鉛が中国の子どもたちを脅かす
情報源:Environmental Health Perspectives
Volume 110, Number 10, October 2002
Lead Challenges China's Children

http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2002/110-10/forum.html#lead
掲載日:2002年10月20日



 中国の深仙(Shenzhen)市の最近の調査によれば、同市の子ども達の3分の2は、血中の鉛濃度が非常に高いことがわかった。これは中国の多くの工業都市に見られる傾向であると考えられる。2002年6月19日付け『ロスアンゼルス・タイムス』の記事によれば、中国医療協会の研究者達は、検査をした11,348人の子ども達の65%の血中鉛濃度が、世界保健機関(WHO)が安全とする基準値10μg/dLを超えていた。
 ワールドウォッチ研究所の研究員で環境健康問題を専門とするアン・プラット・マックギンによれば、中国での問題は特に急速に開発が進む都市部で顕著である。いくつかの研究が彼女の主張を裏付けている。
 2002年1月に刊行された『中国医療ジャーナル』によれば、中国大陸から香港に移住してきた子ども達の18%の血中鉛濃度がWHO基準値10μg/dLを超えていた。また、『環境リサーチ』2001年9月号に掲載された論文によれば、ウクシ(Wuxi)市の1〜5歳の子ども達の27%が10μg/dLを超えていた。

 鉛の血中濃度が高いことと、認識力の欠陥や行動上の問題を含む脳神経系障害とは、関係があるといわれている。高レベルの鉛への暴露は、子ども達の成長を妨げ、脳障害や精神遅滞を引き起こすことがある。子ども達は、鉛汚染した地面に近い所で呼吸しているので、大人に比べて影響を受けやすい。赤ちゃんは鉛汚染した物を口に入れるのでこのことはさらに顕著である。

 過去半世紀、中国では工業化に目が向けられ、環境保護ということは見逃されてきた。しかし、特にこの十年間で中国の水と大気はひどく汚染されており、このことを無視することはできなくなった。
 マックギン等は、中国が汚染された環境の浄化を始めたので、中国の子ども達の血中鉛濃度は今がピークであり、今後は下がっていくであろうと期待している。
 「確かに時がたてば、鉛は減少するであろう。環境問題について皆が問題にし始めている」と、ボストン大学医療センターの助教授で中国生まれのショビン・ウォンは述べている。

 子ども達を鉛の害毒から守るために中国が実施し始めた措置の一つは、加鉛ガソリンをやめることであった。しかし、『タイムス』の記事によれば、中国では無鉛ガソリンの採用はまだわずかである
 「私の理解では、中国では加鉛ガソリンは現在、製造されていない。しかし、特に西域地方では加鉛ガソリンを入手することができる」とワシントンを拠点とする”子どもの鉛汚染をなくす連合”の国際プログラム部長ジェームス・ロコーは述べている。
 中国政府当局は、中国では国をあげて加鉛ガソリンの排除に取り組んでいると述べている。
 「多くの大都市ではすでに使用されていないと思う」とワシントンの中国大使館広報部スン・ウェイドは述べている。

 アメリカでも加鉛ガソリンを止めてから、鉛暴露は劇的に減少した。1970年代以来、アメリカの子ども達の血中鉛濃度は、WHO基準値の80%である2.0μg/dLまで低下した。

 中国では、無鉛ガソリンに切り替わるまでに、もっと時間がかかるであろう。『中国医療ジャーナル』1999年10月号に掲載された上海第二医療大学の報告によれば、上海市が加鉛ガソリンを廃止した後も上海の子ども達の血中鉛濃度は期待したほど下がらなかった。報告者は、産業による排出が続いているからであろうと指摘している。
 マックギンが指摘する加鉛ガソリン以外の汚染源は、北アメリカから中国に輸入される電子廃棄物である。〔参照:e-Junk Explosion," EHP 110:A188-A194 (2002) 日本語訳:電子廃棄物の爆発的増加
 これらの電子廃棄物が分解されて、健康や環境を脅かしているとマックギンは述べている。

 汚染源が何であれ、中国政府は子ども達への危険性につい真剣になっているように見える。『タイムス』の記事によれば、中国政府当局は深仙(Shenzhen)市やその他の研究報告による警告に基づき、800〜1,000万人の子ども達を対象にした全国規模の鉛汚染調査を行うことを計画している。
 「中国人民は環境を改善するために多大な努力を払っている。今に大きな変化があるであろう」とウォンは述べた。

(訳: 安間 武)


化学物質問題市民研究会
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