国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)
第3回準備会合 付属書U 包括的方針戦略


情報源:SAICM/PREPCOM.3/5 General 19 October 2005
Annex II Draft Overarching Policy Strategy


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年12月18日

付属書U
包括的方針戦略ドラフト
第3回準備会合によって合意された本文

訳注: 第3回準備会合で合意に達しなかった項目はカッコ([])付きで、又は脚注(原注で)、又はアスタリスク(*)(テーブル中の項目)で、示されている。

T.序言

1.本包括的方針戦略は、リオ宣言、アジェンダ21、及びヨハネスブルグ実施計画の脈絡において、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)ハイレベル宣言で表明された公約に由来するものである。戦略的アプローチの実施は、 [自主的なものであり] 世界行動計画を含む。それは、関連する世界フォーラムにおける国際的な化学物質安全の領域での既存の作業を考慮に入れつつ、可能性ある活動領域のリストと関連する活動、主体者、[提案される][目標とタイムフレーム]、進捗の指標、及び実施の側面を詳しく述べるものである。戦略の構造は下記の通りである。

T. 序言
U. スコープ
V. 必要性の声明
IV. 目的
 A. リスク削減
 B. 知識と情報
 C. ガバナンス
 D. キャパシティ・ビルディングと技術協力
 E. 不正な国際取引
X. 財政に関する考慮 (訳省略)
Y. 原則とアプローチ
Z. 実施と進捗の評価> (訳省略)

付録:ヨハネスブルグ実施計画第23項本文
訳注:関連する国際環境会議・宣言(参考用)
(ヨハネスブルグ実施計画、リオ宣言、アジェンダ21、国連ミレニアム宣言、 国連人間環境会議UNCHE(ストックホルム)、バイア宣言)

2.地方、国家、地域、そして全世界のレベルで全ての関連する分野と関係者が参加することは透明でオープンなプロセスの実施と意思決定における公衆の参加、特に女性の役割の強化を図るので、戦略的アプローチの目標を達成する鍵(キー)であるように見える。戦略的アプローチにおける主要な関係者は、農業、環境、健康、産業、関連経済活動、開発企業、労働、科学を含む、しかしそれに限らない全ての関連分野でライフサイクルを通じて化学物質の管理に関与する政府、地域の経済的調整組織、政府間組織、非政府組織、そして個人であると理解される。個人の関係者には消費者、処分者、雇用者、農民、製造者、規制者、研究者、供給者、運送者、そして労働者を含む。

U.スコープ

3.戦略的アプローチは、持続可能な開発を推進し製品中を含む全てのライフサイクルにおける化学物質を包含する観点をもって、少なくとも下記をカバーし、しかしそれに限定しない広い範囲を持つ。

(a) 化学物質の安全に関わる環境、経済、社会、健康、そして化学物質安全関連労働の分野
(b) 農業及び産業用化学物質

4.戦略的アプローチは今日まで策定されてきた法的文書とプロセスを考慮に入れつつ、特に化学物質の軍事的用途を取り扱うフォーラムでの取り組み等の重複を避けながら、新しい措置とプロセスも取り扱えるよう柔軟なものであるべきである。

V.必要性の声明

5.戦略的アプローチの確立のための主要な推進力は、化学物質の安全を管理するための異なる国々のキャパシティ間の増大するギャップ、既存の法的文書とプロセスの間の相乗効果を改善することの必要性、そして、2020年目標をもっと効果的に達成するために化学物質を評価し管理する必要性に関する緊急性についての認識である。戦略的アプローチは進展したが、さらなる必要性が特定されている。戦略的アプローチを持続する成功に役立てるもっと効果的なガバナンスを諸国が持つことが必要性である。

6.リオ宣言とアジェンダ21が採択された1992年のリオデジャネイロにおける環境と開発に関する国連会議以来、化学物質管理を改善するために多くのことがなされた。規制システムが導入され、又は強化された。化学物質についてより多くの情報が手に入るようになった。多くの化学物質が国家レベルで、及び国際的に評価された。広範なリスク管理手法が導入された。化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)及び汚染物質排出移動登録(PRTR)のような新しいツールがが立ち上げられ、展開された。新たな国際的法律文書とプログラムが生成された。産業はより良い化学物質の管理に貢献する自身のプログラムを開発し拡張した。現在多くの諸国に、化学物質に関する周知と良い実践を推進する積極的でよく情報伝達された公益運動が存在する。しかし、下記のことが認識されている。

