ChemSec 2015年6月9日
SEAC における社会経済的分析を改善する3つの方法

情報源:The International Chemical Secretariat (ChemSec) June 9, 2015
3 ways to improve the Socioeconomic Analysis in SEAC
http://chemsec.org/images/Chemsec_SEAC_150604.pdf
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年7月1日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/ChemSec/Report/150609_Socioeconomic_Analysis.html

 ChemSec は、ますます注目される SEAC(社会経済分析委員会)の意思決定プロセスの 3 つの領域が産業に利益を生み、同時に高懸念物質(SVHC)の代替に拍車をかけると考えている。その提案は、代替物質の製造者及び使用者、化学物質の革新、及び社会への経済的影響をもっと強調することを意味する。


1. 代替物質の製造者と使用者のために費用−便益分析をせよ
 認可する時に、経済的影響の全貌を得るために、申請者の費用だけでなく、それ以外の費用も見る必要がある。代替物製造者と使用者への経済的影響もまた考慮される必要がある。

投資の損失

 高懸念物質(SVHC)の代替の製造又は実施への会社の投資は、もし、まさにその高懸念物質(SVHC)が認可されてしまうことになれば、その利益は減少するであろう。期待したほどの販売は達成できず、またその代替物の需要は高まらないので、その価格は下がらないであろう。長期的には市場での代替物の利用可能性は低くなり、広範な使用は妨げられるであろう。革新は停滞し、高懸念物質(SVHC)の代替は進まないであろう。

一人の損失はもう一人の利得

 もしひとつの会社が認可を得られないために閉鎖を余儀なくされたら、ある代替物質製造会社はきっと市場占有率を高め、新たなプラントを建設し、もっと多くの人を雇うであろう。


BASF 社の DINCH 製造とアルケマ社の DEHP 製造(対比)
 2011年、BASF は、2013年までにルートヴィヒスハーフェンにある非フタル酸系可塑剤 Hexamoll DINCHR(ヘキサモールディンチ)の製造能力を倍増することを計画した。製造能力増大のために第二製造施設をルートヴィヒスハーフェンに建設した(訳注1)。この決定は、代替可塑剤の需要増大はもちろん、全ての分野での需要の増大に基づいてなされた。これは、2002年のHexamoll DINC 市場投入の成功以来、2度目の能力増強である。2007年に当初の製造能力 25,000トン/年が4倍の100,000トン/年に増強された[原注1]。

 2013年11月、アルケマ社は、医療用バッグ、チューブ、及びその他の用途のための塩ビ製造に利用される可塑剤の市場が非フタル酸系にシフトしたので、フランスのショニーにあるフタル酸系可塑剤製造施設を閉鎖した[原注2]。

訳注1:
BASF、非フタル酸系可塑剤HexamollR DINCHR(ヘキサモールディンチ)の生産能力を20万トンに倍増
原注1:
http://www.mrcplast.com/news-news_open-128860.html
原注2:
http://www.plasticstoday.com/articles/transition-non-phthalate-plasticizers-speeds-europe1114201301

代替物質の価格は需要の増大とともに下がる

 代替物質の価格は元の物質に比べてしばしば高いが、それは高い投資費用と初期の代替物質への低い需要のためである。しかし需要が高まるにつれて価格は安くなる傾向がある。歴史的に、元の物質を高懸念物質(SVHC)候補リスト及び認可リスト(訳注2)の両方に含めると代替物質の需要は大きく拡大する。

訳注2:参考
 ・REACH規則 SVHC候補物質リスト
 ・REACH Candidate List収載SVHC
 ・REACH 認可候補物質リスト
 ・REACH 認可物質リスト(付属書]W収載物質)


アップル社の製品中の臭素系難燃剤と塩ビ使用の廃止
 ”臭素系難燃剤と塩ビを使用しない製品の製造を開始して 2年経過するが、費用はこの製品の変更の前後で同じレベルである”−と、アップル社の環境技術統括アンディ・ベイネスは2009年11月のEU議会における Greening Consumer Electronics 会議で述べた[原注3]。

原注3:
http://www.chemsec.org/images/stories/publications/Downloads/
Summary_Greening_Consumer_Electronics_Conference_2.pdf



2. 革新の可能性を考慮せよ
 厳格な化学物質規制は会社の競争力を妨げるという一般的な先入観があるが、ドイツや北欧諸国のような厳格な規制を持つ国は革新に対する強い能力も有することが認められていることを歴史が示している。アメリカ持続可能ビジネス協議会(ASBC)及びグリーンケミストリー通商協議会(GC3)は2015年5月に報告書を発表し、より安全な化学物質の市場は、世界中で2011年から2020年の間に従来の化学物質の市場の成長の24倍となるであろうと推定した[原注4]。

