EHP 2001年1月号 フォーラム
過剰な清潔さ−抗菌石けん

情報源:Environmental Health Perspectives
Volume 109, Number 1, January 2001
Too Clean for Comfort
By Ed Susman http://www.ehponline.org/docs/2001/109-1/forum.html#comfort

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2001年1月17日
更新日:2008年1月1日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_01/01_01/01_01_ehp_niehs.html



Photo credit: GreenwellEHP
 液状及び固形石けんに関する全国調査で、45%のものが抗菌成分を含んでいることがわかった。この抗菌成分は人間の健康に有益なことはなく、むしろ病原菌に抵抗力をつけるだけであると科学者が指摘している。2000年9月に開催された米感染症協会の年次総会において、ボストンにあるベース・イスラエル・ディーコネス医療センター研究員エリー・ペレンセビッチと彼女の仲間は、全国及び地方の23店で売られている液状及び固形石けんのリストを作り、それらがどのくらい抗菌剤を含んでいるかを調査した結果を発表した。

 ペレンセビッチと彼の研究仲間は、米国10州の店頭に置かれていた全国的ブランドの395の液状石けんと733の棒状固形石けんを検査した。その結果、76%の液状石けんがトリクロサン(triclosan)を、また30%の棒状固形石けんがトリクロカルバン(triclocarban)を含んでいることが判明した。「トリクロサンの作用に関する最近の研究により、これらを含んだ製品がバクテリアにトリクロサンや他の微生物剤に対する抵抗力をつけるという懸念をが生じている。余りにも多くの製品が市場に出回っているので、消費者は抗菌剤を含んだ石けんを購入しているという意識がないかも知れない。次に石けんを買うときには、成分をよく調べたほうが良い」とペレンセビッチは述べている。

 「トリクロサンは抗菌剤として長年使用されてきたが、それがバクテリアに対してどのように作用するか分かってきたのはつい最近のことである。細胞壁を作る酵素を出すエシェリチア大腸菌(Escherichia coli)や他の多くのバクテリアには、ある特定の遺伝子が存在する。トリクロサンはこれらの酵素をかく乱するのでバクテリアは細胞壁を作ることが出来ず、従って自己増殖をすることが出来ない」とタフツ大学ボストン医学校の分子生物学教授であり、ボストンの“抗生物質の使用を慎重にする連合会”の理事長、スチュアート・レビは述べている。レビによれば、もしこの遺伝子に突然変異が起これば、トリクロサンや他の抗生物質に耐性を持つバクテリアになるかもしれない。「トリクロサンは突然変異を誘発しないが、通常のバクテリアを殺すことにより、耐性に変異したバクテリアが生き残りやすい環境を作り出す」とレビは述べている。

 いまだかつて、抗菌性石けんの方が通常の石けんよりも良いということを証明した人はいない。「これらの抗菌成分を家庭用品に加えることにより感染症を防ぐことができるということを示す科学的なデータなど存在しない。しかしこのような抗菌成分は過敏なバクテリアを殺し、エシェリチア大腸菌やブドウ状球菌のような人体に有害で耐久力のあるバクテリアを生き残らせる結果となるということを示す研究がある。これらの製品を使用することにより、有害なバクテリアの延命を計るということは恐ろしいことだ」とペレンセビッチは付け加えた。

 そのような恐れは検討違いだと産業界の代表は反論する。「抗生物質耐性のバクテリアが増えているということは深刻な問題だ。しかし、病院や食品製造現場や家庭で通常に使われている抗菌製品がバクテリアに耐性を与えているいうことを示す証拠はない」とワシントンの“化粧品、トイレタリー及び香水協会”の科学担当副理事長、ジェリー・マックイウェンは述べている。「抗菌成分がバクテリアの耐性を助長するということを示す研究結果も幾つかあるが、これらの研究は管理された実験室で行われたもので、実際に消費者がいる現実の世界でバクテリアに起きることは反映していない」と彼は付け加えた。

 しかしペレンセビッチは「抗菌石けんが簡単に手に入るということが問題である。この調査により、トリクロサン耐性についてのさらなる調査研究が必要であるということが分かった」と述べている。

−エド・サスマン(Ed Susman)−

(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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