ChemSec News 2023年12月20日
代替計画はスタートとしては良いが、
それだけでは十分ではない

有害な化学物質の代替は ChemSec の DNA の一部である。
しかし、EU の新しい流行語(buzzword)コンセプトである代替計画は、万能の解決策ではない。
そしてさらに重要なことは、
厳格な化学物質規制に代わることは決してできないということである。


情報源:ChemSec News, December 20, 2023
Substitution plans are a good start - but they're not enough
Substitution of harmful chemicals is part of ChemSec's DNA.
But the EU's new buzzword concept Substitution Planning is
not a one-size-fits-all solution. And more importantly,
it will never be able to replace a strict chemicals regulation.

https://chemsec.org/substitution-plans-are-a-good-start-but-theyre-not-enough/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2024年1月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/ChemSec/News/231220_
ChemSec_Substitution_plans_are_a_good_start_but_they_are_not_enough.html

 代替計画(Substitution planning)。 どこからともなく、これら 2 つの単語(代替と計画)が EU のさまざまな文書で並べて表示されるようになった。 今、それらは EU で持ちきりである。
(訳注:バズワード(buzzword):いかにも専門的に聞こえるが、実は意味が不明確なまま世間で通用している言葉。デジタル大辞泉

 欧州委員会、特に DG Grow(訳注:域内市場・産業・宇宙・起業・中小企業総局のこと。所掌分野は域内市場における標準、産業振興、起業促進、中小企業支援など。 ジェトロ)はこのコンセプトを強力に推し進めているようだ。 規制の文脈でどのように使用できるかを調べるために、1年間にわたる研究も開始した。 欧州議会からも関心が寄せられているようで、EU代替センター(EU Substitution Centre)が企業を支援するパイロットプロジェクトに160万ユーロを助成した。

 しかし、代替計画が実際にどのようなものかを説明する前に、簡単に状況を説明しよう。REACH の A は適切に機能していない[訳注:認可手続きのことか?](The A in REACH does not function properly.)。 現在の認可手続きに満足している人は誰もいない。 これは欧州委員会だけでなく、企業、特に先頭に立つ企業や代替供給者にとっても頭の痛い問題だ。

これらの計画を前進させるインセンティブはどこから来るのであろうか?

 欧州委員会は(例えば三酸化クロムの事例のように)当局にかかる多大な負担を回避するために、免除を求める全ての企業からの認可申請に対処したくないと考えている(訳注:欧州委員会は、最終的に認可対象物質のリストから削除し、制限による規制を目指すとして、欧州化学品庁(ECHA)に六価クロム制限案の作成を要請 東京環境経営研究所)。

 欧州委員会は、現在設定されている認可手続きに対しある程度の強制力を持っている。 だからこそ、彼らは新しくてより良いシステムを求めている。 我々も皆、そうである。

 代替計画の背後にある考え方は、化学物質規制をより効率的にし、規制当局の負担を軽減することである。 DG Grow は、これを実現する方法として、業界の利害関係者自身が策定した業界全体の代替計画に基づいて制限の免除を提供することができるかどうかを検討している。

 これはかなりきちんとした計画のように聞こえるかもしれない。 しかし、これらの計画を進歩的なものにするインセンティブはどこから来るのであろうか? そして、規制当局は企業が代替計画を実際に遂行することを確認するためにどのような指揮棒を使うのであろうか?

 規制が代替計画を要求しているにもかかわらず、それを野心的にするための強力なインセンティブを与えておらず、計画を遵守しない企業に何の影響もないのであれば、規制当局にとって事務負担がさらに増えるだけになる可能性が非常に高い。

 誤解しないでいただきたい。我々はすべての代替作業を支持している。これは ChemSec にとって中核となる問題のひとつである。 代替計画を規制に組み込むことで実際に化学物質の代替を促進することができるかどうかはわからない。

欧州委員会は自らの方針を堅持し、有害物質の継続使用にノーと言うべきである

 我々の見解では、代替計画は企業が規制を遵守するために必要なものである。 そして、これらの計画は、物質が分類されるか、候補リストまたは SIN リストに掲載される時点で、すなわち非常に早い段階で策定されるべきである。 厳格な規制と組み合わされている限り、それらは素晴らしいものであるが、野心的な化学物質規制に代わる代替計画は決してあり得ない。

 欧州委員会の一部は、この代替計画の枠組みは他の方法ではあり得なかった規制上の結果への自然な流れであると主張している。 しかし、それは真実ではない。認可プロセスが意図したとおりに機能し、より安全な代替手段が利用可能になったときに免除の申請が却下されていれば、状況は異なっていたであろう。 それはより安全な代替品の市場を活性化し、有害な化学物質を段階的に廃止する強力なインセンティブを生み出し、先頭に立つ企業を促進するなどしたであろう。

 結局のところ、すべてはひとつのことに集約される。 欧州委員会はその方針を毅然として貫き、段階的廃止を決定した物質の継続使用にノーと言うべきである。

 代替計画は素晴らしい。 しかし、野心的な化学物質規制はもっと素晴らしい。


訳注:参考情報
Q626.EU REACH規則の認可と制限の違いについて(東京環境経営研究所


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る