(a) 化学物質のための既存の国際的な政策の枠組みが完全には適切でなく、さらなる強化が必要である。

(b) 確立された国際的な政策の実施 が不公平である。

(c) 既存の制度やプロセスの間の一貫性と相乗作用が完全には展開されておらず、さらなる改善が必要である。

(d) 現在使用されている多くの化学物質に関し、しばしば情報が限定されている又は存在せず、しばしば既に存在する情報へのアクセスが限定されている。

(e) 国家的、準地域的、地域的、世界的レベルで、多くの国が化学物質を適切に管理する能力を欠いている。

(f) 化学物質安全性の問題に目を向けるために有効な資源が、多くの国で、特に先進国と途上国および経済移行国の間に広がるギャップの解消のために不適切である。

7.リスク削減(リスクの防止、削減、修復、最小化、及び除去を含む)は、化学物質を含有する製品及び成形品を含む、化学物質のすべてのライフサイクルを通じた適正管理を遂行する上でキーとなるニーズである。下記が認識される。

(a) 製品のライフサイクルに目を向けつつ、物質の役割と挙動に関する改善された科学的な理解により支援されたリスク評価と管理戦略がリスク削減達成に対する要である。

(b) 科学的手法と社会的及び経済的要素の検討によって適切に情報伝達されたリスク削減措置が、化学物質の有害影響と不適切な使用を削減する又は除去するために必要である。

(c) リスク削減措置は、子ども、妊婦、生殖能力のある集団、老人、貧困者、労働者、その他脆弱なグループ及び影響を受けやすい環境の健康に及ぼす化学物質の有害影響を防止するために、改善が必要である。

(d) 懸念のある化学物質の代替を含んで、手ごろな価格で持続可能な技術が促進されるべきである。

(e) 開発途上国及び経済移行国は、手ごろな価格でより安全な技術と代替品へのより良い利用を必要としており、それはまた、有害化学物質の不法な取引の削減に役立つであろう。

8.知識、情報、及び公衆が知ることは、化学物質を含有する製品や成形品を含む化学物質の適切な管理についての意思決定のための基本的なニーズであり、下記のことがらが認識されている。

(a) 科学に基づく基準、ハザードとリスク評価の結果、社会経済的方法論、及び、科学に基づいた標準、調和の取れたリスク評価と管理原則は全ての活動主体に有効ではなく、この分野の科学的研究のペースは促進される必要がある。

(b) 化学物質に関し、地域の人々に利用しやすい明確で入手可能で時宜を得た適切な情報が欠如している。

9.ガバナンスは、化学物質の適正管理を行う上で、多分野及/多数関係者アプローチを通じて目を向けられる必要がある重要な問題である。したがって下記を認識する必要がある。

(a) 多くの諸国ではある関係者ら、特に女性と先住民集団が化学物質の適切な管理に関係した意思決定のすべての側面においてまだ参加していないということに目が向けられる必要がある。

(b) 拘束力のある法的文書および他の関連した取り組みをも含め、化学物質の適正管理の現在の国際的制度の実施は不公平であり、目を向けられるべき状況である。これらの化学物質管理の活動にはギャップ、重複、及び二重作業があり、国家的、地域的、国際的レベルでの利用可能な資源の十分かつ有効な使用を確実にするために、多くの国々で強化された統一、一貫性、及び共同作業の必要がある。多くの国々は、地域的及び世界的な法的行拘束力のある法律文書やその他の関連する取り組みを批准していない又は実施しておらず、国家の化学物質制度にあるギャップに対応しておらず、化学物質の活動の協調のための国家のメカニズムを開発していない。

(c) 法的義務、補償および是正の問題を含む、化学物質の人の健康、社会、環境へ及ぼす影響の社会的・経済的インパクトに対応するために用いられるメカニズムはある国々では改善される必要がある。

