北欧理事会報告書 2010年1月20日
REACH高懸念物質に関する情報の引き金
成形品中の0.1%制限の評価


情報源:Nordic Council(北欧理事会(訳注1)) Jan 20, 2010
REACH Trigger for Information on Substances of Very High Concern (SVHC)
An Assessment of the 0.1% Limit in Articles
http://www.norden.org/en/publications/publications/2010-514/at_download/publicationfile

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年1月29日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/Report/Nordic_Council.html

サマリー

 新たな欧州の化学物質規則 REACH 1907/2006/EC は2007年6月1日に発効した。それによって、成形品中の非常に高い懸念のある物質(訳注:以降、高懸念物質叉はSVHC)に関する新たな情報伝達義務が、もし、候補リスト上のSVHCが0.1% (w/w) の閾値を超える場合には生じる。しかし、複合成形品(complex article)の場合、どのようにしてこの制限を適用するかについてはいまだ議論中である。

 一方、現行ECHAの”成形品中の物質への要求に関するガイダンス”による解釈は、0.1% 閾値は製造叉は輸入される複合成形品全体に適用するとしているが、加盟6カ国はこの解釈に対して異なる意見及び疑問を持っている(訳注2)。

 この背景の下、このプロジェクトの主題は、この新たな情報伝達義務に影響を受ける異なる製品分野における影響の事例を特定し記述することである。既存の適用の多様さを描き、0.1%制限の異なる適用の潜在的な影響を記述することにより、このプロジェクトの結果はECHAにより発表されたように”成形品中の物質への要求に関するガイダンス”のレビューに貢献するはずである。

評価アプローチとしての事例研究

 成形品カテゴリーの事例研究は、異なる産業分野が成形品中の”問題ある物質”をどのように取り扱っているのかに関する現実的な見解と、REACH第33条の情報伝達義務(訳注3)によりもたらされる影響のいくつかの事例を与える為に適切であると考えられる。

 成形品カテゴリーの選定は、成形品中のSVHCの存在、その物質への潜在的な暴露、成形品の複合度、EUへの輸入の適切な共有などを含む一連の基準に基づいた。第二段階での改善は、サプライチェーンの特性化、産業との連絡確立、及び市場データの入手のような更なる基準に基づいた。選定された成形品カテゴリーの最終リストは次のものを含む。
    布・革張りソファー)
  • 道具(プライヤー)
  • 玩具(ぬいぐるみ)
  • 電気装置(配電盤)
  • 電子機器(デスクトップ・コンピュータ)
 58の会社、業界団体、研究所から約70名の担当者が連絡をし、事例研究のインタビューに応じた。サプライチェーン、成形品とその要素、部品と材料、及びサプライチェーンの情報の流れに関する特性についての質問の付いたガイドラインが質問票として使用された。輸入統計、市場価値等は公的に入手可能な情報源から追加して収集された。

 事例の選択は、定義、情報伝達、及び要求に関連する物質のチェックの実施手順と共に、様々な複合成形品及び異なるサプライチェーンの特性に関する適切な概観を提供した。

部品と要素は他の法令の中に対応があるものもある

 いくつかの特定の成形品タイプに関連するEUの既存の法令における要求は、この事例研究と平行して分析された。その分析は、危険物質のための閾値と制限は複合成形品に全く関係していないことを示した。要求に関連する広範な物質は原則として、適切に異なるレベルで言及している(部品、要素、叉は材料)。

 REACHでもAnnex XVIIの中に多くの条項があり、そこでは閾値は、複合成形品全体よりもむしろ複合成形品の部分である成形品に関連する。いくつかの他の法令は産業に対し複合成形品に関する特定標準を適用するよう求めている。このことは産業側は複合成形品の異なる部品に関する異なる標準を既に適用していることを示す。

 分析は、どのようにSVHCを適用するかに関する将来のガイダンスは、成形品の特定のタイプのための他の法的要求のために生ずるかもしれない状況もまた包含すべきであることを示唆している。

要求はサプライチェーンでは適用しなくなる

 0.1%閾値をどのように適用するかに関するECHAの現在の解釈は、別々に販売され、他の(複合)成形品に導入されれば、異なる要求が同一の成形品に適用されるであろうということを示唆している。分析された法令のどのようなものもその様な特性を示さない。もっと複雑な複合成形品に導入されてしまうと条項が成形品に適用しなくなるということを規定するようなものはない。しかしEHCAのガイダンスに従えば、小さな性器得品が複合成形品に導入されていくと、この要求は消えてなくなるであろう。

