将来を汚染している:子どもの発達と学習に影響を与えるアメリカの化学物質汚染
ナショナル環境トラスト、社会に責任を負う医師達、アメリカ学習障害協会

Polluting Our Future: Chemical Pollution in the U.S.
that Affects Child Development and Learning
September 2000
National Environmental Trust, Physicians for Social Responsibility
and Learning Disabilities Association of America
http://www.safekidsinfo.org
掲載日:2000年10月4日,11日(追加)


TABLE OF CONTENTS
(内容)

I. Executive Summary: Major Findings
エグゼクティブ・サマリー:主なる研究結果10月4日掲載

II. Introduction
 (序文10月4日掲載

III. Methodology

IV. Findings: Reported Emissions of Developmental and Neurological Toxins
  Part 1
  Part 2
  Part 3
  Part 4

V. Developmental And Neurological Effects In Children--Incidence and Potential Trends
 (子どもの発達系及び神経系への影響−その発生率と傾向10月11日掲載

VI. Recommendations

Appendix A
  Recent Attention to Developmental and Neurological Toxins:
  Where to Find More Information
Appendix B
  Known or Suspected Developmental and Neurological Toxins Used in this Report
Appendix C
  References Used to Identify Known or Suspected Neurotoxins

Endnotes
参照



I.エグゼクティブ・サマリー:主なる研究結果

■報告された放出量
 アメリカ企業が1998年にアメリカ環境保護庁(EPA)に報告したデータ(入手可能な最も最近のデータ)によれば、アメリカの企業は子ども達の体と精神の発達に影響を与える危険性のある化学物質12億ポンド(訳注:約50万トン)をアメリカ全土の大気中及び水中に放出している。アメリカ毒物放出目録 TRI(Toxics Release Inventory)に報告された全ての有毒化学物質の半分以上(53%)は発達系又は神経系毒性物質であるかその疑いがある。

■推定される総放出量
 連邦政府に報告された放出量は、アメリカ全土で放出されている全ての化学物質のたかだか5%であると推定される。この推定と報告された化学物質の約半分が発達系又は神経系毒性物質であるかその疑いがあるという仮定に基づけば、大気中及び水中への総排出量は年間240億ポンド(訳注:約1,000万トン)であると推定される。

■最も放出量の多い州
 ルイジアナ州とテキサス州が発達系及び神経系毒性物質の放出量の1位及び2位を占めている。

■放出量の多い産業
 化学産業が発達系および神経系毒性物質の大気及び水中への放出量が最も多い産業であり、これに製紙、金属、プラスチック、電力が続く。

■懸念される産業
 印刷産業は発達系および神経系毒性物質であるトルエンの放出量が最も多い産業である。印刷工場は中小規模のものが多く、他の産業施設に比べて住宅地域の近くにあることが多いので、子ども達の健康に対する危険性が大きい。

■アフリカ系アメリカ人に対する大きな影響
 報告された全ての発達系毒性物質の放出量の46%以上を占める全米上位25郡について見ると、25郡の内の14郡に住むアフリカ系アメリカ人の比率は全米の平均比率を上回っている。言い換えれば、アフリカ系アメリカ人は発達系毒性物質に最も汚染された多くの郡内に大勢が住んでいるということである。

■増大する発達系及び神経系への影響
 発達系及び神経系毒性物質が子ども達の身体的及び精神的障害の発生率の増大原因となっていると考える科学者が増えている。

  • 若い母親の一胎出産における低体重児出産が過去8年間に5%増大している。
  • 若い母親の一胎出産における未熟児出産が過去8年間に4.5%増大している。
  • 心房隔壁障害(心臓の隔壁に穴があく障害)が過去8年間に倍増している。
  • 泌尿器閉塞障害(尿道の閉塞)が過去8年間に50%増大している。
  • 注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療に使用される薬剤リタリンの処方量の爆発的な増大から勘案して、たとえそれらが過剰な処方量であったとしても、ADHDがかなり増大していると考えられる。(リタリンを使用している子どもの数は、1971年以来4〜7年毎に倍増している)
  • 自閉症の発生率が過去30年間で倍増している。

