントの様な豊富な資金と長期的市場戦略に欠ける D&PL にとっては悪いニュースである。モンサントは綿での主要な競争相手である D&PL を15億ドル(約1,650億円)で買収しようとしているが、この金額はWTO貿易交渉が再開する以前の1998年にモンサントが申し出た金額より3分の1安い。モンサントの展望では、アメリカはいずれ同国の綿経営への補助金を下げなくてはならず、その時にはアメリカにおける綿種子ビジネスはほとんど姿を消し、市場はアフリカとアジアにシフトするというものである。モンサントは、綿種子提供者である限り、そして全ての入手可能な種子用途が遺伝子組み換え特性を持つ限り、結論を待つことができる。

独占支配への挑戦
 買収後のアメリカの綿種子市場のほとんど60%を支配することで、モンサントはアメリカにおける反トラスト監査を受けることを予期しており、同社の社長はアメリカの綿種子会社でありアメリカ市場で約14%のシェアを持つストーンビル社(Stoneville)を買収することは放棄するであろうと述べている。”もしEUがアフリカの綿生産農民を支援し、アフリカの綿輸出利益を改善するすることに真剣になるなら、反競争政策に対する攻撃であるとしてブリュッセル(訳注:司法裁判所)においてモンサントと D&PL の合併拒否の措置に着手することができる”とETCグループのパット・ムーニーは述べた。”これら二つのアメリカの会社の合併は綿補助金の撤廃をもっと難しくし、ヨーロッパ消費者のための綿及び綿衣料の値段を不自然に高くする。ブリュッセルに投げ込まれた貿易障壁はワシントンDCの環状道路の内側でも見られるであろう。綿はEUの法廷にある!”とムーニーは述べた。

アメリカの綿種子市場における2005年のシェア(%)
デルタ&パイン・ランド社(D&PL)(モンサントに合併予定): 43.37%
ストーンビル (モンサント) :13.93%
バイエル・クロップサイエンス:25.32%
ファイトジェン(ダウ・アグロサイエンス):2.64%
その他: 14.74

出典:米農務省;数値は陸地綿(upland cotton)

 もし買収が承認されれば、モンサント社のストーンビル社とデルタ&パイン・ランド社の買収で、アメリカの綿市場の57%以上を占めることになる。
 米農務省によれば、2005年のアメリカの綿作付け面積の83%が遺伝子組み換え種である。

 デルタ&パイン・ランド社は、北米、南米、中米、ヨーロッパ、南アフリカ、トルコ、インドにある会社を含んで世界で13カ国に関連会社を持つ。

Notes:
(1) 2006年2月、国際的な”ターミネータ禁止キャンペーン(http://www.banterminator.org)”は、モンサントが最早全ての食料作物でターミネータ技術の商業化を拒否していないと公約を修正していることを明らかにした(Monsanto Apologizes)。これに対しモンサントの公共政策担当重役ダイアン・ヘルンドンは、”我々は、一代交配技術(GURTs)の議論の中に出た’食料作物’という追加された言葉によって生じた混乱をお詫びする。我々は不妊種子をもたらす遺伝子組み換え手法を使用しないという約束に立っている。以上”−と書いてきた。モンサントのヘルンドンはまた、”我々は現在ウェブサイトを修正中であり、ウェブにデザイン変更の一部としてこの混乱を起こす言葉を削除することができるであろう”と書いていた。しかし、半年後においても、モンサントはこの混乱を起こす言葉を訂正も削除もしていない

(2) モンサント、”デルタ&パイン・ランド社(D&PL)買収”、2006年8月15日 http://www.monsanto.com

(3) 計算の説明:モンサントの1998年申し出18億ドルは2006年では22億5,000万ドルに換算される。モンサントの DPL への現在の申し出額は15億ドルであり、したがって2006年ベースでは、199年の申し出より7億5,000万ドル低いことになる。(米労働統計局 http://www.BLS.GO/CPI


訳注1(ターミネータ関連記事/当研究会訳)


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