Clean Production Action のレポート紹介
REACH でより安全な化学物質
代替原則でグリーンな化学へ


情報源:Safer Chemicals within Reach.
Using the Substitution Principle to drive Green Chemistry
Published by Clean Production Action
http://www.cleanproduction.org/library/SafeChem.pdf

エグゼクティブ・サマリー、目次、結論を翻訳して紹介します
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年9月12日

 EU 化学物質政策は、域内市場の効率的な機能と化学産業の競争力を確保しつつ、EU 条約に記されているように、現在の世代と将来の世代双方のために人間の健康と環境を高いレベルで保護することを確実にしなくてはならない。
 これらの目的を実現するための基本は、予防原則(Precautionary Principle)である。ある物質が人間の健康と環境に有害な影響を与えるかもしれないが、正確な本質又は潜在的な被害の程度についての科学的不確実性がまだ存在するという信頼できる科学的証拠がある場合にはいつでも、政策決定は人間の健康と環境への被害を守るために予防措置(precaution)に基づいたものでなくてはならない。
 他の重要な目的は、代替物が入手可能な場合には、より危険性の少ない物質によって置き換えることを推進することである。
 域内市場の効率的な機能と化学産業の競争力を確保することもまた 不可欠である。

白書:将来の化学物質政策、2001
White Paper : Strategy for a future chemicals policy. 2001.

 内 容

 1.エグゼクティブ・サマリー
 2.はじめに
 2.1背景:有毒物質汚染
 2.2代替原則とは何か
 2.3代替を主張しないと、なぜリスクを管理できないか?
 2.4安全な代替とは何か
 3.なぜ代替を法的に義務づけるのか?
 3.1代替原則は全ての人々の義務とならなければならない
 3.2代替規制が革新に拍車をかける
 3.3代替原則の先例
 4.代替物がない場合
 4.1代替計画の義務
 5.代替の実際:産業界の実績
 5.1法により川下ユーザーが代替を促進する
 6結論
 ANNEX 1.代替に関する産業界の成功事例
・臭化難燃剤
 −BFRs と小売業界
 −非臭化難燃剤代替物の評価−それらは安全か?
 −代替 BFRs への物質及び機能からのアプローチ
・電子機器での鉛の代替
・小売業界では広範な危険物質を代替している
・化学物質供給者はグリーン化学物質を採用している
 ANNEX 2.国際条約における代替
・代替に関する政治的主導
・EU 立法
・関連国際法
 参照
 図表図-1 REACHにおける認可決定プロセスの提案
表-1 Umweltbundesamtによる難燃剤調査



エグゼクティブ・サマリー

 多くの人工の化学物質は非常に役に立ち、我々の生活と健康に多大な利益をもたらす。しかし、また、多くの物質は非常に危険である。我々は現在のように無差別に化学物質に曝露されるような状況のままにしておいてはならない。人間の体内の産業化学物質のレベルについての研究が、我々は絶えず数多くの化学物質汚染に曝露しているということを示している[1].
 [1] Greenpeace (2003). Chemical Legacy: Contamination of the Child.

 我々が全て、常に多くの異なる化学物質に曝されているのは法がそのようなことが起こるこを許しているからである。ヨーロッパの法律は現在、ほとんどの危険な化学物質についてさえも、 ”許容できる” 曝露レベルが存在するという前提に基づいている。規制作成者はこれらの曝露から許容できるレベルを決定する。

 さらに、我々が曝露する物質の量は、環境中での希釈と拡散によりコントロールできるという前提がある。
 しかし、この前提は、環境中ではこれ以上変化(degrade)しない、あるいは非常にゆっくり変化し、生体蓄積するような物質には当てはまらない。
 さらに、驚くべき数の有害物質が日用品中に使われているのに、これら日用品からの、及び、これらから放出されたソースからの化学物質への曝露を無視できるという、もう一つの暗黙の前提がある。最近の研究がこれは正しくないということを示している[2]。
 [2] Greenpeace (2003). Consuming Chemicals: Hazardous Chemicals in house dust as an indicator of chemical exposure in the home
 これらの前提の結果、我々は全て、絶え間なく、そして全く合法的に、複数の、そして多くの異なる少用量物質に曝露している。