■影響を受けている子ども達の予想数
 アメリカ国勢調査局によれば、120万のアメリカの18歳以下の子ども達(全ての子どもの17%)が、1つ又は2つ以上の発達、学習又は行動上の障害を持っている。国立科学アカデミーは今年の初めに、子どもの発達系及び神経系障害の約3%は、麻薬、たばこ等の既知の毒性物質及び鉛やPCBや水銀等の発達系及び神経系に対する既知の毒性物質によって引き起こされると発表した。これは36万人のアメリカの子ども達、すなわち200人に1人の子どもが既知の毒性物質に曝されて、発達系及び神経系の障害を受けているということを意味している。

■実際の影響はもっと大きい
 アメリカの子ども達に対する発達系及び神経系毒性物質の実際の影響は2つの理由により、恐らくもっと大きいと考えられる。すなわち、子ども達の発達系及び神経系の障害の25%は環境的要因と遺伝的要因の相互作用の結果かも知れず、また有毒化学物質が重要な、しかしまだ解明されていない役割を果たしていると思われるからである。さらに、これらの障害の3%は、発達系及び神経系に対する既知の有毒化学物質によって引き起こされていると考えられるからである。市場にある80,000の化学物質の圧倒的に多数のものは発達系や神経系に対する影響についてのテストが行われていないので、全ての発達系及び神経系に対する毒性物質によって影響を受けている子どもの数は恐らくもっと多いと考えられる。

■経済的損失コスト
 最も重要な18の発達系障害が、医療費や教育費、仕事の機会逸失や生産性の低下により、生涯総計として国家に及ぼす推定損失コストは、少なく見積っても年当たり80億ドル(約8,600億円)に達する。全ての発達系及び神経系の障害の3%が既知の毒性物質への曝露によって生じるという国立科学アカデミーの推定を使えば、発達系及び神経系に対する既知の毒性物質による損失コストは少なくとも、年間2億4,000万ドル(約260億円)に達することになる。発達系及び神経系に対するもっと多くの未確定の毒性物質の影響を考慮して、毒性物質の25%がさらに発達系障害の原因となるとする国立科学アカデミーの推定を採用し、さらに上記の算定は18の障害だけに基づくということを勘案すれば、実際の発達系及び神経系への毒性物質による経済的損失は多分もっと大きいものになる。

■政策への提言
 従来は、主に発がん性物質に焦点が当てられていたので、法規制は発達系及び神経系への毒性物質による国民の健康への危険性には注意が向けられていなかった。これらの化学物質による健康への危険性を減らすために、新しい化学物質が市場に出回る前にふるいにかけること、既存の化学物質についてはテストを義務付けること、製品の表示、汚染に対する報告の改善、発電設備における毒性化学物質の管理、および曝露と疾病についての監視、等の効果的な政策を政府は採用すべきである。



II.序文

 この報告書は、子ども達の体や精神、行動に悪影響を与える恐れのある化学物質によるアメリカでの汚染に関し、その範囲、現状、汚染源について正確に記述した最初の出版物である。
 毎年、産業界がアメリカ政府に報告するデータを使用して、発達系及び神経系に有毒な化学物質のアメリカにおける総排出量を推定し、排出危険地域を特定し、汚染産業を明らかにした。

 発達系及び神経系に有毒な化学物質が、子ども達の体と心に少なからぬ障害を与えていると考える科学者が増えているということからも、この種の毒物汚染が重大なことであるということがわかる。そのような障害には先天的欠損症、精神遅滞、自閉症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、低体重児や未熟児のような出産異常などがある。

 国立科学アカデミー主催の科学審議会は、子ども達の発達系及び神経系の障害の3%は、発達系及び神経系に対する既知の毒性物質によって引き起こされているという結論を、2000年6月に出した。審議会はまた、これらの障害の25%は環境的要因と遺伝的要因の相互作用の結果かも知れず、有毒化学物質が重要な、しかしまだ解明されていない役割を果たしているかも知れないと結論付けた(1)。

 本報告書では、身体的及び精神的障害に苦しむ子ども達の数、それらの障害によって毎年死亡する子ども達の数、及び、それらの障害によって国家が被る経済的損失に対し、既知の有毒化学物質はわずか3%しか関与していないという、驚くほど控えめに算出した国立科学アカデミーの推定値を使用している。

