国際化学物質事務局(ChemSec) 報告書
上流での対策
上下水道分野にとってのREACHの役割
EUREAU(欧州上下水道組合連合)

情報源:The International Chemical Secretariat
http://www.chemsec.org/
Working upstream
The role of REACH for the water and wastewater sector
by EUREAU, European Union of National Associations of Water Suppliers and Waste Water Services
http://www.chemsec.org/documents/What%20we%20need%20from%20REACH.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

掲載日:2005年3月23日
更新日:2005年8月31日

EUREAU(欧州上下水道組合連合)

 EUREAU(欧州上下水道組合連合)はヨーロッパの飲料水と廃水分野を代表する機関である。EUREAU(欧州上下水道組合連合)のメンバーは、日々欠かすことのできない上下水道のサービスをヨーロッパ市民4億人に提供している。我々は、事業展開、特に水供給と廃水処理の全ての局面において持続可能性を求めることを使命としている。したがって、EUREAU(欧州上下水道組合連合)は、”REACH”及び新たな”EU水枠組み指令”の中に示される持続可能性の展望を強く支持する。

 我々水分野は、ヨーロッパの水資源の持続可能性を強化するためにすでに大きく貢献しており、また我々は、水枠組み指令、焼却指令、及び、汚泥指令の改訂の、新たな要求を満たすために我々の果たす役割が大きいことを認識している。他の多くの関係者もまた、持続可能な環境をもたらすことに寄与すべき明確な責任を持っている。このことは、これらの指令やその他の指令の実施あたって目を向けるべき拡散した汚染について特に真実である。それは、農地及び都市の土地から流れ出る表面流去水を管理することに携わる人々の活動にも大きくかかっている。

 サービス産業又は家庭に提供される用役及び製品からの排出を議論する時に、物質をその発生源で管理することが必要であることは明らかである。都市と産業の全ての活動の”末端処理”としての廃水処理の考え方を改めることが必要である。廃水処理分野は現在、”上流での対策”と下水システムに入り込む可能性のある汚染物質を管理することに注目している。

 物質は、家庭廃水から、産業廃水から、あるいは単に都市の流去水から下水システムに入り込む。都市の廃水処理に関連して持続可能な水環境のために貢献できるようにするために、EUREAU(欧州上下水道組合連合)は下記原則の重要性を強調したい。
  • 廃水処理プラントと飲料水プラントの保護
  • 多重防護アプローチ
  • 汚染者支払いの原則
  • 全体のコスト効率
 水環境中の化学物質の管理に関するEUREAU(欧州上下水道組合連合)の課題
  • 産業と都市社会は、社会が受け入れることができ、廃水処理設備操業者が関連する指令を満たすことができるような”廃水”を、処理プラントに送り出すべきである。
  • 長期にわたって複雑な処理なしに地表水から飲料水を得ることが可能であるべきである。
 社会における、そしてまた水循環における問題物質を最小にするために、代替原則を適用する必要がある。欧州委員会の提案するREACH化学物質政策は代替原則の実施において間違いなく重要な役割を果たす。

我々の"上流アプローチ"原則

−廃水処理プラントの保護
 公衆の健康と環境を守るために、プラントの効率又はプラントの作業者の健康を危うくすることなく、何が都市の廃水処理プラントで受け入れられるのかについての議論を展開することが必要である。

 廃水処理プラントはある化学物質に対しては敏感であり、それらの物質が入り込むことを防ぐ必要がある。処理プラントが故障すると、プラントの生物的プロセスが回復するまでにかなりの期間を要するので、処理した水に長期間にわたる汚染をもたらす危険性がある。

 廃水処理プラントが処理水及び処理汚泥の品質を維持し改善することを可能とするために、直接、あるいは家庭に売られる製品を通じて間接的に下水に排出される化学物質を製造している会社は、廃水処理を行った結果、あるいは廃水処理中の物質の挙動に関する情報を提供することを義務付けられるべきである。そして、もっと重要なことは、製品は最大限度まで、好気性及び嫌気性の条件下で分解性がある成分であるべきである。

−多重防護安全アプローチ
 廃水処理プラントは、最初の管理ポイントではなく、最後の管理ポイントであると見なされるべきである。廃水処理プラントは都市及び産業の全ての活動に対する”末端処理”であるという見方に変える必要がある。水環境の保護を確実にするために、廃水処理プラントは最後の砦であるので”多重防護アプローチ”をとる必要がある。また、産業及び公衆に対し、処理不可能または容易には処理できない汚染物質が都市社会から下水システムに入り込まないよう処理設備を保護する必要があることを知ってもらう必要がある。

−汚染者支払いの原則
 汚染者支払い原則は、可能ならば、汚染物質を下水に排出する汚染者(顧客)が支払う使用料金に反映されるべきである。汚染者は、汚染料金を支払って排出するのか、汚染物質の代替物を選ぶのか、自分で廃水を処理するのか−どれが経済的であるのかよく考えなくてはならない。

−全体的コスト効率
 廃水処理プラントは、生物的に分解可能な有機物質、窒素、リン、浮遊固形物を除去するよう設計されているが、広範なその他の物質を除去するようには設計されていない。濃度が低い化合物を除去することは非常に難しく、たとえ可能であっとしても、非常に高価でエネルギーを消費する選択となるであろう。
 化学的にも生物学的にも良好な水環境を目指すEUの”水枠組み指令”の現在及び将来の要求は、廃水処理プラントは都市社会が排出する問題物質の多くを処理することはできないので、上流側の対策を強化することが必要である。

