REACH パブリック・インターネット・コンサルテーション
ノルウェー政府のコメント概要

(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会
情報源:Comments from Norway on the REACH Regulation,
Consultation documents Volume I, II, VI and VIII.

掲載日:2003年10月16日

ノルウェー政府のコメント概要
この概要はノルウェー政府の
Comments from Norway on the REACH Regulation, Consultation documents Volume I, II, VI and VIII の
一般的コメント (General comments) を全訳、個別項目へのコメントを部分訳したものです。

一般的コメント

 提案された化学物質法は、欧州共同体 (EC) と欧州自由貿易連合 (EFTA) 諸国の間の ”欧州経済地域 (EEA) に関する合意” に関連する。したがって、REACH はノルウェーの国内法の一部となり、  ”欧州経済地域合意(EEA Agreement)” の下における既存の義務を置き換え、補足することとなる。
 ”欧州経済地域合意(EEA Agreement)の第100条は、”欧州理事会は、実行面で欧州理事会を支える諸委員会に提出される法案草稿の準備段階から、当該地域の事情を鑑み、EFTA 諸国の専門家が可能な限り広い範囲で参加することを保証する” と述べている。
 我々は現状の化学物質規制に関するノルウェーの専門家の関与は全ての関係団体にとって有意義であると信じており、同様な方法でノルウェーが REACH の現実的な実施にも貢献する用意があることを強調したい。
 同規制の中で述べられている”加盟国”は、したがって、適切な合意を得た後に、本来の意味に加えて、EEA 合意に含まれる EFTA 諸国を含むと読み替えられるべきである。

 原則として、全ての化学物質に関する情報は必要である。しかし、限られた資源の下では、同時に全てのことを行うことはできない。したがって我々は、資源は優先順位をつけた対象に向けられるべきであると認識する。これは、単離されない中間体 (non-isolated intermediates) のような物質の多くのグループに対し、優先度を下げる、あるいは免除することを意味する。
 しかし、このようなことをする時に、生産トン数のしきい値のために、あるいは、規制の様々な部分の範囲外であるために、優先順位を下げられた物質に関する潜在的な懸念に目を向ける十分な安全ネットをシステムが含むことが重要である。

 全体として、提案される REACH システムは野心的であり、一般的に良くできているように見える。この提案は、化学物質、その特性、及び人間の健康と環境への影響に関する知識を得る上で、大きな飛躍を伴うものである。 REACH 規制が非常に高い懸念のある物質に関するリスクの特定と管理に十分に目を向けるであろうということは特に重要であり、そのリスクを削減することが環境と人間の健康にとって非常に利益となる。人間の健康、環境、職業上、及び消費者の懸念を考慮した統合的アプローチが必要である。

 しかし、REACH 規制は、全体として同規制の他の部分が社会に対し同じ程度の便益をもたらしているかどうか疑問があるので、さらに精査しなくてはならないであろう。
 我々は同規制のある部分は複雑で理解しがたいことを懸念する。手続きのあるものは不必要に煩わしく、時間を費やすこととなる。採択に向けて、可能な限り簡素化と明瞭化に注力することが必要である。

(訳注:以下、各項目のコメントの概要を訳したものです)


1. 注意義務( Duty of care)
 製造者、輸入者、及び川下ユーザーに対する注意義務を導入したことに賛成である。より安全な代替物が入手可能ならば、産業界が危険な化学物質を代替し続けるようにするために、一般管理条項として代替原則が記述され、注意義務に関する条項で規定されるべきである。

2. 化学的安全性評価
 製造者、輸入者、及び川下ユーザー(サプライチェーンの全ての当事者)が取り扱う物質の化学的安全性評価を実施し、リスク削減方法を特定し、適用し、勧告すべきことに賛成である。既存の安全データシートは適切である限り、利用すべきである。サプライチェーンで最も多く使用されるのは調剤(preparations)であり、物質(substances)ではない。調剤に関する情報が最も要求される。従って、安全データシートは今後も、最も重要な情報ツールであり続けるであろうが、その質は REACH を通じて改善されることが期待される。