 本報告書はまた、下記に示すような発達系及び神経系障害の発生率が増大していることを示す、数多くの健康に関する統計資料を検証した。

  • 低体重児出産
  • 未熟児出産
  • 心房隔壁障害
  • 泌尿器障害
  • 注意欠陥多動性障害(ADHD)
  • 自閉症

 1歳未満の乳児は、他の年齢層に比べて身体的にも精神的にも早い速度で発達するので、発達をつかさどる生体システムの作用を妨げる化学物質に非常に影響を受けやすくなっている。胎児期には身体及び脳の発達がさらに早いので、発達系及び神経系に対する有毒物質が胎児に与える影響は、より大きな懸念となっている。そのために公衆衛生の専門家達は、胎児や妊婦がこれらの有毒化学物質に曝されることを心配している。本報告書では、これらの影響を受けやすい胎児や乳児、妊婦を保護するための数多くの世の中の提言を明らかにしている。

■化学物質に対する異なった観点

 数年前、有毒化学物質への曝露が人の行動や子どもの発達に影響を与えるという考え方が広く世に知られるようになった。それ以来人々は、鉛への曝露がどのように子ども達の知力に影響を与え、妊婦が魚介類を通して水銀に曝されると、その子ども達の神経系の発達に対しどのように影響を与えるかということについて理解するようになった。しかし、多くの人々を最も驚かせたのは、環境中には子ども達の脳や神経に影響を与える可能性のある化学物質(神経系毒性物質)がさらに278種類あり、子ども達の発達に影響を与える可能性のある化学物質(発達系毒性物質)がさらに45種類もあるという事実を知ったことである。
 国民も、政府も、科学研究者達でさえも、歴史的には神経系毒性物質及び発達系毒性物質について看過してきたきらいがあった。理由は単純である。人々の長年にわたる、そして理解しやすい心配事は、がんと発がん性化学物質であり、そのことにメディアも当局も科学者も注目してきたからである。

 従って、大部分の法規制における有毒化学物質への曝露に対する許容値が、発がん性に対するリスクのみを考慮して決められているとしても驚くに当たらない。これらの問題に対する我々の知見が深まっているにもかかわらず、法規制は、発達途上の幼児や胎児が有毒物質に対する曝露に他の年代よりも敏感であるという事実を相変わらず無視している。新たに市場に投入される化学物質は未だに、子ども達の体と脳の発達に対し安全であるということを示すことが求められていない。

■無視がまかり通る

 アメリカ環境保護庁(EPA)は、市場に出回っている全ての化学物質の28%が神経系毒性物質となり得ると推定している(2)。にもかかわらず、現状の曝露と潜在的な危険性に関する情報は、環境中に放出される圧倒的多数の神経系及び発達系毒性物質に対し、著しく少ない。

  • 最も生産量の多い約3000種類の化学物質のうち約78%のものに関し、子ども達の発達系及び神経系に与える影響についての審査情報が入手できない(3)。
  • 発達系及び神経系毒性物質のテスト結果は、1998年12月現在、12種の化学物資、すなわち9種類の農薬と3種類の溶剤しかEPAに提出されていない(4)。
  • 化学物質の中で最も規制が厳しい農薬においてさえも、登録時に発達系及び神経系に対する有毒性のテストを行うことは義務付けられていない。

■既に危険であると見なされている環境中での曝露

 膨大な数に上る発達系及び神経系への有毒化学物質の大部分について、子どもや妊婦が限度を超えて曝露したかどうかを評価することのできるような毒性と曝露に関する情報が欠如している。しかし、子どもや妊婦が、我々が知ることのできる非常に数少ない発達系及び神経系への有毒化学物質について、その許容上限値を越えて曝露していることを示すいくつかの明らかな証拠がある。

  • EPAの推定によれば、出産年齢にあるアメリカ女性の約160万人が、子どもの脳の発達に障害を与える危険性のある水銀に汚染された魚を大量に食べている。40の州が、妊婦や出産年齢の女性は魚を食べないか制限するよう警告する勧告書を発行している。10の州が州内の湖や川の水銀汚染を警告している(5)。
  • 現在環境中に存在するレベルのPCBに胎児が曝露すると、脳の発達に影響を受け、生涯を通じての障害を受ける可能性がある(6)。
  • アメリカの100万人の子ども達が、現在許容されている血中の鉛濃度のしきい値を超えており、行動や学習に障害を受ける可能性がある。
  • 最近禁止された農薬クロルピィリフォス(神経系毒性物質)の分解成分が、最近のミネソタ州の調査において検査を受けた90%の子ども達の尿から検出された(7)。

