IPEN 2012年
有害物質のない未来のための
NGO/CSO 世界共同宣言

日本語PDF版)|(オリジナル英文PDF版

情報源:NGO/CSO Global Common Statement for a Toxics-Free Future
http://www.ipen.org/campaigns/toxics-free-rio20/common-statement

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年5月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/NGOs/IPEN_Toxics_Free_Future_2012.html

略語(訳注):NGO:非政府組織、CSO:市民社会組織、IPEN:国際POPs廃絶ネットワーク(世界の700団体以上の化学物質関連NGOが構成する連合体)、POPs:残留性雄樹汚染物質

 有害物質のない未来のための NGO/CSO 世界共同宣言は、環境、我々の食品、地域社会、そして子どもたちの体内の有害化学物質が増大していることについて意識を高めるために起草された。この声明の賛同者は、1992年リオ地球サミットでなされた約束を忘れていない。しかし、20年後の現在、リオ+20は、これらの権利を確実にするための何ものをも、ほとんど、あるいは全く、もたらしていない。今日、我々は世界中の政府に対し、公衆を守り、全ての人々に安全の権利を確保し、有害物質の脅威がない地域社会と職場にするよう、行動することを求める。

 そして我々は、世界中の全ての市民社会組織がこの共同声明を支持し、全ての人々のために有害物質のない未来を求めて連帯し、我々に加わり、一緒に活動するよう要請する。

 IPEN のホームページhttp://www.ipen.org/もご覧ください。


有害物質のない未来のための
NGO/CSO 世界共同宣言


 我々、市民社会組織である(組織名   )は、有害で危険な化学物質が危害をもたらすことは最早なく、人々は体や環境を損なうことのない健康で持続可能なグリーンな生活を享受する権利を持つことができる有害物質のない未来を求める世界のキャンペーンに参加する。グリーンな生活は、安全への権利を確実なものにし、人々、周囲の環境、そして未来の世代にとって有害物質の脅威がない地域社会と職場をもたらす。これが我々が世界と子どもたちのために望む持続可能な未来である。

 我々はさらに、有害化学物質に対する子どもたちの脆弱性を認めつつ、世代間の平等と全ての子どもたちの安全な環境への権利の保護に対する我々の義務を確認する。

 我々は、世界経済を支配する消費、生産、資源利用、及び廃棄処分における持続可能ではない様式を抜本的に変える必要があることを認める。我々はさらに、化学物質の設計、使用、及び廃棄を含んで、”社会が化学物質を管理する仕方を根本的に変える必要がある[i]ことを認める。我々は、人の健康と環境に及ぼす影響について、特に、内分泌かく乱、エピジェネティックス[1]、現在起きている低用量曝露、そして複合化学物質の影響など、毒性学の中心的な教義に挑戦するような新らたに懸念が出現している領域で、現在製造され使用されている農薬や産業化学物質の多くがまだ適切にテストされていないことを特筆する。

 さらに我々は、がん、心臓疾患、生殖及び発達障害、ぜん息、自閉症、糖尿病、退行性疾病、及び精神疾患などの病気が、大気、水、土壌、食物の汚染[ii]、そして有害な消費者製品や廃棄物に関連していることを示していることを認める。

 人々のグリーンな生活への権利と持続可能な未来は、職場や学校、農業地域、そして家庭における有害化学物質への曝露により脅かされており、このことは、がんや出生障害、発達障害、免疫系への有害影響、神経障害、代謝障害のような深刻で取り返しのつかないダメージを引き起こすかもしれないということを我々は強調する。残留性及び生物蓄積性の化学物質は、曝露後長期間、体内に留まり、胎内や母乳を通じて母親から赤ちゃんに伝わり、さらに血流関門を通じて子どもの中枢神経系やその発達に影響を及ぼす可能性があることを我々は強調する。

 我々は、2009年 SAICM NGO 世界声明、及び持続可能な開発に関する世界サミットの2020年目標を支持し、”汚染のない世界で生活することは基本的な人権であること”、及び”生きるための基本的な権利が有害化学物質、危険な廃棄物、そして汚染された飲料水や食物への曝露により脅かされていること[iii]を確認する。

 ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)と一致した、もっと必要とされる化学物質政策の改革を含む化学物質の適切な管理が、”貧困と疾病の撲滅、人の健康と環境の改善、及びどのような開発レベルの国においても生活基準の向上とその維持を含む持続可能な開発を達成するために本質的に重要であること[iv]を我々は確認する。

 我々は、化学物質の安全性に関連する規制の政策決定に、全ての分野の市民社会、特に女性、労働者、先住民の人々による自由で事前の情報に基づく同意に対する権利を含んで、意味のある積極的な参加をすることが本質的に重要であることを強調し、”人の健康と環境に及ぼすリスクを含んで、全ライフサイクルにわたる化学物質の情報と知識を得ること[v]が緊急に必要であることを認める。

 我々は、化学産業が3,000,000,000,000(3兆)ドル以上の年間売り上げを有して世界経済に重要な役割を演じていることを認める。我々は、世界の化学物質生産がそれらの操業を管理し規制する能力が限られ、人の健康と環境へのリスクを軽減するための順守メカニズムがない発展途上国及び移行経済国にますます移転しつつあるという懸念をもって留意している。

 我々は、ほとんど全ての国が、消費者製品に含まれる有害物質やナノ物質を含んで、合成農薬や産業化学物質の使用を増大させていることに留意する。さらに、ほとんどの国、特に途上国や移行経済国は、農薬や産業化学物質、さらにはその後の廃棄物の適切な管理を確実にするための適切な基盤や資力を持っていない。このことは特に、増大する電子廃棄物;採鉱や石油・ガス採掘による固体及び液体廃棄物、古くなった農薬とその容器、そして広大な有害産業廃棄物投棄場−我々の過去の有害な遺産−について言える。

 そして、我々は、化学物質についての対策を行なわないことによるコストは完全には定量化することはできないが、莫大な金額であることを認める。我々は、産業化学物質と農薬及び急性化学物質中毒による死亡は年間120億人であり、世界の疾病の1.7%を占めるという世界保健機関の控え目な見積りに留意する。これらの死亡と疾病が個人、地域社会、及び国家(特に貧しく脆弱な人々)にもたらされる著しいコストが化学物質製造者によって負担されたり、製造・供給チェーンによって分担されることはない。それどころか、彼等は途上国及び移行経済国に許容できない負担をかけている。

 このような状況において、我々は:
  • 有害化学物質によって影響を受ける労働者、女性と子ども、先住民の人々、小作農民、消費者と地域社会の健康な環境、労働者保護、知る権利、公平な補償、医療、及び環境正義のための権利の執行を求める要求と闘いを支援する。

  • 我々や子どもたちの体内に蓄積する有害化学物質の上昇傾向は次世代及びそれ以降の世代の健康と持続可能性を脅かしているが、我々の組織がそのことを抑制することを約束する。

  • 我々の有害物質のない未来という使命を支える予防、知る権利、ノーデータ・ノーマーケット、有害物質の代替と廃絶、汚染者支払い、そして拡大生産者責任などの諸原則に深くかかわる。

  • 持続可能な未来を達成するために、労働者、先住民の人々、地域社会の健康と環境の保護が利益の犠牲とならないような化学産業の根本的な変質が重要であることを認める。

  • 持続可能で責任のある化学産業は、全ての汚染を廃絶するという目標を持ち、ライフサイクルを通じての真の製品コストを支払わなければならないということを強調する。真に環境的価値を反映するコストの内部化メカニズムと財政的改革が、このことに役立ち、適切な化学物質の管理、評価、監視、及び実践の開発のために必要な資力を供給することに役に立つ。

  • 持続可能ではない化学物質の生産を廃止し促進するために;グリーンな設計とグリーンな化学物質を支持するために;ライフサイクル・アプローチを用いて市場に投入される前に全ての新たな技術を完全に評価するために;そして不公平な健康的、環境的、及び経済的負担から発展途上国及び移行経済国を守るために、持続可能な化学会社に投資することを促進する明確な基準と政策を支持する。