(d) 化学物質問題は、開発援助計画又は戦略、持続可能な開発戦略、適切であれば、貧困の削減戦略を含む国の行動計画等、関連する国の政策文書にたまに特集されるだけである。

(e) 戦略的アプローチの実施において、民間社会及び民間企業の全ての主体者の役割を促進する必要がある。

10.化学物質の適切な管理の全ての面に関連するキャパシティ・ビルディングと技術的財政的援助は、適切な化学物質管理のための戦略的アプローチを成功裏に実施するための重要な要素である。

(a) 持続可能な開発に関する世界首脳会議の実施計画第23章(原注1)で述べられている目標に向かって前進するために、先進国と開発途上国および経済移行国の間の能力上の広がるギャップは埋められなければならない。しかし、この目標を達成するために努力する中で、能力上の問題に直面している先進国もまた存在する。

原注1:第23章は本文書の付録(appendix)に示されている。

(b) 化学物質と有害な廃棄物の適切な管理のために開発途上国と経済移行国のキャパシティを強化することを目指す協力を強化し、これらの諸国に対しよりクリーンでより安全な技術の適切な移転を促進することが必要である。

11.有害な物質や危険な製品の不正な国際取引は多くの国々、特に開発途上国及び経済移行国に問題をもたらしている。

[12.多くの国々、特に開発途上国と経済移行国がヨハネスブルグ実施計画の第23章に表現されている目標を追及する上で直面するであろう課題のひとつは、適切な化学物質の管理を達成するために必要なかなりの財政的資源及びその他の資源に対するアクセスを得ることである。]

原注2:この項は財政に関する考慮の討議の結果に照らして検証される必要がある。

W.目的

13. 戦略的アプローチの目的は、2020年までに化学物質は人間の健康と環境に及ぼす有意な有害影響を最小にする方法で使用され製造されるよう、ライフサイクルを通じて適切な化学物質の管理を達成することである。この目的は、他の方法とともに、世界行動計画の中で詳しく述べられている活動の実施を通じて達成されるであろう。

A. リスク削減

14. リスク削減に関する戦略的アプローチの目的は:

(a) 化学物質のライフサイクルを通じて、労働者を含む人の健康と環境へのリスクを最小化すること。

(b) 化学物質に関する意思決定の際に、リスクを及ぼすかもしれない化学物質に対して特に脆弱な又は暴露しやすい人、生態系およびその構成要素が考慮され保護されることを確実にすること。

(c) 化学物質への安全でなく不必要な暴露を避けるために、健康と環境への影響を含んだ適切な科学的理解と、化学物質に関する詳細な安全情報を含んだ汚染防止、リスク削減、リスク除去を目指した適切な社会経済的分析に基づき、透明で包括的で効率的かつ効果的なリスク管理戦略を実施すること。

(d) 非合理的又は管理できないリスクを人間の健康及び環境に及ぼす化学物質又は化学的使用、及び非意図的な化学物質の排出は、科学ベースのリスク評価に基づき、及び、より安全な代替の入手可能性及びその効率とともにコスト便益を考慮に入れて、2020年までに最早、そのような用途のためには製造又は使用されず、非意図的な排出からのリスクは最小化されるということを確実にすること
 評価と関連調査に対し優先度の高い化学物質のグループは、残留性・生体蓄積性・有毒性物質(PBTs)、高残留性・高生体蓄積性物質、発がん性又は変異原性の化学物質又は有害影響を特に生殖系、内分泌系、免疫系、又は神経系に与える化学物質、残留性有機汚染物質(POPs)、水銀及び世界的な懸念あるその他の化学物質、大量に製造又は使用される化学物質、広く散布的に使用される物質、及び国内レベルで懸念あるその他の化学物質かもしれない(might be)。(太字:訳者)

(訳注:ドラフト時の記述:化学物質の環境や健康への影響に関し、十分な科学的確実性に欠ける場合も、懸念についての合理的根拠がある場合は、予防的措置を適用すること。 )

