欧州委員会 プレスリリース 2020年10月14日
グリーンディール:
欧州委員会 有害物質のない環境に向けて
新たな化学物質戦略を導入


情報源:European Commission, Press release, 14 October 2020
Green Deal: Commission adopts new Chemicals Strategy
towards a toxic-free environment
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1839

訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年10月21日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/EC/201014_Green_Deal_
Commission_adopts_new_Chemicals_Strategy_towards_a_toxic-free_environment.html


 本日、欧州委員会は持続可能性のための EU 化学物質戦略(EU Chemicals Strategy for Sustainability)を導入した。この戦略は、欧州グリーンディール(European Green Deal)(訳注1)で発表された有害物質のない環境に対するゼロ汚染の野心に向けた第一歩である。この戦略は、安全で持続可能な化学物質の革新を後押しし、危険な化学物質から人間の健康と環境の保護を強化するであろう。これには、社会に不可欠であることが証明されない限り、おもちゃ、育児用品、化粧品、洗剤、食品接触材料、繊維などの消費者製品中で最も有害な化学物質の使用を禁止し、すべての化学物質がより安全で持続可能な方法で使用されるようにすることが含まれる。

 化学物質戦略は、人間の幸福とヨーロッパの経済と社会のグリーン化およびデジタル化への移行のための化学物質の基本的な役割を完全に認識している。同時に、最も有害な化学物質によって引き起こされる健康と環境の課題に取り組む緊急の必要性を認めている。この精神に基づき、この戦略は、化学物質を設計により安全かつ持続可能なものにし、化学物質が地球や現在および将来の世代に害を及ぼすことなく、全ての利益をもたらすことができるようにするための具体的な行動を示している。これには、人間の健康と環境に最も有害な化学物質が、特に消費者製品や最も脆弱なグループに関して、不可欠ではない社会的使用が回避されることを確実にするだけでなく、すべての化学物質がより安全かつ持続可能な方法で使用されることを保証することも含まれる。この移行を通じて化学産業に伴ういくつかの革新と投資行動が予見される。この戦略はまた、化学部門を含む EU産業のグリーン化およびデジタル化への移行に投資するための復興・回復ファシリティー(Recovery and Resilience Facility)(訳注2)の可能性に加盟国の注意を引き付けている。

健康と環境の保護を増大する

 この戦略は、脆弱な人口集団に特に注意を払いながら、有害な化学物質からの人間の健康と環境の保護を大幅に強化することを目的としている。主要な取り組みには、特に次のものが含まれる。
  • おもちゃ、保育用品、化粧品、洗剤、食品接触材料、繊維などの消費者製品中の有害な物質、特に内分泌かく乱物質、免疫および呼吸器系に影響を与える化学物質、及びパー及びポリ−フルオロアルキル物質(PFAS)の様な残留性物質は、その使用が社会にとって不可欠であることが証明されていない限り、段階的に廃止すること。
  • 全ての製品に含まれる懸念物質を可能な限り最小限に抑え、代替すること。脆弱な人々に影響を与える製品カテゴリーと循環経済の可能性が最も高い製品カテゴリーを優先すること。
  • 様々な汚染源からの化学物質の広範な混合物への日々の暴露によって人間の健康と環境にもたらされるリスクをよりよく考慮して、化学物質の複合効果(カクテル効果)に対処すること。
  • 持続可能な製品政策イニシアチブ(Sustainable Product Policy Initiative)(訳注3)の文脈で情報要件を導入することにより、生産者と消費者が化学物質の含有量と安全な使用に関する情報にアクセスできるようにすること。
革新を促進し、EU の競争力を高める

 化学物質をより安全で持続可能なものにすることは、継続的に必要なことであり、大きな経済的機会でもある。 この戦略は、この機会を捉え、化学産業分野とその価値の連鎖(バリューチェーン)のグリーン化移行を可能にすることを目的としている。 可能な限り、新しい化学物質と材料は、設計上、つまり製造から寿命まで、安全で持続可能でなければならない。 これにより、化学物質の最も有害な影響を回避し、気候、資源の使用、生態系、生物多様性への影響を最小限に抑えることができる。この戦略は、EU産業を安全で持続可能な化学物質の生産と使用において世界的に競争力のある活動主体を想定している。戦略で発表された行動は、そのような化学物質が EU 市場の標準となり、世界中のベンチマークとなるように、産業革新を支援するであろう。これは主に次の方法で行われる。
  • 設計による安全で持続可能な基準を開発し、安全で持続可能な化学物質の商業化と取り込みに対する財政的支援を確保すること。
  • EUの資金提供と投資手段、および官民パートナーシップを通じて、安全で持続可能な設計による物質、材料、製品の開発と取り込みを確保すること。
  • 国境と単一市場の両方で EU 規則の施行を大幅に強化すること。
  • 化学物質の影響に関する知識のギャップを埋め、革新を促進し、動物実験を回避するために、化学物質に関する EUの研究と革新の議題を制定すること。
  • EUの法的枠組みの簡素化と統合−いくつか例を挙げると、”1物質、1評価”原則(one substance one assessment)”プロセスを導入し(訳注4)、”データなければ上市なし(no data, no market)”の原則を強化し、REACH 及び部門別の法律に的を絞った修正を導入すること。
 欧州委員会はまた、特に模範を示し、EUで禁止されている有害物質が輸出用に生産されないことを目的とした首尾一貫したアプローチを推進することにより、安全性と持続可能性の基準を世界的にに推進するであろう。