■この問題に対する最近の動向

 本報告書は、子ども達の脳や体の発達に関する環境要因について、異常なまでに多くの注目を浴びた年に作成された(Appendix A で最近の引用例の全てを網羅している)。
 アメリカ国立科学アカデミーは、2つの重要な報告書を発行した。一つは2000年6月に発行された発達系毒性物質に関するものであり(http://www.nap.edu/books/0309070864/html/)、もう一つは2000年7月に発行された神経系毒性物質である水銀に関するものである。(http://www.nap.edu/books/0309071402/html/)
 US ニュース&ワールド・レポート(US News and World Report)はこの問題について、2000年6月の特集記事で報道している。(http://www.usnews.com/usnews/issue/000619/poison.htm
 社会に責任を負う医師達(Physicians for Social Responsibility)は子ども達の発達、学習、行動に対する化学物質の危険性を2000年5月にとりまとめた。(http://www.igc.org/psr/ihwdwnld.htm)
 そしてピュー環境健康委員会(Pew Environmental Health Commission)は先天性欠損症と発達障害について、及びそれらの環境要因との関連についての報告書を1999年11月に出版している。(http://pewenvirohealth.jhsph.edu/html/home/home.html)

 本報告書はこれらの出版物から有益な情報を得ることが出来た。この報告書を作成した我々市民団体は、この報告書が社会の理解に貢献することを、そしてこの数ヶ月の間に示された発達系と神経系毒性物質への社会の大きな関心が今後も続くことを切に希望する。


(10月11日掲載)
V.子どもの発達系及び神経系への影響−その発生率と傾向

■健康障害の発生率と毒性曝露の影響

 国立科学アカデミーは、発達系及び神経系障害の3%が発達系及び神経系毒性物質を含む(一般)毒性物質への曝露がによって生じるとしているが、同アカデミーはまた、 毒性物質も含む環境要因が、遺伝的要因との相互作用によって、全ての発達系及び神経系障害の約25%を引き起こしているとしている(17) 。
 国立科学アカデミーの、この2つの推定は次の理由により、過小であると考える。

  • 3%という推定値は、喫煙や麻薬、PCB、鉛、水銀など既知の毒性物質に基づいている。しかし、発達系及び神経系毒性物質かどうかまだ分からない数千の物質が市場に出回っていることを考えると、発達系及び神経系障害を引き起こす毒性物質の影響はもっと高いはずである。

  • 環境要因が遺伝的要因と相互に作用して約25%の発達系及び神経系障害を引き起こしているという推定に関し、同アカデミーは既によく認知され、臨床的に病名がはっきりしている精神的及び身体的障害だけを参照している。しかし、疫学者の間では広く認められていることであるが、臨床的にはまだ病名が付けられていない微妙な精神的及び身体的障害がかなりある可能性があり、これらはこの推定値に含まれていない。

 国立科学アカデミーの3%という推定値は、全ての発達系及び神経系障害に対し、全ての発達系及び神経系毒性物質が及ぼしている影響を、恐らくかなり過小評価していると思われるが、既知の毒性物質が臨床的にはっきりした疾病の原因となっていることを概算する上で、根拠とすべき”正式”な推定値である。

 アメリカ国勢調査局によれば、120万のアメリカの18歳以下の子ども達(全ての子どもの17%)が、1つ又は2つ以上の発達、学習又は行動上の障害を持っている(18)。国立科学アカデミーによれば、これらの障害の3%が既知の毒性物質によって引き起こされるとしている。これは36万人のアメリカの子ども達、すなわち200人に1人の子どもが既知の毒性物質に曝されて、発達系及び神経系の障害を受けているということを意味している。

 もう一度繰り返すが、全ての障害の25%の中にはまだよく分からない環境的要因が含まれており、また我々は発達系及び神経系毒性物質かどうかまだ分からない毒性物質や病名がまだついていない障害は勘定に入れていないので、3%という推定はかなり控えめな数値であると考える。

■発達系及び神経系への影響の増大傾向について

 発達系及び神経系毒性物質の生産量と使用量が過去数十年の間に増大しており、これに伴いアメリカの子ども達の発達系及び神経系への影響が増大しているのではないかと心配になる。事実、まさにその通りなのである(19)。

