2003年9月カナダ・アスベスト会議 概要
カナダのアスベスト : 世界が懸念する


情報源:International Ban Asbestos Secretariat
CANADIAN ASBESTOS: A GLOBAL CONCERN
Synopsis of Report by Laurie Kazan-Allen
October 23, 2003


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年12月4日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_03/03_10/03_10_23_ibas.html


 19世紀の後半以来、カナダのクリソタイル(白アスベスト)の開発により、この鉱物は商品価値のある天然資源となり、”白い黄金”とまで言われるようになった。ケベックを拠点とするアスベスト権益は、フランス語圏と英語圏との間に生ずる政治的な空白を利用して、オタワとケベックの政府及びいくつかの労働組合から厚い保護を受け、白い黄金を現金に変える一大盛況の中で、アスベスト労働者の健康とカナダの環境汚染は無視される結果となった。
 クリソタイルの使用を続けることに対する国際的反対が高まる中で、アスベスト産業界は、例えば、産業界から支援を受けた研究から得られたデータの隠蔽、研究で判明した事実の都合よいところだけの公表、不確実性を生じさせるための科学知識の組織的利用、など陰湿な方法で対抗する作戦を展開した。多くの科学者や記者らは喜んで産業界に肩入れし、科学的専門家としての職業的立場を利用して産業界の政策を支援することに協力した[注1]。

 カナダの外交官や大使館スタッフらは産業界の無料セールスマンとして、外国政府に働きかけ、また、アスベスト展開に関する機密情報をケベックの ”本庁” に報告していた。世界中のアスベスト製造者たちは、 ”カナダチーム” が先頭に立つ宣伝キャンペーンのおかげで、 ”管理された使用”の傘の下に保護と連帯を見出し、大いに利益を得た。

 カナダのアスベスト業界を牛耳る関係者たちは、カナダ及び国際的な団体が連携して、カナダのアスベスト製造と市場での使用に反対する 3日間の国際会議、 ”カナダのアスベスト : 世界が懸念する” の開催を計画していることを知って激怒した。この計画をつぶそうと試みて、この会議は ”無実” の繊維を攻撃して権益を得ようとするアスベスト代替品製造業者が仕組んだものだと主張したが、会議主催者及び組織委員会の使命感により、産業界の脅しは失敗し、会議は無事に開催された。

 多くの分科会が2003年9月12,13日に開催された、9月14日には活動家たちによる戦略分科会が開催された。参加した国際的及びカナダの著名な科学者、大学人、医療専門家、疫学者、及びキャンペーン活動家たちは、産業界が自分等の製品を守るために行ったよこしまな攻撃に曝された。それらには、公衆衛生キャンペーン活動家に対する AI 関係者による個人攻撃、世界保健機関や国際労働機関などの国際組織に対するアスベスト産業界と繋がりのある”専門家”による圧力、 ”アスベスト・セメント製品製造者協会(インド)” など産業界側代表による法的な脅し、などがあった。

 ジョー・コマーティン(新民主党)、エリザベス・メイ及びダニエル・グリーン(シエラ・クラブ・カナダ)、アンソニー・ピッジーノ(カナダ公共雇用者組合)、マリー・コック、ジム・ブロフィー、及びマーガレット・ケイス(OHCOW 診療所)、ジョアン・ケエック(鉱山監視カナダ)、ルイス・デ・グイル・(国立公衆衛生研究所ケベック)、及び、夫や父親、子どもをアスベスト関連の死で失い打ちのめされた人々が、目に見える確固としたカナダにおけるクリソタイルへの職業的及び環境的暴露によってこうむった被害の証拠を示した。
 インド、日本、レバノン、及びペルーからの代表者たちもカナダのクリソタイルを自国で使用した結果もたらされた恐ろしい人間の悲劇を語った。

 オタワ会議はアスベスト禁止の世界的運動の歴史に一つの分岐点を記した。第一に、労働組合を含むカナダの横断的分野がカナダ政府の”親クリソタイル”の立場を否認したことである。また、会議の直接的な結果として ”アスベスト禁止カナダ Ban Asbestos Canada ” が結成され、アスベストに関する国際的議論に新たな声をもたらすこととなった。
 さらに、独立した情報の流れとコミュニケーション展開の道筋が増大し、それらを通じて被害者たちは自身の経験を語ることができるようになったので、カナダのアスベスト政策を産業界が牛耳る事態は終わりを告げるであろう。
 カナダ本国での増大する反対が足かせとなり、親クリソタイル派のカナダ・ロビ−ストは世界の舞台での活動が弱められるであろう。また、これにより、背後にいるアスベスト輸出業者はアスベストの使用に反対する輸出先消費者や政府の反感を買うこととなるであろう。

 2000年以上前、中国の哲学者は、 「千里の旅も一歩から」 と述べた。会議報告書に述べられた展開は我々の共通の目標、アスベストの万国全面禁止、に向けた大きな一歩である。


[注1]
Braun L, Greene A, Manseau M et al. Scientific Controversy and Asbestos - Making Disease Invisible. International Journal of Occupational and Environmental Health.2003;9:194-205.
ブラウン L、グリーン A、マンソー M 他、『科学的論争とアスベスト−病気を見えなくする』 職業と環境健康の国際ジャーナル 2003;9:194-205

訳注 : 会議報告書のオリジナル全文は下記のページにあります。
CANADIAN ASBESTOS: A GLOBAL CONCERN by Laurie Kazan-AllenInternational Ban Asbestos Secretariat
Photographs: Ellen Simmons and Sugio Furuya

日本からは古谷杉郎(ふるやすぎお) 氏 (石綿対策全国連絡会議 / BANJAN (Ban Asbestos Network Japan) 事務局長) が ”The Impact of Canadian Chrysotile in Japan” として講演されています。


化学物質問題市民研究会
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