 欧州グリーンディールの上級副委員長であるフランス・ティメルマンスは次のように述べた。”化学物質戦略は、欧州のゼロ汚染の野心に向けた第一歩である。化学物質は私たちの日常生活の一部であり、経済を緑化するための革新的な解決を開発することを可能にする。しかし、人間の健康や環境に害を及ぼさない方法で化学物質が製造され、使用されていることを確認する必要がある。おもちゃや育児用品から、食品と接触する繊維や素材まで、消費者製品に最も有害な化学物質の使用をやめることが特に重要である”。

 環境・海洋・水産委員会のミンダウガス・シンケビチュウスは、次のように述べた。”私たちは、過去100年間に人々が発明した多くの有用な化学物質に、私たちの幸福と高い生活水準を負っている。 しかし、有害化学物質が環境や健康に与える害に目をつぶることはできない。 私たちは EUで化学物質を規制する長い道のりを歩んできた。そしてこの戦略では、私たちの成果をさらに発展させ、最も危険な化学物質が環境や身体に侵入し、特に最も弱く脆弱な人々に影響を与えるのを防ぎたいと考えている”。

 健康と食品安全担当のステラ・キリヤキデスは、次のように述べてた。”私たちの健康は常に最優先されるべきである。それはまさに、化学物質戦略などの欧州委員会の主要な取り組みで確保したことである。化学物質は私たちの社会にとって不可欠であり、安全で持続可能な方法で生産されなければならない。しかし、私たちは周囲の有害な化学物質から保護される必要がある。この戦略は、EU全体で市民の健康を保護するという私たちの高いレベルの約束と決意を示している”。

背景

 2018年、ヨーロッパは化学物質の2番目に大きな生産国であった(売上高の16.9%を占めていた)。化学製造業は EUで4番目に大きな産業であり、約120万人を直接雇用している。生産された化学物質の59%は、健康、建設、自動車、電子機器、繊維産業を含む他の分野に直接供給されている。世界の化学物質の生産は 2030年までに倍増すると予想されており、既に広く普及している化学物質の使用も消費財を含めて増加しそうである。

 EU には洗練された化学物質法があり、世界で最も先進的な化学物質に関する知識ベースを生み出し、化学物質のリスクと有害性の評価を実施するための科学機関を設立している。 EUはまた、発がん性物質のような特定の有害化学物質に対する人々と環境へのリスクを減らすことに成功している。

 それでも、最新の科学的知識と市民の懸念を考慮に入れるために、EUの化学物質政策をさらに強化する必要がある。多くの化学物質は、将来の世代を含め、環境と人間の健康に害を及ぼす可能性がある。それらは生態系を干渉し、ワクチンに反応する人間の回復力と能力を弱める可能性がある。 EUでの人間のバイオモニタリング研究は、特定の農薬、殺生物剤、医薬品、重金属、可塑剤、難燃剤など、人間の血液や体組織に含まれるさまざまな有害化学物質の数が増えていることを示している。いくつかの化学物質への出生前複合暴露は、胎児の成長の低下と出生率の低下をもたらした。

更なる情報


訳注1:欧州グリーンディール
訳注2:復興・回復ファシリティー
訳注3:持続可能製品の政策イニシアティブ
訳注4:”1物質、1評価”原則(one substance one assessment)
  • Chemicals Strategy for Sustainability Towards a Toxic-Free Environment (EC, 14.10.2020) ...'One substance, one assessment' will ensure that the initiation and priority setting of the safety assessments are done in a coordinated, transparent and to the extent possible synchronised manner taking into account the specificities of each sector. When an assessmentis proposed under one piece of legislation, full account shall be taken of the planning under other pieces of legislation, so that coordinated action is ensured...

  • Hansen outlines EU cross-agency 'one substance - one assessment' plan (Chemicak Watch 05 June 2020)
    Echa executive director Bjorn Hansen has proposed ways in which EU agencies can collaborate to ensure that any given chemical is assessed only once, easing the pressure on companies trying to keep on top of developments under separate regulations. Until now, multiple agencies have assessed the same chemicals via different legislation....

  • EU Sustainability Strategy for Chemicals Is Coming Based on the Indispensable Principle of “One Substance, One Assessment”(KET Blog En, 23. JUNE 2020)
    ...「1つの物質、1つの評価」の原則の関連性:EUの別の科学機関の機関が物質を評価した場合、その評価は他のすべての機関の基盤となるべきである。このアプローチは、重複する研究を回避し、ヨーロッパの化学法の調和を加速する...

  • (注意)REACH には”1物質、1登録”原則(One Substance, One Registration; OSOR)もあるが、1物質、1評価”原則とは別物である。 (REACH規則と欧州既存商業化学物質リスト(EINECS)
     One Substance, One Registration、企業間で情報を共有することが義務付けられている。これにより、コストを削減し、不必要な動物実験を防止する。



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