REACHの特定項目

注意義務
 EUREAU(欧州上下水道組合連合)は注意義務の原則を支持する。飲料水の取水と都市の廃水処理に関し、持続可能な水環境を作るために、都市の水系に排出される化学物質の使用は長期的に持続可能である必要がある。産業、公共事業、及び家庭における化学物質の持続可能な使用。注意義務の一般原則は、下記の項目で議論される−例えば、情報交換、データへのアクセス、代替原則などーように、REACH文書に必要であろう。

登録と評価
 プラント操業者が処理廃水と処理汚泥の品質を維持し向上することを可能とするために、そして飲料水会社が複雑な処理設備なしに飲料水を製造することを可能とするために、直接、あるいは家庭に売られる製品を通じて間接的に下水に排出される化学物質を出している会社は、廃水処理を行った結果あるいは廃水処理中の挙動に関する情報を提供することを義務付けられるべきである。

 既存の知識の情報交換と物質の分解性に関するデータの公開が、産業側と、廃水処理及び飲料水製造の操業者に必要である。さらに、廃水処理の効率と処理プラントにおける物質の処理結果に関する知識の開発が必要である。

 飲料水用に取り込まれる取水、又は都市の処理設備に産業や家庭から出される物質や製品は、可能な限り最大限、好気性及び嫌気性の条件下で容易に分解する成分であるべきである。

 飲料水及び廃水処理プラントの操業者の観点から、物質及び成形品に関する下記の情報が重要である。
  • 化学物質のリスク評価は、実際の条件下での廃水処理効率、及び飲料水製造プロセスの簡単な処理での除去効率を考慮すべきである。
  • 最終的な生物分解性のテストが、好気性及び嫌気性の両方の条件下で行われる必要がある。
  • 標準機関、産業、及び飲料水廃水設備操業者が同じ分析ツールを用いて汚染物質を監視する取り組みがなされなくてはならない。
成形品中の物質
 EUREAU(欧州上下水道組合連合)は、飲料水操業者と都市の水系の最下流である廃水処理プラントの操業者を代表している。都市の水系の操業者として、処理されるべき水に含まれる問題ある一つの物質が、たとえ単一の物質に由来しても、あるいはもっと複雑な成形品に由来しても、あまり重要なことではない。

 異なる物質の複雑な”カクテル”混合物を含む成形品は、処理プラントの微生物の”カクテル”混合物に対する感受性のために、、特別の注意を払う必要があるかもしれない。したがって、EUREAU(欧州上下水道組合連合)にとっては、REACHシステムが、物質だけでなく、例えば、CMR(発がん性・変異原性・生殖毒性), vPvB (高難分解性・高蓄積性物質)及び PBT(難分解性・蓄積性・有毒性物質)であるような成形品中の物質にも適用されることが重要である。

認可
 社会おいて、したがって水循環において、問題ある物質の使用を最小にするために、いくつかの道具を用いる必要がある。それらの一つが製品代替原則である。REACHシステムの基となった”化学物質戦略に関する白書”は、そのような原則の実施において、確かに重要な役割を果たすであろう。

 しかし、より危険性の少ない物質の開発プロセスをREACHシステムがもっと支援できるように、そして問題ある物質を代替できるようにするために、認可プロセスにおいては2つの点が明確に指摘されなくてはならない。
  • 期限付きで物質を認可することができることの必要性
  • より安全な代替物が存在するなら、認可は与えられないか、与えられても期限付きとすること
制限
 REACHシステムの制限手順と下記項目との間には、明瞭化が必要な多くの重要な関連事項がある。
  • 統合汚染防止管理(IPPC)の水枠組み指令 (WFD)中の排出制限値/環境品質基準(ELV/EQS)
    訳注:IPPC指令(Council Directive 96/61/EC of 24 September 1996 concerning integrated pollution prevention and control)
  • 水枠組み指令 (WFD)7.3条 飲料水処理のレベル低下の可能性
  • 都市廃水処理指令11条、補遺1C 処理プラントの保護
結論
 飲料水取水と都市廃水処理に関して持続可能な水環境を作り出すことを可能とするために、都市の水系に排出される化学物質の持続可能な使用が長期にわたって必要となるであろう。産業及び公衆に対し、処理不可能、または容易には処理できない汚染物質が都市社会から下水システムに入り込まないよう処理設備を保護する必要があることを知ってもらう必要がある。

 廃水処理プラントは都市及び産業の全ての活動に対する”末端処理”であるという見方に変える必要がある。サービス産業又は家庭に提供される用役及び製品からの排出を議論する時に、物質をその源で管理することが必要であることは明らかである。


  • EUREAU(欧州上下水道組合連合)は注意義務の原則を支持する。
  • 既存の知識の情報交換と物質の分解性に関するデータの公開が、産業側と、廃水処理及び飲料水製造の操業者との間に必要である。
  • EUREAU(欧州上下水道組合連合)にとっては、REACHシステムが、物質だけでなく、成形品中の物質にも適用されることが重要である。
  • 認可プロセスにおいては2つの点が明確に指摘されなくてはならない。
    • 期限付きで物質を認可することができることの必要性
    • より安全な代替物が存在するなら、認可は与えられないか、与えられても期限付きであること


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