EHNニュース 2024年3月18日
提案された法案は、
米国で使い捨て発泡プラスチック製品を
禁止することを目的としている

発泡ポリスチレンは便利な容器包装製品であるが、人間と生態系の健康に害を与える。
この問題に対処するために、2人の米国議員が全国的な禁止を提案した。
著者:リリー・スチュワート/記者、MIT サイエンス ライティング大学院過程の学生

情報源:Environmental Health News, March 18, 2024
Proposed bill seeks to ban single-use plastic foam products in US
Expanded polystyrene foams are convenient packaging products, but they harm human and ecological health. Two US congresspeople proposed a national ban to address this issue.
By Lily Stewart
https://www.ehn.org/farewell-to-foam-act-2667496557.html
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2024年3月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ehn/ehn_240318_
Proposed_bill_seeks_to_ban_single-use_plastic_foam_products_in_US.html

 道路脇の飲食店のテイクアウト容器。 川に漂う捨てられたコーヒーカップ。 埋め立て地に送り込まれる梱包緩衝材(packing peanuts)。

 発泡プラスチック(plastic foam)製品はいたるところにある。 現在、提案されている議会法案は、この廃棄物を削減することを目的としている。(訳注:発泡プラスチック:合成樹脂中にガスを細かく分散させ、発泡状(フォーム)または多孔質形状に成形されたものを指す。主な原料合成樹脂は、ポリウレタン (PUR)、ポリスチレン (PS)、ポリオレフィン(主にポリエチレン (PE)やポリプロピレン (PP))であり、これらは「三大発泡プラスチック」と呼ばれる。ウィキペディア

 2023年12月、民主党のクリス・ヴァン・ホーレン上院議員と民主党のロイド・ドゲット下院議員が共同で発泡製品さらば法案(Farewell to Foam Act)を上院と下院の両方に提出した。 この法案は、2026年1月までに発泡ポリスチレン製の使い捨て食品容器包装材、保冷容器、バラ詰め用緩衝材などの製品を禁止するものである。議員らは、法案の推進要因として発泡プラスチックによる環境と健康への悪影響を挙げた。 この計画が前進するかどうかは不透明だが、専門家や支持者らは、その導入は全国的な使い捨てプラスチック禁止法を確立するための重要な一歩になると述べているが、現在米国にはその禁止法は存在しない。
(訳注:この法案 (Farewell to Foam Act)は”発泡ポリスチレン〈polystyrene foam〉に限定して言及しているが、何故他のプラスチック発泡体を対象としないのか不明。

 発泡ポリスチレン (Expanded polystyrene / EPS) (誤って、建設に使用される商標登録された材料である発泡スチロール(Styrofoam) と呼ばれることがある) は、約 98% の空気と 2% のプラスチック ビーズで構成される化石燃料由来のプラスチックである。 この風通しの良さにより、EPS は容器包装に適している。食品を断熱し、製品を緩衝し、コストもほとんどかからない。

 しかし、ヴァン・ホーレン上院議員とドゲット下院議員は、発泡プラスチック汚染の影響がその利便性を上回ると主張している。”水路、道端、緑地にプラスチックゴミが散乱しており、泡(発泡プラスチック)は完全には消滅しない。 むしろ、非常にゆっくりと分解されてマイクロプラスチックとなり、私たちの体と地球を汚染する”とテキサス州選出のこの下院議員は声明で述べた。

 発泡プラスチックは分解するまでに数百年かかる。 その寿命の間にひどいことになる可能性がある。

 ”発泡体は軽量で、マイクロプラスチックやナノプラスチックのような小さな破片に簡単に砕けるため、特に問題がある”と海洋保護団体オセアナ(Oceana)のプラスチック・ディレクター、クリスティ・リービットは EHN に語った。 これらの破片は陸上及び水生の生息地に広がり、大きな堆積物となって動物が食物と間違える可能性がある。

 現在、全米の11の州、ワシントンD.C.、及び数百の都市が同様の発泡プラスチックの禁止を可決している。 しかし、”発泡製品さらば法案(Farewell to Foam Act)”は、全国で EPS (発泡ポリスチレン)を禁止する初の連邦議会動議(national motion)である。

 ”今は各都市や州がこれまで取り組んできたことを発展させ、連邦政府が泡(発泡プラスチック)の削減に向けた措置を講じる絶好の時期だ”とリービットは語った。

リサイクルの課題

 この法案を批判する人の中には、禁止は発泡プラスチックを環境から排除する最良の方法ではないと主張する人もいる。 プラスチック産業協会の会長兼最高経営責任者(CEO)であるマット・シーホルムは EHNへの声明で、プラスチック汚染が問題であることを認めたものの、提案された法案は”誤った方向に導かれている”とし、”リサイクル・インフラの改善、使用済み製品リサイクルの市場拡大、そして適切に構築された拡大生産者責任プログラムの作成を優先する政策に時間を費やしたほうがよい”と述べた。

