国際化学物質事務局(ChemSec) 報告書
REACHでH&Mが得るビジネス利益
H&M(衣類、化粧品販売業)

情報源:The International Chemical Secretariat
http://www.chemsec.org/
Business benefits for H&M within REACH by H&M
http://www.chemsec.org/documents/What%20we%20need%20from%20REACH.pdf

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

掲載日:2005年3月11日
更新日:2005年8月31日

H&M(衣類、化粧品販売業)

 H&Mは衣類と化粧品を20か国、1,000以上の店で販売しており、従業員数は40,000人以上である。ドイツが我々の最大の市場であるが、H&Mは新たな市場開拓を続けており、2004年には140店を新たに開設した。2005年にはアイルランドとハンガリーが21、22番目の販売市場に加えられることになる。2003年の売上高は60億ユーロ(約8,400億円)を超える。

 REACHに関していえば、H&Mは”川下ユーザー”であり、”成形品の輸入者”である。我々は自社の製造施設を持たず、操業もしていないが、世界中の750社以上の供給者と常に取引があり、大きな購買力を持っている。我々が販売する製品の約40%はヨーロッパで、残りの60%は主にアジアで、製造されている。

危険な物質を繊維製品から排除すること

 衣料品の製造には、紡績、編み、洗浄、漂白、染色を経て、仕立てまで数多くの工程がある。使用される化学物質のいくつかを挙げれば、殺虫剤、保存剤、紡糸オイル、合成剤、洗剤、繊維軟化剤、担体、捺染糊、染料などがある。繊維産業は世界最大の産業のひとつであり、地理的にも工場の多様性の点からも拡大を続けている。製造拠点の多くはアジア、東ヨーロッパ、南アメリカにあり、繊維産業は全体的には化学物質多用の産業といえる。

 したがって、健康と環境への懸念が、消費者、NGO、当局、メディアによってしばしば向けられる。H&Mは、有害かもしれない化学物質が我々の商品の製造過程で使用されないようにするための努力をしている。我々は商品の品質を確保し改善するために多くのエネルギーを割いている。我々の品質に対する考えは、衣料品は環境的に危険な化学物質又は有害な物質を使用しないで製造されるべきであること、そしてよい職場環境で製造されるべきであること−である。

 予防原則の考えにより、我々は、人間又は環境に有害かもしれないと考えられる物質は早い段階で使用を止めるよう取り組んでいる。この取組みの中心のひとつは、”H&M 化学物質制限”に基づく活動である。これは、我々が許容できないと見なし、したがって我々の全ての購入対象から禁止又は厳しい制限をすることを決めた化学物質のリストである。このリストは、新たな物質を随時加えて頻繁に更新する”生きている”リストである。

REACHに関する我々の見解

 H&Mは、欧州委員会の白書で示されたように、REACHの原則を2001年からすでに適用している。すなわち、危険な物質をよりよい代替物に替えるよう積極的に求めている。我々は、供給者に対し、H&Mに売る製品はどのような制限物質をも含んでいないことを補償する保証書に署名するよう求めている。我々は、サプライ・チェーンを通じての情報へのアクセスは、繊維製造における危険な化学物質を削減するために非常に重要なツールであると考えている。

 しかし、この取組みにおいて、我々はまた、大きな問題に直面している。市場にある物質のほとんどの有毒性データが欠如しているということは深刻な問題である。我々は、効果的なREACHシステムが実施されれば、データのギャップは効果的にそして速やかに埋められると信じている。REACHはまたヨーロッパ市場での全ての関係者のために同じ義務と権利をもたらしつつ、もっと公平な活動の場を生み出す可能性を持っている。

 理想的に、REACHは、許容できない物質を特定する明確な基準を確立することによって、化学物質のリスクを排除するためのH&Mの活動を後押しすることになる。それは、我々の供給者が彼らの化学物質供給者から情報を引き出す能力を改善することになる。その結果、REACHは繊維産業の職業的危険性を低減し、消費者保護にもさらに資することになる。REACHがこれらの目標を支えるということはH&Mにとって重要である。