 下記に述べる発達系及び神経系への影響に関する現状は、収集した統計的データだけに基づくものである。個々のケースにおいて示される発生率の増大については統計的なデータの裏付けがある。下記に述べる以外の現状については増大しているのかどうかよく分からない。なぜなら、発達、学習及び行動の現状に関する広範な統計的データが収集されていないからである。
 有毒物質は広い範囲の発達系及び神経系障害に明らかに関係があるにもかかわらず、それらの有毒物質がアメリカの子ども達の特定の発達系及び神経系障害に対し影響を与えているということを正確に評価するに足るような統計的データはほとんど収集されていない。

低体重児出産と未熟児出産

 溶剤、農薬、鉛、PCB、ベンゼン、四塩化炭素、トルエンなど環境中の有毒物質に曝されると出産に悪影響を与えることが分かっている。
 未熟児出産に直接影響すると判明している毒性物質はまだ少ないが(20)、有害な廃棄物や施設の近くにある居住区では未熟児出産が増大しているということを示す多くの研究がある(21)。

 低体重児出産や未熟児出産は1980年代中頃から、少数民族の妊婦の間で着実に増加している。予防措置が強化されているにもかかわらずである。低体重児出産と妊娠年齢は依然として、脳性麻痺や精神遅退のようないくつかの主要な発達系または神経系障害の危険性を示す最良の指標である。それらは乳児突然死症候群や一般的乳児死亡、 その他主要な障害に深く関わっている。

  • 1990年から1999年の間に、白人の20〜34歳の一胎出産の母親から生まれた、非常に低体重の赤ちゃんの数は6%増大している(23)。
  • 同じく、未熟児の赤ちゃんの数は4.6%増大している(24)。

形態的出産障害

 出産障害はアメリカにおける乳幼児の主な死亡原因であり、新生児(生後1ヶ月以内)の死亡の約70%、生後1年以内の乳児の6,000死亡例のうち約22%を占めている(24%)。一方、出産障害の中で原因の分かっているものは20%であり、残りの80%は原因が分からない。
 環境要因が出産障害と発達障害の発生に重要な役割を果たしているということを示す研究結果が増えている。国立科学アカデミーの結論に加えて、ピュー環境健康委員会(Pew Environmental Health Commission)は環境中の広い範囲の毒性物質が形成的出産障害に関係しているということを示す12以上の研究事例を挙げている(25)。

 出産障害の傾向について意味のある結論を出せるような記録を保持している州はほとんどない。しかし、多くの州である傾向が実証されている。

  • 心房隔壁障害(心臓の隔壁に穴があく障害)が過去8年間(1989−1996年)に2.5倍、増加している。この劇的な増大の一部は医療診断が進んだためであり、また一部は実際にその発生が増大したためであると考えられる。もっと長期に渡るデーターがないと結論を出すことは出来ない(26)。

  • 泌尿器閉塞障害(尿道の完全な、あるいは部分的な閉塞)が過去8年間(1990−1997年)に1.6倍、増大している。これもまた同様に、その増大の原因を特定するためにはさらなるデータが必要である(27)。

(注)
 個々の州、または地域における特定の出産障害の増大に関する情報については『健康への出発(Healthy from the Start)』1999年9月号、ピュー環境健康委員会を参照のこと。
http://pewenvirohealth.jhsph.edu/html/reports/menu.html

行動と学習障害

 動物実験や人間での研究により、ダイオキシンやPCBと同様に、ある種の有機溶剤へ発達途上に曝されると、活動過多、注意力散漫、知能低下、学習及び記憶障害の症状が現れる。トルエン、トリクロロエチレン、キシレン、スチレン、マンガンなどに妊娠期間中に曝されると子孫に学習障害や行動障害が現れる。

 多くの研究者達は子ども達の間に学習障害や行動障害が蔓延していると考えている。これらの障害が増加傾向にあると教師や児童介護業者から、しばしば漏れ伝えられているが、これは実際に障害が増加しているのか、障害の発見方法が改善されたためか、あるいは報告の方法が改善されたためかもしれない。多くの研究者達はこの3つの組み合わせによる結果であろうと考えている。これらの健康障害についての数値的データはやはり限られたものしか入手できない。

  • 学習障害児のための特別教育プログラムを受けている子どもの数は1977年から1994年の間に191%増加している(29)。

  • 自閉症は1966年から1997年の間に2倍に増加しているというデータがある。カリフォルニア州にある統計データによれば、自閉症の医療サービスを受けた子どもの数は210%増加していることがわかる。