(e) [懸念に対し合理的な根拠がある時には、化学物質の環境又は健康影響に関して完全な科学的確実性が欠如していても、予防的措置(precautionary measures)を適用すること。] [深刻な又は不可逆的なダメージの恐れがある場合には環境と開発に関するリオ宣言の原則15に述べられている予防的アプローチ(precautionary approach)を適切に適用すること]

(訳注:ドラフト時の記述:予防的措置(precautionary measures)の適用を優先的に検討すること。)

(f) 汚染防止のような防止措置(preventive measures)の適用を優先的に検討すること。

(g) 既存、新しい及び現在発生中の世界的に懸念ある問題は適切なメカニズムによって十分に対応されるべきこと。

(h) 有害廃棄物の発生を量的にも毒性的にも削減し、保管、処理、及び処分を含んで、環境的に適切な有害廃棄物の管理を確実にすること。

(i) 有害物質の環境的に適切な回収とリサイクリングを促進すること。

(j) よりクリーンな製造、特定の懸念のある化学物質の情報に基づく代替、及び非化学的代替品を含んで、環境的に適切でより安全な代替の開発と実施及びさらなる革新を促進し支援すること。

B. 知識と情報

15. 戦略的アプローチの知識と情報に関する目的は下記の通りである。

(a) 化学物質とその管理に関する知識と情報は、化学物質がライフサイクルを通じて適切に評価され安全管理されることを可能にするために十分であることを確実にすること。

(b) 全ての関係者のために下記を確実にすること。

 (@)適用可能な場合には製品中の化学物質を含んだ、ライフサイクルを通じての化学物質に関する情報は有効であり、アクセスすることができ、利用者に使いやすく、適切であり、全ての関係者の必要に適うものであること。情報の適切なタイプは、それらの人の健康と環境への影響、それらの固有の特性、それらの潜在的な用途、及びそれらの保護的措置と規制を含む。

 (A)それらの情報は、他の方法も含めて、メディアや化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)やその他の国際協定の条項などのハザード・コミュニケーション・メカニズムを十分に活用しつつ、適切な言語で流布されること。

(c) 客観的な科学的情報を、人の健康、特に子どものような脆弱な集団と、環境、特に脆弱な生態系に及ぼす化学物質のハザードとリスクの評価に関連することを含んで、化学物質政策に関するリスク評価と関連する意思決定に適切に統合することに役立てること。

(d) 科学ベースの基準、リスク評価と管理手順、及びハザードとリスク評価の結果は全ての主体者が入手可能とすること。

(e) 特に指標の開発と使用を通じて、客観的な科学的手法と情報を人間と環境への影響を評価するために有効にすること。

(f) 項目15(b)の脈絡において、人と環境の健康と安全に関連する化学物質に関する情報は機密とみなされるべきではない。この項に従って、情報を入手可能とする時には、機密の商業/産業情報及び知識は国の法律又は規制に従って保護されるか、又は、そのような法律又は規制がない場合には、そのような情報は既存の国際的条項に従って保護されることを確実にすること。

(g) 新たに出現する問題を含めて、化学物質の人間と環境への影響を特定し評価することに関する科学的研究のペースを速めること、及び化学物質の制御技術、より安全な化学物質、よりクリーン技術、及び非化学的代替と技術に関する研究と開発を実施することを確実にすること。

(h) 化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)に含まれる共通の定義と基準の実施を促進すること。

(i) 化学物質の最良の実施、調和、及び義務の共有を促進するために、経済協力開発機構(OECD)のデータ相互受理(Mutual Acceptance of Data)や国際化学物質安全性計画(IPCS)の化学物質安全情報データベース(INCHEM)のような、化学物質の適正な管理のための組織間プログラム(IOMC)の様々な参加組織(原注3)からの、広範な既存のリスク削減及び他のツールを検討と実施のために広く役立たせること。

原注3:IOMCの参加組織
国連食糧農業機関(FAO)、国際労働機関(ILO)、経済協力開発機構(OECD)、国連環境計画(UNEP)、国連産業開発機関(UNIDO)、国連訓練調査研修所(UNITAR)

