EHP 2006年6月号 フォーラム
ドバイから生中継
新たな化学物質協定 SAICM


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 6, June 2006
Forum: Live from Dubai: A New Chemical Agreement
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-6/forum.html#live

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年6月4日


 2006年、2月6日の真夜中、最後の交渉で、有害な化学物質から人と環境を守る自主的な国際協定が採択された。140カ国政府、環境団体、産業界組織、そして国連機関からの代表がアラブ首長国連邦ドバイで開催された国際化学物質管理会議(ICCM)に参加した。同協定は 「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」 (Strategic Approach to Chemicals Managemen(SAICM))を確立したが、それは、化学物質が有意な悪影響を最小限にする方法で製造され使用されることを確実にするという2002年ヨハネスブルグサミット(WSSD)の目標を満たすための国家の枠組みを与えるものである。

 SAICMの実施は、”包括的政策戦略”を実施することになる国連環境計画(UNEP)内の新たな化学物質事務局によって支援される。この戦略は、各国に、特に移行経済国に汚染の矯正、より安全な代替、及び有害物質排出目録の作成のような課題を克服することに着手するためのひな型を提供するものである。同協定は、労働安全の改善による暴露の削減、漏洩や事故に対するよりよい対応の開発、及び化学物質に関わる児童労働の排除のような広範な提案を行っている。EUのある国々は、SAICMの目的実施のため開発途上国の初期の能力向上活動を支援するための”クイッスタート・プログラム”に控えめな資金提供を申し出た(訳注1)。

訳注1:英国(US$30万)、スイス(300万CHF)、スウェーデン(US$300万)、フィンランド(額未定)が会期中に支援を約束。合計約US$1000万。

 多くの参加者は、この会議が、危害を及ぼす恐れのある化学物質はその影響について完全な確実性がなくても規制又は禁止するという”予防”を含んで、最も議論のある問題点のいくつかに対し、EUとアメリカの二つの陣営に分極していると見ていた。2月7日、EU議長国を代表してオーストリアの大臣ジョセフ・プロールが、”我々は、安全なシステムを設けるのに、悲劇が起きるまでを待つ必要はない”−と述べた。同日、アメリカの国務次官補クラウディア・マックマーレイはAP通信記者に、”我々は、我が国で化学物質を規制する方法に対し異なるアプローチをとる。我々は現在、全ては分らなくても、とにかく前進しよう”−と述べた。

 同協定は、1992年の環境と開発に関するリオ宣言が述べている、予防は”各国により、その能力に応じて広く適用されなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な被害のおそれがある場合には、完全な科学的確実性の欠如が、環境悪化を防止するための費用対効果の大きい対策を延期する理由として使われてはならない”という記述が取り入れられている(訳注2)。EUはこの記述を化学物質と人の健康との間の関係をもっと明確に記述するよう主張したが、アメリカ代表団は反対した。

訳注2
 SAICMの原文(最終版?)(英文)は、2006年3月8日付けで、UNEPのウェブに掲載されている。そこでは、”環境と開発に関するリオ宣言の第15 原則に記されている予防的取組方法(precautionary approach)を適切に適用すること”との記述はあるが、第15 原則の全文引用は見つからない。
http://www.chem.unep.ch/ICCM/meeting_docs/iccm1_7/7%20Report%20E.pdf

 同協定が、潜在的な資金供給源として世界銀行や地球環境ファシリティのような特定の国際機関の権威に頼るかどうかに関しても合意に至らなかった。アメリカの主張は退けられたが、さもなければ、SAICMを世界貿易機関(WTO)の規制のような見当はずれな多国間規制、ある人の言い方によれば、環境と人の健康が通商障壁とならないようにする立場、に向けてしまうところであった。

 2月27日のプレスリリースでマックマーレイは、”SAICMは我々全てが一部の化学物質によって示されるリスクを最小にするという目標は共有することを認めるが、この目標を達成するためには有効な多くの方法がある”−と述べた。しかし、他の人々は、この会議は政治的意思が欠如していると見ている。ワシントンを拠点とするNGOである国際環境法センター(Center for International Environmental Law)の化学物質政策顧問ダリル・ディッツ(訳注3)は、”残念ながら、アメリカは化学物質によって及ぼされる問題に対する世界的な協調対応への最大の障壁である”−と述べた。

訳注3:報告書(参考)
曇天に青空のチャンスはあるか? アメリカの化学物質政策の改革の予測(当研究会訳)

 国際化学物質管理会議(ICCM)は、ドバイでの合意の進捗状況を評価し、問題を特定するために、2009年に会議を開催する。

バレリー J. ブラウン(Valerie J. Brown)



化学物質問題市民研究会
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