 しかし、世界中で毎年 1,000 万トン以上の発泡プラスチックが生産されている一方で、米国でリサイクルされているのは 10% 未満である。 ビーズ状に砕け、標準的な機械では処理できないため、ほとんどのリサイクル・ステーションでは受け入れられない。 材料の大部分は空気であるため、新しい材料を製造するよりもリサイクルの方がコストがかかる。

 ”私はポリスチレンをリサイクルし、ポリスチレンをアップサイクルする(訳注:upcycle:副産物や廃棄物、役に立たないまたは不要な製品を、より良い品質と環境価値の新しい材料または製品にアップグレードして役立てる)効果的な方法を切望している”とバージニア工科大学の高分子化学者兼化学エンジニアであるグオリャン・“グレッグ”・リューは EHN に語った。 リューのような科学者らは、発泡プラスチックを製造や医療に応用できる製品にリサイクルする方法を発見した。 しかし、これらのプロセスが一般的になるほど経済的インセンティブはまだ普及していない。 ”非常に素晴らしい化学や科学だけを考慮することはできない。 これを現実的かつ拡張可能な方法で実行できるかどうかを検討する必要がある”と彼は述べた。

マイクロプラスチック、スチレンへの暴露の懸念

 議員らはプレスリリースの中で、人間の健康への懸念として、発泡ポリスチレンの内容物にマイクロプラスチックが浸出する傾向があると言及した。 スチレンの存在も懸念される。 樹脂の構成要素であるスチレンは、国際がん研究機関によって発がん性がおそらくあると分類されている(訳注:グループ 2A ヒトに対する発がん性がおそらくある)。 通常、人々は製造現場でスチレンと密接に接触しており、暴露により目、肺、皮膚、神経系を刺激する可能性がある。

 米国食品医薬品局 (FDA) は、食品に浸出する微量のスチレンが 1 日の推奨制限値以下にとどまる傾向があり、イチゴやナッツのような食品に自然に含まれるスチレンの量を必ずしも超えるわけではないため、発泡プラスチックを安全な容器包装材料として支持している。 しかし、一部の研究者や支持者らは、EPS(発泡ポリスチレン) で包装された食品中のスチレンへの繰り返しの暴露による影響を懸念している。 スチレンを発泡ポリスチレンに加工すると、暴露を最小限に抑える傾向があるが、材料が損傷していたり不適切に製造されていたり、可食内容物が非常に熱く油っぽい場合には、浸出スチレンの量が増加する可能性がある。

 ほとんどの研究は職場での暴露に焦点を当てているため、食品に浸出したスチレンが人間の健康に影響を与えるかどうかは不明である。 マイクロプラスチックに関して、現在の研究では、マイクロプラスチックと炎症の増加との間に潜在的な関連性があることが示唆されている。

プラスチック廃棄物に対する重要な一歩

 デューク大学の環境法政策クリニックの共同ディレクターであるミシェル・ナウリンは、全国的な発泡プラスチックの禁止は健全だと彼女は信じていると EHN に語った。 ”それがもたらす他のすべてのリスクや脅威、そしてリサイクルの難しさを考えると、特に食品容器としてその製品を使用し続けることはまったく意味がない」と彼女は述べた。

 米国環境保護庁(EPA)はこの禁止を強制する権限を持ち、違反者には警告と罰金を科すことになるであろう。 この禁止は発泡プラスチックの容器包装を使用する食品流通業者に適用されるが、製造業者、小売業者、流通業者は充填物や断熱容器に責任を負うことになる。 使い捨ての医療用品は影響を受けないであろう。

 2023年3月の時点で、この法案は上院の商業・科学・運輸委員会と下院のイノベーション・データ・商業小委員会に付託されている。 委員会はまだこの法案を審議していないが、両院合わせて86人の議員(無所属2人を除く全員が民主党員)が共同提案者として署名した。

 しかし、今議会は米国史上最も生産性の低い議会の一つであり、今議会が閉会する 2025年1月までにこの法案が可決される可能性は低いと思われる。 ナウリンは、第118回議会の政治的二極化が多くの法案の可決を妨げていると付け加えた。

 しかし、ナウリンは依然としてこの法案の提案は重要な一歩であると信じている。 ”このような種類の規定を導入することは、国民の意識を高め、会話を始めるために非常に重要である”と彼女は述べた。 ”最終的にはそこに落ち着くでしょう。”



化学物質問題市民研究会
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