 化学物質規制がこのリスク・ベースの考え方に基づいている限り、危険な化学物質− ”非常に高い懸念のある化学物質” −への人間と環境の曝露は続くであろう。自然は年月とともに全く単純にこれらの物質を集め、濃縮するので、”拡散と希釈” モデルは、残留性・生体蓄積性化学物質にはあてはまらない。

 必要なことは、曝露とリスクを管理しようとする試みに基づく ”許容” 規制から、予防に基づく規制にシフトすることである。
 化学物質政策の目標は、その本質的な特性が高い懸念を引き起こす国際的に製造されている物質への曝露をなくすことである。

 ヨーロッパの化学物質規制は現在、徹底的に見直し中であり、新化学物質規制法が 2004 年に欧州議会を通過するであろう。しかし、EU が提案する新しい化学物質政策は、我々を ”許容” 制度から解放する措置はまだ含んでいない。
 枠組み(REACH)と仕組み(Authorisation/認可)はできたが、そこにあるように、現在の規制案は規制の規範として、 ”適切な管理” を前提にし続けている。
 人間を、がんや遺伝子の損傷を引き起こすかも知れない化学物質、内分泌かく乱化学物質、そして我々の体内に蓄積する化学物質に、ある ”許容できる” レベルで曝露させ続けることが許容されている。

問題があることは分かっている
その解決方法は何だろう?


 人間の健康と環境を真に保護する予防制度に向けての最も重要なステップは、化学物質規制の中心に代替原理 (Substitution Principle) を据えることである。このことは全く簡単に ”代替物質が入手可能なら、有害物質をより有害性の少ない物質、望ましくは有害性のない物質におきかえること” と定義することができる。
 このことは、もし有害物質を使用している製品を、より安全な代替物質を使用して製造することができるなら、その有害な物質はその使用目的のためには許可されない−ということを意味する。
 当たり前? その通り。しかし、現状はそのようにはなっておらず、多くの有害物質が必要もないのに使用されており、それは単に、代替を体系的に行うための法的あるいは経済的仕組みがないというだけの理由である。

代替原則はうまく機能するだろうか?

 いくつかの会社では、すでに自社製品から有害化学物質を排除するための代替を行っている(参照:ANNEX 1)。
 これらの会社がより安全な代替物質に置き換える理由は様々である。最近の”有害物質の制限に関する指令”、増大する世間の認識、川下ユーザーまたは顧客からの要求、責任問題、競争上の優位性、そして会社としての倫理、・・等々である。
 しかし、障害もあり、より安全な代替物の開発や採用の動きは遅く、部分的であり、ある分野では全く行われていない。

 代替原則は一般的な政治声明として単純には実施することができないのは、その変化を引き起こさせるための十分な駆動力がないからである。そのためには明確で強制力のある命令が必要である。
 このことは、代替原理に基づきREACH においては認可手続きの項に ”より安全な代替物が入手可能ならば、それは認可を拒否するための十分な根拠となる” と記述することを意味する。
(訳注)
1. REACH 2003年5月オリジナル提案での記述
48条 認可の賦与
 3.(c) 代替物質あるいは代替技術に関する入手可能な情報
  代替は考慮されなくてはならないが、代替の存在だけをもって、認可を拒否するための十分な根拠とはならない。

2. REACH 最終提案での記述
導入部の解説 (7) (Introduction to the proposal, Annexes (7) Page 56)
 この規制により確立されるべき新たなシステムの重要な目標は、より危険の少ない物質又は技術が入手可能ならば、それにより危険な物質を代替することが推奨される。

58条 認可の見直し
 申請者は、リスクが適切に管理されることを立証できないなら、オリジナルの申請に含まれていた社会経済分析の改訂版、代替案の分析、及び代替計画を提出しなくてはならない。

 安全な代替物が適用できない場合の一つが、REACH 検討文書の第44項 a) から f) で定義されている非常に高い懸念のある化学物質の場合である。

 ”入手可能性” とは代替物質が市場で入手可能でなくてはならず、経済的要素(すなわち合理的なコスト)を含む。それは技術的に有効であり、適用しようとする目的に合致していなくてはならない。

 代替物は、非常に高い懸念のある化学物質という場合を除けば、より安全かもしれないが、それには他の危険性、例えば、腐食性、あるいは可燃性などがでてくるかもしれない。これらの危険性は管理することが容易であるが、もし提案された代替物質に深刻な健康と安全上の問題があるのなら、それは入手可能な代替物とはみなされない。
 代替原則に基づく機能する認可手続きの提案が図-1 に図解されている。