情報が失われるかもしれない

 この事例研究は、REACH情報伝達義務の引き金となる0.1%閾値より低くても、相当の量のSVHCが大量の成形品と共に安全情報なしに輸入されるであろうことを示している。

 例えば、特定の通知なしに、ひとつのあるSVHCが毎年900トン、靴の部品としてにヨーロッパに輸入されるであろう。同様な発見がデスクトップ・コンピュータの事例研究で描かれているが、そこではひとつのあるSVHCが毎年ほぼ42トン、情報要求を引き起こすことなく理論的には輸入される。プライヤーなどの工具のように比較的小さな製品グループでも、プライヤー中に含まれるSVHCの3.5トンが毎年輸入さえる可能性があることを示している。これらの見積もりは、相当量のSVHC がREACHの情報条項が”逃亡”する可能性があることを示している。

 この事例研究はまた、複合成形品(デスクトップ・コンピュータやプライヤー)の部品や要素に含まれるSVHC濃度は実際問題として、0.1%制限を越えていることを示している。しかし、複合成形品にこの閾値を適用すると、明らかにSVHC濃度は”希釈”されて閾値以下となり、したがって重要な情報がサプライチェーンで失われる。

 それによって、保護のレベルが影響を受けるかもしれない。REACH規則の一般的目的に照らして、サプライチェーンにおける情報のギャップと喪失を回避叉は低減することが重要であるように見える。

任意に起きる情報の喪失

 ECHAガイダンスの現在の解釈に従えば、SVHCを含む小さな成形品が重量のある複合成形品に組み込まれる場合や、それらの小さな成形品中で0.1%制限に近い濃度で使用される場合には、情報の流れが止まってしまうかもしれない。言い換えれば、情報の喪失は、成形品部品と複合成形品の重量の差が大きい場合や成形品部品中のSVHC濃度が低い場合に、もっと頻繁に起きるであろう。複合成形品の部品叉は要素として用いられる成形品のグループについて、情報要求の引き金は、個々のアイテムが市場でどのように使用されるかによって非常に大きく変動する。このことは、”希釈効果”と情報ギャップが任意に起きる状況をもたらす。

SVHC関連情報へのアクセスが重要

 成形品製造者は、REACH第33条に基づく情報伝達義務が生じるのかどうか決定し、彼らの”順法”を確実にするために、サプライチェーン中で材料/部品中のSVHC 濃度に関する情報を求めなくてはならない。

 この研究の発見によれば、実行可能性は、成形品製造者及び輸入者がいかに正確なSVHC 情報にアクセスできるか、及びそのために彼らが費やさなければならない努力に依存する。このことは、閾値の適用が部品であろうと複合成形品であろうと、大きな障害になるであろう。

 このことに関連して、この事例研究では使用される材料中の物質及び内容物に関連する義務に関する知識は多様でありあるサプライチェーンでは全く乏しいということが言及される。この基本的な知識の欠如はこの閾値をどのように適用するかに関する問題に直接的には関係しないが、この状況は大きく改善される必要がある。そのような改善はREACH規則の一般的な目的である。

物質関連情報の流れは実行可能

 靴と玩具の事例研究は、電子機器分野における RoHS 指令実施からの経験も踏まえて、市場関係者は物質関連情報の流れを確実にするための日常的業務を実施することが出来ることを示している。このことは、関連する物質についての情報伝達に関連する義務は産業界にとって新しいことではないことを示している。さらに、製品特定の法令及び調査が、情報に関する日常的な業務を確立するために、サプライチェーンにおける協力的な取り組みを効果的に推進するかもしれない。

 この事例研究から、たとえ同一の産業分野叉は製品グループであっても非常に異なる状況が存在するということが明らかになった。一方で、完全な設計管理、効果的な情報伝達業務、及び確立されたテスト手順をもったサプライチェーンがあるが、他方、要求に関連する物質に関して基本的な知識が欠如している関係者がいるサプライチェーンもある。先を見越した関係者は既存の法的要求を満たすためだけでなく、広い意味での製品品質を確実にするために、詳細な製品要求を定義し、情報伝達し、管理するための適切な業務を実施している。特に玩具と電子機器の事例は、市場関係者が材料レベルに関するそのような業務を実施することが出来ることを示している。