(j) 世界中の化学物質の不適切な管理に関連する持続可能な開発への推定される現在及び計画中の財政的及びその他の影響に関する知識と情報を展開すること。

C. ガバナンス

16. 戦略とアプローチのガバナンスに関する目的は下記の通りである。

(a) 必要に応じて、多分野的で包括的で効果的で効率的で透明性があり一貫性があり全てを含んだ、適切な国、地域、及び国際的なメカニズムによりライフサイクルを通じて適切な化学物質の管理を達成すること、及び、国々の、特に開発途上国及び経済移行国の状況と必要性を考慮に入れて説明責任を確実にすること。

(b) それぞれの関連分野の中での化学物質の適切な管理、及び全ての分野を横断しての化学物質の適切な管理のための統合されたプログラムを促進すること。

(c) 化学物質管理活動のための優先度を特定するために関係者に指針を提供すること。

(d) 国際的な協定を実施することに役立つものを含んで、化学物質管理に関する国の法と規制の順守を強化し実施を促すこと。

(e) 企業の環境的及び社会的責任を含んで、関連する行動規範(codes of conduct)を推進すること。

(f) 危険な化学製品の全ての不法な国際取引を防止する目的で関連情報の交換のために異なる国の税関業務を含む関連機関との密接な国際的協力を促進すること。

(g) 化学物質の安全に関する規制及びその他の意思決定において、民間社会の全ての分野、特に女性、労働者、及び先住民集団による意味ある積極的な参加を促進し支援すること。

(h) 化学物質政策及び管理における意思決定に女性の平等な参加を確保すること。

(i) 化学物質の非合法な国際取引を防止することに目を向けた国の制度的枠組みを確実にすること。

(j) 戦略的アプローチの実施のための要求に従い、国際レベルで支援供給活動を調整すること。

(k) 貿易と環境の相互補完を促進すること。

(l) ビジネスが戦略的アプローチの目的を推進する製品を開発し改善することを可能とする枠組みを提供し支援すること。

(m) 化学物質の適切な管理を追求して、関連する政府、国際的機関、多国間組織事務局、及び開発機関の活動の間での相乗効果を強化すること。

(n) 国、地域、及び世界レベルで、政府、民間分野、及び民間社会の間での化学物質の適切な管理に関する協力を強化すること。

D. キャパシティ・ビルディングと技術協力

17. キャパシティ・ビルディングと技術協力に関する戦略的アプローチの目的は下記の通りである。

(a) 全ての国々で、必要に応じて、特に開発途上国及び経済移行国において、ライフサイクルを通じて化学物質の適切な管理のためのキャパシティを増大させること。

(b) 先進国と開発途上国及び経済移行国の間のキャパシティに関し、広がっている格差を狭めること。

(c) 技術協力とキャパシティ・ビルディングのためのバリ戦略計画(Bali Strategic Plan for Technology Support and Capacity-building)で相乗効果を最大にしつつ、戦略的アプローチの条項にしたがった援助プログラムの開発による開発途上国と経済移行国との間において、また、先進国、開発途上国、及び経済移行国の間で、技術協力と適切なクリーンな技術援助の提供のための連携とメカニズムを確立又は強化すること。

(d) 開発途上国と経済移行国における持続可能なキャパシティ・ビルディング戦略を開発し実施すること、及び、全ての国の間の協力を推進すること。

(e) 化学物質の適切な管理のためのキャパシティ・ビルディングに関する情報への調整とアクセスを確実にすること、及び、透明性と説明責任を強化すること。

(f) 国家の持続可能な開発戦略、貧困削減戦略文書、及び国の援助戦略を含む社会経済開発戦略の中の重点項目として化学物質の適切な管理を含めること、及び、化学物質を国家の政策の中で重要な部分に位置づけること。

(g) 関係者が化学物質の安全及び科学的研究と分析に関するプログラムを開発し推進するために関係者を奨励すること、及び、開発途上国と経済移行国にキャパシティ・ビルディング・プログラムの支援を行うこと。

(h) 開発途上国と経済移行国が、既に他の国々や国際的機関によってなされた作業及び既に確立された化学物質管理モデルを活用することを促し、それが容易にできるようにすること。

(i) [発展途上国と経済移行国におけるキャパシティ・ビルディング活動のための適切な財政援助を促進すること。]