  • 注意欠陥多動性障害(ADHD)は学童の3〜6%と控えめに推定されていたが、実際には17%位であろういう最近の調査がある(31)。

  • ADHDの治療薬であるリタリンを服用している子どもの数は1971年以来、4〜7年ごとに倍増しおり、現在では150万人の子ども達がこの薬を服用している(32)。

 行動障害と学習障害が実際に増えているという情報は、増加しているのは発見方法が改善されたこと、または単なる予想に過ぎないとする考えに反対する教師や介護業者から寄せられている。この問題に関わる現場の多くの専門家達は、増加の程度は過去には見られなかったことであると述べている。

(注)
 行動障害と学習障害のアメリカにおける傾向についての詳細については『危険な道:子どもの発達に対する毒性物質の脅威(In Harm's Way: Toxic Threats to Child Development)』, Greater Boston Physicians for Social Responsibility, May 2000 を参照のこと。
http://www.igc.org/psr/

発達系と神経系毒性物質の汚染は、社会に対しどのくらいの経済的損失を与えているか

 例え軽微であっても身体的あるいは精神的障害のある子どもを持った家族は精神的にも経済的にも大きな負担を受ける。脳性麻痺連合協会(United Cerebral Palsy Association)の調査によれば、脳性麻痺の子どもを持った家庭における平均出費は年間10,000ドル(約100万円)に達している(34)。
 そのような障害が社会に与えるインパクトはなんと目に付きにくいことであろうか 。発達、学習及び行動障害は、早期の中途退学、麻薬、失業、10代の妊娠、福祉依存、そして服役と深く関係している。医療と特別教育サービス及び労働の機会逸失、生産性の低下だけに限っても、アメリカにおける最も顕著な18の発達障害による合計損失コストは、控えめに見積もっても80億ドル(約8,000億円)をくだらない(35)。

 既知の毒性物質は既知の発達系及び神経系障害の約3%を引き起こしているという国立科学アカデミーの推定を用いれば、発達系及び神経系毒性物質を含む一般毒性物質は、18の発達障害に限っても、年間約2億4000万ドル(約240億円)のコストを発生させている。この数値は、同アカデミーがさらに25%の障害に関わっているとしている毒性物質による未確定な影響を勘定に入れていないので、かなり控えめであると言える。さらにこの推定は、精神遅滞や自閉症、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの重要な学習及び行動障害に関するコストを含んでいない。さらにまだ病名の付けられていない微妙な症状の発達、学習及び行動障害に関わるコストが見積もられていない。



報告書作成
ナショナル環境トラスト(National Environmental Trust)
http://environet.policy.net/

社会に責任を負う医師達(Physicians for Social Responsibility)
http://www.psr.org/

アメリカ学習障害協会(Learning Disabilities Association)
http://www.ldaamerica.org/



参照(Endnotes)
http://environet.policy.net/health/neighborhood/cehfuture/endnotes.vtml

1.Scientific Frontiers in Developmental Toxicology and Risk Assessment, National Academy of Sciences, June 2000, p.19-20
http://www.nap.edu/books/0309070864/html/

2.See U.S. EPA Guidelines for Neurotoxicity Risk Assessment.
http://www.epa.gov/ncea/pdfs/nurotox.pdf

3.Toxic Ignorance: The Continuing Absence of Basic Health Testing for Top-Selling Chemicals in the United States, Environmental Defense Fund, 1997.

4.A retrospective analysis of twelve developmental neurotoxicity studies submitted to the U.S. EPA, draft, 11/12/98.

5.Connecticut, Indiana, Maine, Massachusetts, Michigan, New Hampshire, New Jersey, North Carolina, Ohio, Vermont. For more information about the developmental and neurological effects of mercury, see Toxicological Effects of Methylmercury, National Academy of Sciences, July 2000.
http://books.nap.edu/books/0309071402/html/index.html

6.Rogan,W., Environmental poisoning of children- lessons from the past, Environmental Health Perspectives, 103 Suppl 6:19-23, 1995.

7.U.S. EPA, Chlorpyrifos: HED Preliminary Risk Assessment for the Reregistration Eligibility Decision Document, 10/18/99.

8.-37.省略


(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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