原注4:
”Making the Business & Economic Case for Safer Chemistry Safer”, report commissioned by ASBC, the Green Chemistry & Commerce Council, developed by Trucost (05/2015)
http://asbcouncil.org/sites/default/files/asbcsaferchemicalsreportpresred.pdf


フタル酸エステル類のより安全な代替物質
 国際環境法センター(CIEL)は、より強い法律はより安全な化学物質を市場にもたらすことができるかどうかを精査した。彼らは、フタル酸エステル類のより厳格な法が初めて導入されて以来、同化学物質の代替物質の特許権の数は急激に増加していることを発見した。


有害なフタル酸エステル類を使用しない製品の特許取得数の増大
CIEL report ”Driving Innovation, How stronger laws help bring safer chemicals to market“, Feb 2013.
Phthalates_Phthalates.jpg(40228 byte)
spacer2x2.gif(809 byte)
1999年に始まったフタル酸エステル類の代替製品の特許取得数の急激な増加は、”非フタル酸エステル類”及び”フタル酸を含まない”製品の発明の特許数が示すように、より厳格な規則の採択と時を同じくしている。


3. 社会への経済的影響を考慮せよ
 REACH は、認可は社会経済的評価によって社会経済的便益がリスクに勝り、代替物質が利用可能ではないことが示された場合にのみ与えられなければならないと、述べている。

高懸念物質(SVHCs)の継続的な使用に関連する健康費用が含まれなくてはならない

 社会経済的便益を評価することを可能にするために、高懸念物質(SVHCs)の継続的な使用により影響される健康と環境コストもまた考慮されなくてはならない。

 ”最も有害な化学物質への私たちの暴露を制限することは、多くの経済的便益を生成するようなものである。高懸念物質(SVHCs)への暴露の健康費用は、より安全な代替物質の費用併せて考慮される必要があり、全ての社会経済的分析で比較検討される必要がある”。
spacer2x2.gif(809 byte)
レオナルド・トラサンデ(Leonardo Trasande)
ニューヨーク大学環境医学健康政策部門小児科准教授であり、最近の研究、”欧州連合における内分泌かく乱化学物質への暴露の推定される負荷と疾病コスト”の著者の一人

会社が製品の撤退を決意するのは、立法がその要因ではほとんどない

 スウェーデン化学物質機関は、化学物質を製造する会社に製品の撤退を駆り立てる要因を調査した。インタビューを受けた化学物質団体の代表者らは全て一般的に、投資又は撤退の決意に対する立法の役割りは、もしあったとしても非常に小さいと述べた。市場と株式へのアクセスが最も重要な要因であるように見える。二番目に重要な要因は製造コストの節約である[原注5]。

5. KEMI's report: The influence of legislation on the location of chemical industries, Feb 2013,
https://www.kemi.se/Documents/Publikationer/Trycksaker/PM/PM1-13.pdf

使用しないというシナリオが社会にとって望ましいかもしれないが、製造者にとってはそうではない

 もしプロセスが、ある化学物質を使用しないというシナリオに変われば、化学物質供給者らはそのビジネスを失うことになる。従ってそれは、代替も必要なくなるので産業にとって好ましくないに違いない。しかし社会にとっては、そしてこの物質のそれまでの使用者にとっては、この物質を使用しないことによりその費用を節約できるので、やはり望ましいことであろう。

 ある家具会社はケムセックに次のように述べた。ソファーの布地をもっと高密度に織った素材に変更した。この織物技術は非常に着火しにくい素材をもたらすので、その布地は化学的な難燃処理を施す必要がない。この会社は製造費用を節約し、消費者にはより健康的な製品を提供することができる。


まとめ
 認可申請を評価する時には、代替物質の製造者と使用者を疎んじることなく、社会への経済的影響をもっと広く考慮し、化学物質の革新にもっと強い注意を払うべきである。これら3つの分野は高い関心がもたれるべき分野なので、ケムセックは、SEACs(社会経済分析委員会)のプロセスはより強い結果をもたらし、最終的には高懸念物質(SVHC)の代替に導くであろうと信じる。

 REACH によれば、認可は、社会経済的評価によって社会経済的便益がリスクに勝り、代替物質が利用可能ではないことが示された場合にのみ与えられなければならない。従って:

  • 代替物質の実行可能性は申請者の展望を越えて調査されなくてはならず、代替物質製造者と使用者の意見は注意深く考慮されるべきである。

  • 高懸念物質(SVHC)の代替物質は市場の機会と化学物質産業の将来の成長をもたらすという事実が説明されることを確実にすべきである。

  • 代替物質の価格は需要が高まれば下がるということを考慮すべきである。



訳注:関連情報
ChemSec News, 09 June 2015 3 ways to improve the Socioeconomic Analysis in SEAC (概要)



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る