  • 誰でもが安全で、栄養のある食物を得ることができる持続可能な未来を達成するために、農業を生物多様性ベースの環境的農業に大きく転換することが重要であることを認める。

  • 規制されていない有害な製品成分により世界の消費者がさらされている脅威について留意しつつ、我々は、有害化学物質が消費者製品やそれに引き続く廃棄物中に入り込まないようにするために、グリーン購入政策はもちろん、製品設計に対して予防的アプローチ、揺りかごから揺りかごアプローチ(cradle to cradle:(訳注1))、そしてライフサイクル・アプローチを、できることなら第三者認定をもって実施することを支持し促進するとともに、製品中及び職場における有害物質の義務的な表示を行なうことで全ての人々と環境の保護を確実にすることを要求する。

  • サプライ・チェーン及び公衆のすみずみまで完全な化学的及び物質的な透明性と情報アクセスが行き渡ることを支持する。

  • 非常に有害な農薬、残留性・生物蓄積性・有毒性物質(PBTs)、高残留性・高生物蓄積性物質(vPvBs)、遺伝毒性物質、発がん性物質、生殖系、免疫系、及び神経系に影響を及ぼす物質、内分泌かく乱物質、長距離移動する物質、有害で管理できない化学物質、水銀、カドミウム、鉛のような有毒金属、そして有害なナノ物質などの、有害で管理できない化学物質の世界的な廃止を達成するために活動する。世界的な廃止は、禁止及び制限された化学物質がひとつの国から他の国へ、特に化学物質の適切な管理を実施するための能力を持っていないような国に、売られ又は投棄されることを防止するために、本質的に重要である。

  • 全ての人々のための有害物質のない未来を達成できるよう、国際的に、地域的に、そして国内で、化学物質の評価、規制、及び管理を緊急に改善し調和させるために、我々自身がその実施を約束し、政府、非政府組織、ビジネス、民間機関、学界、政府間組織、メディア、その他を含む全ての利害関係者が一緒に活動するよう要求する。我々は、最上位の政治レベルで SAICM への約束を再確認することを要求し、政府と利害関係者が SAICM 実施、及び化学物質及び廃棄物の多国間協定の実施への財政的支援を根本的に増額するよう強く促す。


 原注
[1] Epigenetics is the study of heritable alterations in gene expression caused by mechanisms other than changes in DNA sequence. An epigenetic trait is a stably inherited phenotype resulting from changes in a chromosome without alterations in the DNA sequence. www.sciencedaily.com/releases/2009/04/090401181447.htm

[i] Para 7 Dubai Declaration on International Chemicals Management, Strategic Approach to International Chemicals Management Dubai, 2006 http://www.saicm.org

[ii] WHO Media Release ‘Almost a quarter of all disease caused by environmental exposure’ 16 JUNE 2006 | GENEVA Available at http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2006/pr32/en/index.html

[iii] Press Release, 27 Apr 2001 ‘Living In A Pollution-free World A Basic Human Right’ Available at http://www.grida.no/news/press/2150.aspx

[iv] Para 1 Dubai Declaration

[v] Para 21 Dubai Declaration

[vi] A. Pruess-Ustun, C. Vickers, P. Haefliger, and R. Bertollini, “Knowns and Unknowns on the Burden of Disease due to Chemicals: A Systematic Review”, Environmental Health, 10: 9, 2011.


訳注1:揺りかごから揺りかごアプローチ
これからのデザインスタンダードは「ゆりかごからゆりかごまで」/ Greenz.jp
 プロダクトにとっての墓場が廃棄所だとすると、役割を終えたものを墓場に運ぶことなく、再び製造現場(ゆりかご)に戻していくことを可能にするのが、「Cradle-to-Cradle」が目指しているところ。徹底したリサイクル・リユースの思想に加えて、そのプロセスの中で人体や環境に有害な物質を出さない、ということも重要な基準になっている。・・・(Greenz.jp から)




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