実行可能制は品質管理によって動く

 この発見からの全体的な結論は、実行可能性は主に品質管理システムが適切かどうかに依存するということである。

 さらに、もし濃度閾値が組み立てられた成形品に対して適用されるなら、情報伝達義務を満たすためのリソースの必要性が低くなるなるということが予測される。そのような状況の下で、含まれる全ての部品から最終複合成形品の濃度を計算する必要も、全ての部品供給者との詳細なコミュニケーションの必要も、なくなる。

 一方で、閾値の適用変更は、基本的な管理業務を確立するために必要とする努力を恐らく、著しく変更することはないであろう。顧客からの情報要求のための数は恐らく変わらないであろう。
 この研究の発見によれば、実行可能性は、成形品製造者と輸入者がいかに正確なSVHC情報にアクセスできるか、及びそのために費やす必要がある努力に依存する。このことは、閾値の適用が部品であろうと複合成形品であろうと、大きな障害になるであろう。しかし、複合成形品に閾値を適用することは、会社にそれぞれのSVHC含有量を計算させることになる。そのような計算には、成形品中のSVHCの正確な濃度に関するのもっと詳細な情報もまた必要であるが、多くのサプライチェーンでは容易には入手することが出来ないであろう。

調和の取れた市場への干渉

 EUで製造叉は輸入された複合製品は、もしその制限が複合製品に適用されるなら、ある程度、異なる前提条件がある。EU域内で組み立てられる複合成形品の部品に含まれるSVHCに関する情報にアクセスすることは容易かもしれない。そのような情報はEU域内を巡回するであろうからである。このことはSVHCを代替することについて複合成形品の輸入者よりEU内の製造者の方に、より強い圧力となるかもしれない。

 事例研究に示されるように(例えばソファーやコンピュータ)、現在のECHAガイダンスの解釈は、もっと複雑な複合成形品より、異なる成形品(予備品)の供給者に異なる要求をもたらすであろう。域内市場におけるそのような干渉は、個別に販売されようと複合成形品に含まれようと関係なく、もし引き金となる閾値が全ての成形品に適用されるなら、減少するであろう。

SVHC情報の欠如はビジネス・リスクを引き起こすかもしれない

 第33条の条項とREACHの下の認可手順と関連を知ることは重要である。もし、会社が複合成形品の部品中のSVHCの存在について情報を与えられていないなら、もしそのSVHCしようが認可対象となったなら成形品の品質叉は組成を変更するための準備時間が少なくなるかもしれない。

実施のための努力は増大するかもしれない

 物質の使用に関する既存の制限は成形品の材料と部品に関係する。このことは、市場調査、特に実験室分析が実施されるときに役に立ってきた。そのような分析は均質な環境の中で特定の物質の濃度を決定する事が出来るだけである。

濃度限界が材料だけでなく、異なる材料からなる成形品にも適用される時には、全ての要素がチェックされなくてはならないので、この分析はもっと複雑になる。複合成形品がもっと複雑になれば、コンプライアンスをチェックするために、もっと多くのりソースが必要になるであろう。

 さらに、最終複合製品と、異なる材料叉は部品との間の正確な重量比は複合成形品全体で全体濃度が再計算される必要が在るであろう。このことは産業側内部のコンプライアンス・チェックとしての実施が問題になる可能性がある。


訳注1:北欧理事会
加盟国:アイスランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド
準加盟国:オーランド諸島、グリーンランド、フェロー諸島
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2:複合成形品
ここが知りたいREACH規則/J-Net21 の解説
訳注3:REACH 第33条
成形品に含まれる物質に関する情報伝達の義務
1. 第57 条の基準に適合し、かつ第59 条(1)に基づき特定される物質を重量比(w/w)0.1%を超える濃度で含む成形品のいかなる供給者も、供給者に利用可能ならば、成形品の安全な使用を認めるのに十分な情報(少なくとも物質名を含む。)を、成形品の受領者に対して提供しなければならない。

2. 第57 条の基準に適合し、かつ第59 条(1)に基づき特定される物質を重量比(w/w)0.1%を超える濃度で含む成形品のいかなる供給者も、消費者の求めに応じ、供給者に利用可能ならば、成形品の安全使用を認めるのに十分な情報(少なくとも物質名を含む。)を、消費者に提供しなければならない。
求めを受けてから45 日以内に、無料で関連する情報を提供しなければならない。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る