(j) 貧困の撲滅と発展のための化学物質の安全の社会性の、提供国、多国間組織、及び関連する主体者への周知を促進すること。

E. 不正な国際取引

18. 不正な国際取引に関する戦略的アプローチの目的は下記の通りである。

(a) 有毒で危険で禁止され厳しく制限されている化学物質と化学製品及び廃棄物の不正な国際取引を防止すること。

(b) 不正な国際取引の防止に関連する条項を内容とする既存の多国間協定を支援する管理メカニズムを強化すること。

(c) 不正な国際取引の管理のために、国家レベルで開発途上国と経済移行国と情報を共有し、キャパシティを強化すること。

X. 財政に関する考慮

[19.]
訳注:項目19は合意に達せず、カッコ([])付き。 訳省略

Y.原則とアプローチ

訳注:項目20は全て合意に達せず、カッコ([])付き。

[20. 世界行動計画を含んで、戦略的アプローチを開発し実施するに当り、政府とその他の関係者は下記の原則とアプローチによって導かれるべきである。

(a) 一般的適用のために当初から開発されているもの (訳注:文字強調は訳者による)

 (@)環境と開発に関するリオ宣言の原則 3 を含む適切な条項に述べられている世代間公平(Inter-generational equity)

 (A)環境と開発に関するリオ宣言の原則 15 に述べられている予防(Precaution)

 (B)環境と開発に関するリオ宣言の原則 4 に反映されている釣り合い(Proportionality)

 (C)アジェンダ21と環境と開発に関するリオ宣言の原則 16 に述べられているコストの内部化(汚染者支払い)(Internalization of costs (polluter pays))

 (D)環境と開発に関するリオ宣言の原則 10 に述べられている公衆の参加(Public participation)

 (E)環境と開発に関するリオ宣言の原則 10 に述べられている知る権利(Right to know)

 (F)国連ミレニアム宣言とヨハネスブルグ実施計画第4項に述べられている良いガバナンス(Good governance)

 (G)環境と開発に関するリオ宣言の原則 7 に述べられている国家間の協力(Cooperation among States)

 (H)環境と開発に関するリオ宣言とアジェンダ21に体現されているパートナーシップ・アプローチ(Partnership approaches)

 (I)人間環境に関するストックホルム宣言の原則 22、及び環境と開発に関するリオ宣言の原則 13、原則 16 で勧告され、国連国際法委員会の国境を越える害に関する文書が留意している責任と補償(Liability and compensation)

(b) 特に化学物質管理の脈絡の中で開発されたもの、又はさらに開発されるもの (訳注:文字強調は訳者による)

 (@)アジェンダ21の第19章と第20章で勧告されている化学物質と廃棄物の適切な管理のための調整され統合されたアプローチに基づく統合化学物質管理(Integrated chemicals management)

 (A)アジェンダ21の第6章、第19章、第20章に述べられている防止(Prevention)

 (B)アジェンダ21の第19章、第20章に述べられている代替(Substitution)

 (C)アジェンダ21の第19章に述べられている世代間平等(Inter-generational equity)

 (D)多国間の化学物質や廃棄物協定で詳しく述べられ定義されている予防(Precaution)

 (E)アジェンダ21の第19章でさらに展開されている知る権利(Right to know)

 (F)化学物質の安全に関するバイア宣言でさらに展開されているパートナーシップ・アプローチ(Partnership approaches)]

VII. 実施と進捗の評価

訳注: 項目21〜29:訳省略


付録(Appendix)
ヨハネスブルグ実施計画第23項本文

 ヨハネスブルグ実施計画はSAICM包括的方針戦略の基礎をなす重要な政治的公約である。その計画では、”政府、関連する国際的組織、民間部門、及び全ての主要なグループは、持続可能ではない消費及び製造パターンを変えるために積極的な役割を果たすべきである”ということが合意された。これは同計画の第23項で述べられている全てのレベルにおける行動を含むであろう:

23.人の健康と環境とともに持続可能な開発のために、特に、透明な科学ベースのリスク評価手順と科学ベースのリスク管理手順を使用しつつ、環境と開発に関するリオ宣言の原則 15 に述べられているように、予防的アプローチを考慮しつつ、化学物質は人の健康と環境への著しい有害影響の最小化に導く方法で使用され製造されることを2020年までに達成することを目指しつつ、アジェンダ21で推進されているように、ライフサイクルを通じての化学物質と有害な廃棄物の適切な管理に対しその使命を新たにする。開発途上国を技術的及び財政的に援助して化学物質と有害廃棄物の適切な管理のための彼らのキャパシティ強化を支援すること。このことは全てのレベルにおいて下記の行動を含む。

(a) 有害な化学物質と農薬の国際貿易のための事前同意手続に関するロッテルダム条約が2003年までに発効し、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が2004年までに発効することができるようにすることを含んで、化学物質と有害廃棄物に関する国際的な法律文書の批准と実施を促進すること、及び、開発途上国の実施を支援するとともに協調を促し改善すること。

(b) 化学物質の安全に関する政府間フォーラムの2000年以降に向けたバイア宣言および行動優先課題に基づき、2005年までに、国際化学物質管理に対する戦略的アプローチをさらに発展させること、及び、国連環境プログラム、政府間フォーラム、化学物質管理を扱うその他国際的組織、及びその他関連国際組織と主体者がこのことに関し適切である限り密接に協力するよう促すこと。

(c) 化学物質の分類およびラベリングに関する新たなグローバル統一システムをできる限り早く実施し、2008年までにこのシステムを全面的に運用するよう各国を促すこと。 (d) 多国間の環境協定を実施しつつ、化学物質と有害廃棄物に関連する問題を知らしめつつ、追加的な科学的データの収集と使用を促しつつ、化学物質と有害廃棄物の環境的に適切な管理を強化することを目指した活動を促進するようパートナーシップを促すこと。

(e) 有害化学物質と有害廃棄物の国際的な不法取引を防止し、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約のような国際的法律文書の下での責務と整合した方法で、有害廃棄物の国境を越えた移動と処分の結果生じるダメージを防止するための取り組みを促進すること。

(f) 国家の汚染物質排出移動登録のような化学物質に関する一貫した統合された情報の開発を促すこと。

(g) 国連環境計画の水銀とその化合物の世界的評価のような関連する調査の検証を行うこと含んで、人間の環境と環境に有害な重金属によって及ぼされるリスクの削減を促進すること。


訳注:関連する国際環境会議・宣言
日本語訳及びオリジナルを参考までに示します。

■1972年 国連人間環境会議UNCHE(ストックホルム)
国連人間環境会議(ストックホルム会議:1972 年)人間環境宣言(環境省訳)
Declaration of the United Nations Conference on the Human Environment

■1992年 リオ宣言
環境と開発に関するリオ宣言 (環境省訳)
Rio Declaration on Environment and Development (United Nations Environment Programme)

■1992年 アジェンダ21
アジェンダ 21行動計画(日本政府版)
アジェンダ21行動計画
Agenda 21 (United Nations Environment Programme)
Agenda 21 by Information Habitat: Where Information Lives - http://habitat.igc.org/index.html

リオサミット関連資料/CASA

■2000年 バイア宣言 (Salvador da Baha, Brazil, 15 - 20 October 2000)
Bahia Declaration on Chemical Safety

■2002年 持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)
持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)外務省

■2002年 ヨハネスブルグ宣言
持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言(仮訳)(外務省)
Johannesburg Declaration on Sustainable Development

■2002年 ヨハネスブルグ実施計画
持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画(和文仮訳)(外務省)
Johannesburg Plan of Implementation (HTML)
Plan of Implementation of the World Summit on Sustainable Development (PDF)

WSSD リオからヨハネスブルグへ/CASA

■2000年 国連ミレニアム宣言
ミレニアム宣言(外務省訳)
United Nations Millennium Declaration

■国際環境法・環境条約の解説
Maurice Strong と1972 国連人間環境会議UNCHE(ストックホルム)
ローカルアジェンダ21 策定状況及びその内容等に関する調査報告書((財)地球・人間環境フォーラム)
ストックホルム、リオ、そしてヨハネスブルク (松下和夫 京都大学大学院教授)



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る