3. 情報の流れ
 サプライチェーンの全ての当事者が、物質に関する最新の情報をサプライチェーン中の他者に伝える義務を持つという条項は重要である。そのために化学的安全性評価報告書は重要なツールとなる。
 データの質を高め、また、公衆が環境情報を入手できるよう、情報の透明性と容易になアクセスできることが重要である。特にNGOsが産業側が提供した情報をチェックできる仕組みにすることが重要である。
 高い懸念を有する物質が消費者製品に含まれるならば、物質、調剤、成形品へのラベル表示を通じて消費者に警告できるようにすべきである。

4. 登録手続き
 製造者または輸入者が登録されていない物質を扱うことを禁じるために、物質の登録に関する明確な期限を設定することに賛成である。
 PBT と vPvB 物質の登録期限は CMR (分類1、2)と同じ登録期限( REACH 発効後3年以内)とするよう検討べきである。
 医療品及び食品添加物は登録が免除されているが、環境及び職業上の健康が適切に確保されないのではないかと懸念する。
 食品用包装・容器、及び化粧品に用いられる物質が登録対象であることに賛成である。特に化粧品中の物質で製造者や、例えば、美容院での職業上のリスクを及ぼす恐れのあるものについては詳細な情報が必要である。

5. ポリマー
 ポリマーに要求される情報には、例えば、焼却時、あるいは高温下での挙動など、全体のライフ・サイクルに関するデータを含むべきである。もしモノマーが危険なら、ポリマー中の自由モノマーについての情報が必要である。

6. 中間体
 中間体に関する取り組み姿勢、及び、提案された要求に賛成である。これらの要求は、既存の ”中間体指令” に従っている。

7. データ要件
 新たなEU化学物質政策の動機は、既存化学物質の特性に関する知識が十分でなく、また、リスク評価が遅いという現状によるところが大きい。従って、提案されるシステムが健康と環境の危険性及びリスクについての十分な知識を生成することに関し、重大な欠陥があるとするなら、それは不幸ことである。
 動物テストは必要な時だけに実施されるべきことに賛成であるが、提案された REACH の記述では、 ”限られたデータでの評価” を強いることになりかねない。人間と動物の健康を確保し、環境を保護するために動物テストを含む研究は必要である。 REACH の記述を次のように変えることを提案する。(略)

 少量化学物質 (10トン以下/約20,000種) に対する情報要件が曖昧である。10トン以下の物質に関し、スクリーニングにおける繰り返し容量毒性テストの要求がないのは問題である。これらは、いくつかの重要な毒物学的評価項目のスクリーニングにとって本質的な最低データ要件である。
 さらに、10トン以上の物質についても、発達毒性に関するスクリーニング・テスト (OECD 421) は生殖に対する影響評価には不十分である。これらの評価には OECD 414, 415, 416 が適用されるべきである。

8. データの共有/コンソーシアム
 製造者及び輸入者が登録にあたってコンソーシアムを組むことに賛成である。登録の手間を削減できる。

9. 川下ユーザーの手続き
 川下ユーザーの手続きに賛成する。川下ユーザーへの要求は柔軟性があり、中小規模の企業に適切である。しかし、川下ユーザーの負担だけでなく、上流の化学物質管理を改善することで得られる便益が重要である。

10. 評価手続き
 登録者が、いろいろ理由を挙げて登録書類にテストデータを含めない可能性があるので、実際の自主的な研究の程度や、当局による標準的評価を予測することは難しい。新設される欧州化学品機構に、産業側が実施するテストのための提案作成と評価に関して、より大きな権限を与えることを勧告する。
 複数の登録者から提出される情報が評価され、製造量が集計されるべきとすることに賛成である。
 提案された手続きは、実行上困難な点があると思われる。可能なら、時間がかからず官僚的でない手続きが望ましいが、時間的制限があるなら、今の提案に賛成する。

11. 認可手続き
 PBT, vPvB 物質や内分泌かく乱物質などな懸念ある物質が CMRs (分類 1及び 2)とともに、認可に含まれていることを歓迎する。これにより認可体系が人間の健康とともに深刻な環境への懸念に注目することを可能とする。
 加盟国が新たな物質を認可物質としてリストに加えるための書類を作成することは、このシステムを推進する上で重要であるが、認可手続きは簡素化されなくてはならない。