 認可申請を行う時には、申請者は、代替案、代替物質、現在使用しているプロセス又は製品についての詳細を提出しなくてはならない。代替物の危険性評価の比較も必要である。他者(例えば、代替物候補の製造者)もこの代替物評価への対応のために招かれねばならない。

 高懸念性化学物質の製造者、輸入者、又は使用者が、実行可能な代替物の入手ができないということ、透明な社会的経済的評価によりその物質が必要であるということ、及び、その物質は適切に管理することができるということ−を実証できるなら、期間を限った認可が与えられるであろう。期間を限定することで、その物質の段階的廃止のためのコストを軽減し、代替案の開発に対する意欲を鼓舞することができる。

 このシステムは、高懸念性化学物質について申請者が、より安全な代替物がないということ、製造を継続しなくてはならないやむを得ない理由があるということ、及び、そのリスクは管理することができるということを証明できなければ、その物質は廃止されるといいう前提に立つことである。このような条件が満たされる場合にのみ、期間限定の認可が与えられる。


6. 結論

 提案されている REACH 法案は、既存の化学物質に関し情報が不足していることに、及び、規制と管理の重点を高い懸念のある化学物質に置くことの必要性に着目しようとするものである 。
 しかし、現状の提案の下では、たとえ最も有害な化学物質でも、もし製造者が人間と環境に対するリスクが適切に管理できると示すことができれば、その使用を続けることの認可を得ることができる。
 また、たとえ適切な管理を示すことができなくても、もし、社会的経済的便益がその物質を使用することによって引き起こされる人間と環境に対するリスクよりも重要であるということになれば、認可は与えられる。
 このことは次のことを考慮した後に決定されなければならない。
・その物質を使用することにより起きるリスク
・申請者又は他の関係者によって示された社会的経済的便益
・代替物質又は技術に関する入手可能な情報

 このような法律の下では、たとえ、より安全な代替物が入手可能になっても、最も有害な物質ですら製造を続けることが認可される。”適切な管理”は環境中への放出を防ぐことができず、非常に高い懸念のある化学物質の本質的な特性は、これらの放出が曝露を進行させ、環境中と人間の体内に蓄積し続けることを意味する。

 もし、REACH が、”適切な管理”という条件の下に非常に高い懸念のある化学物質の製造を続けることを許すなら、たとえ、本質的に有害性の少ない物質が入手可能となっても、EU 条約の下で要求される人間の健康と環境の高いレベルで保護することができない。

代替原則が認可プロセスの基本的な原則とならなければならない

 特に、より安全な代替物質の入手可能性があるのなら、そのこと自体が不認可にする十分な理由とするということが義務付けられるべきである。このことが、REACH がより安全な化学物質の製造と革新を促す原動力となりうる唯一の道であり、決して、短期的な利益のために、人々を有害な化学物質に絶え間なく不必要に曝露させることを許す、有害化学物質の使用の固定化ではない。

 ある産業分野の企業は、すでに代替に関する実際的なプログラムを開発している。同時に、EU 域内には中小規模の企業に対しより安全な製品とプロセスを実現できるよう支援する専門家たちが存在する。

 全ての認可申請者に代替評価を用意させる要求は、認可における不必要な要求を防ぎ、安全な化学物質ということだけに注力することができる。
 代替が特定の用途に対し、現在は現実的でない場合、もし、社会的必要性が示され、かつ、明確なコスト/便益分析がなされるなら、厳密なリスク管理の制度の下にその物質は認可される。その認可は、より安全な物質を開発するための期限付きであり、製造者及び/又は使用者は、期限内に代替物で置き換えられるよう、代替物質開発計画を作成することが求められる。

 非常に高い懸念のある化学物質のためのそのような計画立案は、情報の流れとより安全な代替物の開発を促進する。
 それはまた、ヨーロッパをより競争力のある、革新的な、そして持続可能な、化学物資、製品、及びサービスの提供者とすることになる。
 もっと重要なことは、我々全てが現在、帯びている有害な化学物質の体内汚染から解き放つことが始まることである。


化学物質問題市民研究会
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