ハーバード T.H.チャン公衆衛生大学院 2022年6月22日
飲料水中の’永遠の化学物質’に関する
より厳格な連邦ガイドラインは課題を提起する

ビッグ3:3つの質問、3つの答え
フィリップ・グランジャン非常勤教授

情報源:Harvard T.H. Chan School of Public Health, June 22, 2022
Stricter federal guidelines on 'forever chemicals'
in drinking water pose challenges
The Big 3: Three questions, three answers
By Philippe Grandjean, adjunct professor of environmental health
at Harvard T.H. Chan School of Public Health

https://www.hsph.harvard.edu/news/features/stricter-federal-guidelines-
on-forever-chemicals-in-drinking-water-pose-challenges/


訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年7月5日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/articles/
220622_Harvard_TH_Chan_Stricter_federal_guidelines_on_
forever_chemicals_in_drinking_water_pose_challenge.html

【2022年6月22日】 6月15日、環境保護庁(EPA)は、PFOS と PFOA の 2種類の人工化合物はごく少量でも人体に有害であると警告する最新の健康勧告(health advisories)を発表した。現在、これらの化合物は、全米の飲料水システム中に見いだされている。ハーバード T.H.チャン公衆衛生大学院非常勤教授であるフィリップ・グランジャンは、その新しいガイドラインについて説明している。

Q:EPA の新しい勧告とその影響について説明していただけますか?

A: EPAは、飲料水中の PFOS と PFOA の量に関する新しい制限を含むガイドラインを発行しました。これらの化合物は両方とも、パー及びポリ−フルオロアルキル物質 PFAS と呼ばれるより大きなクラスの化学物質の一部であり、時間が経過しても環境中で分解しないため、”永久化学物質”としても知られています。これらの化学物質は耐水性と耐油性があり、焦げ付き防止調理器具、防水衣類、食品包装、消火泡など、さまざまな製品に使用されています。 PFAS 暴露は、腎臓及び精巣のがん、免疫力の低下、内分泌かく乱、生殖の問題、出生時体重の減少などの健康問題と関連しています。

 2016年に設定された以前のガイドラインでは、飲料水中の PFOS と PFOA の両方に 70 ppt (ppt: 1兆分の1)の制限が設定されていました。新しい勧告はそれを 1,000分の 1 以上減らします。 PFOS の新しい制限は 0.02pptです。 PFOA の場合、0.004pptです。 EPA は、これらの化合物がどれほど毒性があるかを示す研究が増えているため、本質的に、限界を可能な限りゼロに近づけることを望んでいます。

 これらの新しい勧告は、PFAS 暴露に関連する重大な健康問題のいくつかを示した以前の研究のいくつかからの発見と正確に一致しています。たとえば、2012年の調査では、PFAS 暴露が高い子どもたちは、ジフテリアと破傷風に対する定期的な小児ワクチン接種の反応が悪いことが示されました。 PFAS 暴露が 2倍になると、子どもたちはワクチン接種で持っていたはずの抗体の 50%を失うことになります。つまり、これらの病気から十分に保護されていない子どもたちが増えているということです。

 私たちの研究はまた、生まれたときに PFAS のレベルが高い子どもたち(臍帯血のレベルを測定した)は、後のワクチン接種による抗体レベルが低いことを示しました。さらに、PFAS は母乳を介して感染します。残念ながら、赤ちゃんは母親の 10倍もの PFAS を血中に含んでしまう可能性があります。

 子どもたちは PFAS を体内に持って生まれており、母乳からそれを得ているため、EPA は、妊婦を保護するためにどのようにして一般集団の暴露を制限するかを探し出す必要があると判断しました。これは本当に独創的でした。米国の規制当局が、母親の暴露を考慮した暴露制限を設定することで子どもを保護することを決定したことを私が知ったのは初めてです。

Q:最近の USA Today の記事は、新しい勧告が全国の科学者や当局者を”驚かせた”と述べています。なぜ人々は EPA の動きにそれほど驚いたのですか?

A:驚くべきことは、制限値が非常に、非常に低いことです。現在の方法論と機器で測定するのは不可能ではないにしても非常に難しい水中の PFAS 濃度について話しています。これらの濃度を正確に測定できる可能性は十分にあると思いますが、新しい方法の開発には時間がかかります。

 EPA の 新しい勧告はまた、いくつかの不確実性と混乱を生み出します。 EPA は、飲料水の PFAS 汚染を可能な限りゼロに近づけることが重要であると述べています。同意します。しかし、問題は、新しい制限に従って飲料水を入手する方法が今のところないということです。少なくとも 1億人のアメリカ人が、おそらく現在の制限である 70 ppt を超える PFAS レベルの水を飲んでいます。ガイドラインは法的拘束力がないため、ガイドラインがどのような違いをもたらすかを知ることは困難です。地域社会が PFAS 汚染の特定の原因を訴えたい場合、彼らは EPA のガイドラインに少しでも頼ることができますか? 彼らは、州や地域社会のレベルでより良い予防を促すことに重きを置いているでしょうか?

 さらに、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、バーモント州、ミシガン州、ニュージャージー州、カリフォルニア州を含む多くの州は、飲料水中の PFAS の量に関するガイドラインを引き下げており、場合によっては、これらの制限は法的拘束力があります。それらは 70ppt より低いけれども、EPA が発表したばかりのその非常に低い制限よりもはるかに高いのです。 EPA ガイドラインが目標になる可能性がありますが、短期的には尊重しなければならない PFAS の拘束力のある中間制限を設けることがより有益です。

Q:EPAは、GenX 及び PFBS として知られる化合物の最終的な健康勧告も発行しました。これらは、それぞれ PFOA および PFOSの 代替品と見なされます。それらについて教えてください。

A:これらの 2つの物質の制限は、PFOS 及び PFOA の制限よりも高くなっています。これは、それらの害を示す人間の研究がまだないためです。ほぼ間違いなく、これらの物質について EPA が発行したガイドラインは高すぎます。

 これらの 4つ に類似している化合物はおそらく何千もあり、それらは規制されていません。何が起こっているのかというと、たとえば AAAF と呼ばれる消火泡の業界では、PFOA や PFOS の代わりに他の PFAS を使用しているだけです。これは、いわゆる残念な代替です。すなわち、ある種類の化学物質を禁止した後、同じくらい悪い、またはもっと悪いものが使われる場合です。

 一部の EU 加盟国は、欧州委員会と協力して、加盟国がこれらすべての PFAS を本質的に規制できる方法を模索しています。したがって、PFAS の代替からヨーロッパ人を保護することができる、ある種の法律を作成する政治的な動きがあります。

 多くの同僚は、米国内だけでなく国際的にも、新しい代替品を文書で立証する時間がないにもかかわらず、”古い” PFAS を管理する方法についてまだ話し合っていることに不満を表明しています。それには数十年かかるかもしれません。それまでの間、科学的証拠が開発されるのを待っている間に、新しい PFAS が環境と私たち自身に侵入することを許すのですか? 私は医師として、慎重な予防と、PFAS 全てから私たちを守る戦略の必要性を強調したいと思います。

カレン・フェルドシャー


化学物質問題市民研究会
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