 認可の指針は標準化され、予防原則(recautionary principle)、代替原則(substitution principle)、ライフ・サイクル・アプローチ、及び、OSPAR 条約(訳注2) 及び EU の水政策における指令 2000/60/EC  に述べられている ”一世代目標 (one-generation target)”(訳注1) に目を向けなくてはならない。

(訳注1):参考 一世代目標−問題ある物質を2020年までになくす−どのように実現するか? / デンマークEPA(当研究会訳)
(訳注2):OSPAR Convention Convention for the Protection of the Marine Environment of the North-East Atlantic

 これらは特に PBT, vPvB 物質 に対して重要である。これらの物質が消費者製品に含まれていると、製品のライフサイクルにおける使用及び破棄の段階で曝露源となるので、そのような曝露を防ぐことができる管理方法が示されるか、あるいは、例えばガソリン中のベンゼンのように社会経済的にやむを得ない場合を除いて、一般的には認可されるべきではない。

 48.3項によれば、社会経済的便益が人間の健康又は環境に与えるリスクより重きが置かれる場合には認可が与えられることがあるとしている。コスト−便益分析において、コストの ”重み” と便益を比較するために、リスクは金額価値に変換する必要がある。我々は、長期間にわたる健康と環境に及ぼす有害な影響に関するコストを定量化し、外挿することは難しいと懸念する。経験によれば、長い間汚染した環境を元に戻すことは、例えそれが可能であったとしても、非常にコストがかかる。環境的及び職業的健康影響を考慮して、社会に与える全体コストを定量化するための適切な手法をさらに検討する必要がある。
 また、リスク評価の科学的不確実性は、人間の健康や環境をコスト換算して得られる結論にバイアスを与える可能性がある。従って、政策決定にあたっては、予防的考慮(precautionary considerations)がなされることが重要である。

 48.3(a)項は、 ”科学的不確実性があるということは高いリスクレベルを暗示しているかもしれないということを十分に考慮した、物質の使用によりもたらされるリスクのコスト” と書き改めることを提案する。

(訳注:48.3項 オリジナル)
48 認可の賦与
1. 省略

2. Annex XIII で定義される固有の特性から生じる物質の使用によってもたらされる人間や環境へのリスクが適切に管理され場合に認可が賦与される。(以下中略)

3. 上記 2項の下で認可が賦与されない場合には、社会経済的便益が、物質の使用により人間の健康又は環境に与えるリスクより重きが置かれる場合には、認可が賦与されることがある。その決定は下記全ての要素を検討した後になされなくてはならない。
(a) その物質の使用によってもたらされるリスク
(b) 申請者又はその他の利害関係当事者によって証明されるその使用から生じる社会経済的利益及び認可賦与の拒絶の場合の社会経済的影響
(c) 代替物質又は技術に関するあらゆる入手可能な情報に基づき代替を考慮する。しかし、代替策(物)の存在はそれ自体では認可を拒絶する十分な根拠とはならない。

(以下省略)

12. 制限手続き
 現行のシステムを改め、安全ネットとして新たな制限条項を導入することに賛成する。
 このシステムは、認可対象となる物質の使用に関し、一般的、又は部分的な禁止のために積極的に適用されるべである。
 そのことは、事務効率を上げ、当局の負荷を大幅に軽減することになる。

13. 新(欧州化学品)機構
 ノルウェーは EEA の一国として、新機構に関わる作業への完全な参加のみならず、新化学物質規制の下における政策決定に参加する権利を保有する。ノルウェーは特に、新機構において会議に参加し、提案し、意見を述べ、理事会メンバーを指名する権利を保有する。
 さらに、ノルウェーが新機構に専門家を派遣し、事務局とフォーラムに参加することが重要である。ノルウェー及び他の EFTA 諸国の参加により、新機構は知見と人的資源を得ることができる。

 新機構の設立と提案された組織に賛成する。委員会会の記述は明確にする必要がある。特に、社会経済的分析のための委員会の役目と制限提案に関するリスク評価を行う委員会の役目を明確にすべきである。
 新機構は、環境、健康、及び職業上の健康に関する専門性を保有すべきであり、この広範な専門性が政策決定プロセスに生かされるべきである。

(訳: 安間 武 /化学物質問題市民研究会)


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