注意義務
−明確な製造者責任の必要性

 我々の供給者はその製造工程において膨大な量の化学物質を使用している。相当な量が衣料品中に残っており、それが我々の消費者に曝露を引き起こす可能性がある。そして工程中で使用された全ての化学物質は最終的には地球の生態系に蓄積する。H&Mはこれらの化学物質がどうなるのかということに対して完全な責任を負うことを期待されている。

 現在、H&Mは、”川上”の製造工程で使用されている化学物質を管理し監視するために金銭的に大きな負担がかかっている。我々は、REACHは製造者にその製品にもっと明確な責任を負わせるためのコスト効果のあるアプローチであると考える。この責任には、彼らが取り扱う物質と製品についての知識を我々が入手きることも含まれるべきである。供給者へのよく定義された”注意義務”要求がREACHに含まれるべきである。この注意義務には必要な知識が生成され、必要な措置がとられることを確実にする義務が含まれるべきである。

登録
−体系的なアプローチが重要である

 リスク管理のまさに基本は、どのような化学物質が(例えば繊維製品中に)存在するのか、そして、それらに曝露した労働者や消費者にどのような影響を与えるのかを知ることである。本質において、H&Mの危険な化学物質を削減する取組みは、我々が供給者及び政府から受け取ることのできるデータの量と質に依存している。今日、二つの大きな障害がある。
  • 製品中の化学物質の成分に関する情報、及び、製造に使用される化学物質に関連するプロセスに関する情報の欠如
  • 物質が有害な影響、例えば呼吸器系障害あるいは皮膚傷害を引き起こす場合の毒物学的データの欠如
 データが限定されているということは、体系的なアプローチではなく、我々の部分的な知識からしか要求を出すことができないということを意味する。その結果、我々は最悪の化学物質を廃止することに成功したのかどうか、確信をもって知ることができない。

 これは、環境の観点から持続可能といえる状況ではないだけでなく、我々のビジネスにとってもリスクがある。誰かが我々の商品中に新たな内分泌かく乱物質や発がん性物質を見出したら、たちまち我々のブランドに対する顧客の信頼は失われてしまう。そのような事態を避けるために、我々は全ての化学物質についての信頼性あるそして透明性のある基礎データを要求する。もし、供給者の情報に頼ることができないならば、我々はそれを我々自身でやらなくてはならない。

認可
−代替はコストの観点から疑問の余地のない唯一の指針である

 H&Mは、危険な物質を避けることによって、我々の顧客、従業員、その他関心を持つ団体からの期待に沿うよう取り組んでいる。我々はすでに臭素化難燃剤、有機スズ化合物、フタル酸化合物、そして塩ビ(PVC)を我々の衣料商品ラインから廃止し、より良い代替物を選択した。このことは、ファッションや品質と妥協することなく実現が可能であった。コストは一時的に増大したが、大量生産が開始されるや否や、価格は以前のレベルに戻った。何が許容できないのかについて明確な指針が設定されさえすれば、ほとんどどのようなことも可能である。

 REACHは、国際的に調和し認定されるべき”非常に高い懸念のある物質(Substances of Very High Concern (SVHC))”基準になるであろう。この基準は明らかに我々が代替物質を選定する時に役に立つ。それはまさに我々の”化学物質制限リスト”と同様な手法である。我々はそのような基準の早急な開発と指針の支援を促進する。我々は、REACHがよりよいものへの代替を求めることを原則とすることに期待する。H&Mは予防原則を適用してきたし、そのことは、我々が前向きに取り組んで、”川上”の問題を解決しなくてはならないということを意味している。最もコスト効果があり、唯一の適切な管理方法は代替であり、危険な化学物質を使い続けることではない。したがって、我々は、非常に有毒な化学物質は、たとえ、それらが”適切に管理”されても、使用が許可されるべきではないと感じる。

結論

 強いREACHは、我々のビジネス・リスクを最小にし、我々が顧客に提供する全ての製品は健康と環境に有害又は潜在的に有害な物質が含まれていないということを確実にすることで我々のコストを低減するので、H&Mのビジネスに利益をもたらすであろう。


化学物質問題市民研究会
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