The Conversation 2022年6月17日
何十年にもわたる研究が、BPA の健康への有害な影響を報告している
環境汚染と母体の健康に関する専門家が、それが何を意味するのかを説明する

トレーシー・ウッドラフ
カリフォルニア大学サンフランシスコ校環境衛生学教授
情報源: The Conversation June 17 2022
Decades of research document the detrimental health effects of BPA -
an expert on environmental pollution and maternal health
explains what it all means

By Tracey Woodruff, Professor of Environmental Health, University of California, San Francisco
https://theconversation.com/decades-of-research-document-the-detrimental-health-effects-of-bpa-
an-expert-on-environmental-pollution-and-maternal-health-explains-what-it-all-means-184630


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年8月1日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/220617_The_Conversation_
Decades_of_esearch_document_the_detrimental_health_effects_of_BPA.html



 BPA としてよく知られている化学物質ビスフェノール A について聞いたことがあるかどうかに関係なく、研究によるとそれはほぼ確実に体内に存在することが示されている。 BPA は、ペットボトル、哺乳瓶、おもちゃ、缶の裏地を含む食品包装などの製品の製造に使用されている。

 BPA は、日常の製品に含まれる多くの有害な化学物質のひとつであり、プラスチックに含まれる化学物質の典型(ポスター・チャイルド)である。 Safer Chemicals, Healthy Families や Breast Cancer Prevention Partners などの組織によるキャンペーンにより、哺乳瓶に含まれていることでおそらく最もよく知られている。

 広範な研究により、BPA は子宮内膜症不妊症糖尿病喘息肥満胎児の神経発達障害などの生殖に関する健康問題と関連付けられている。

 環境および公衆の健康の擁護者らからの何年にもわたる圧力の後、米国食品医薬品局(FDA)は 2022 年 6月に BPA の健康リスクを再評価することに同意した。 BPA が製品や容器包装から食品や飲料に、そして最終的には私たちの体に浸出することが膨大な数の研究で実証されているため、これは重要である。

BPAとは何か?

 BPA は、プラスチックや食品や飲料の容器だけでなく、ピザの箱、買い物のレシート、アルミ缶のライナーなどにも使用されている。科学者らは、BPA が内分泌かく乱物質であることを発見した。これは、体の機能と健康を維持するホルモン系を乱すことを意味する。

 ホルモンのかく乱は、妊娠中および胎児の発育中に特に問題となる。わずかな変化でさえ、脳や代謝の発達を含む発達過程の軌跡を変える可能性がある。

 過去 20 年間、リスクに対する一般の意識が高まり、多くの企業が製品から BPA を除去するようになった。その結果、米国では人々の体内の BPA レベルが低下しているように見えることが研究によって示されている。しかし、国立 NIH コンソーシアムの一部として私が支援した全国的な研究チームは、妊娠中の女性を対象とした最近の研究で、BPA の低下は BPA 代替化学物質が過去 12 年間で増加しているという事実によって部分的に説明できることを示した。また、他の研究では、多くの BPA 代替品は通常、元のBPA と同じくらい有害であることを発見している。。

 環境健康科学者であり、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の生殖健康と環境に関するプログラム(Program on Reproductive Health and the Environment)の教授兼ディレクターとして、有害化学物質が妊娠と子どもの発育にどのように影響するかを専門としている私は、化学物質が生殖毒性又は発達毒性であるかどうかを決定するカリフォルニア州の科学委員会の一員である。2015 年に、この委員会は、BPA が卵巣に対して毒性があることが示されていたために、BPA は生殖毒性物質であると宣言した。

BPA と FDA

 BPA は、1960 年代に FDA によって食品包装での使用が初めて承認された。 2008 年に、同機関(FDA)は、「 BPA は食品接触材においても安全である」と結論付けた草案を発表した。この評価は、多くの健康擁護者や環境健康団体からの反発を受けた。 FDA は、2018 年に BPA が「食品接触材において安全」であると主張した。

 一方、2011 年以降、カナダとヨーロッパは子ども向け製品での BPA を禁止又は制限する措置を講じている。 2021 年に、欧州連合は、BPA と健康被害を関連付ける証拠が増えているため、BPA 暴露制限”劇的な”低下を提案した

 有害な化学物質を制限する上での主要な課題のひとつは、FDA などの規制機関が有害と見なす暴露レベルを把握しようと試みることである。米国では、FDA と環境保護庁(EPA)の両方が暴露を過小評価してきた長い歴史がある。場合によっては、「実際の暴露」を適切に把握していないか、わずかな暴露でさえ妊婦や子どもたちなどの脆弱な集団にどのように影響するかを十分に考慮していないためである。

最新の研究

 ある大規模な研究で、生殖健康に対する BPA の影響が調査されている。これらの研究はまた、多くの BPA 代替物が潜在的に BPA よりも悪いことを明らかにし、これらの化学物質がさまざまな原因による他の化学物質暴露とどのように組み合わされて作用するかを調べた。

 また、妊娠と子どもたちの発育に対する BPA の影響に多くの注意が払われているが、男性の生殖に関する健康への影響についても重要な研究が行われている。前立腺がん精子数の減少に関連している。

 私たちの研究チームが行った妊娠中の女性の BPA を測定した研究では、研究参加者に BPA について知っているか、または BPA を避けようとしているかを質問した。私たちの研究参加者の多くは、それについて知っていた、またはそれを避けようとしたと述べたが、彼らの行動は暴露レベルに影響を与えているようにはに見えなかった。これは一部には、BPA が非常に多くの製品に含まれており、その中には既知のものもあれば、対処が難しい未知のものであるということも理由であると信じている。

あなたにできること

 患者と一緒に働く私たちのスタッフと臨床医が尋ねられる最も一般的な質問のひとつつは、BPA や BPA 代替物などの有害な化学物質をどのようにして避けるかである。経験則として、プラスチック容器からの飲食、プラスチック容器での食品の電子レンジ加熱、そしてプラスチックの持ち帰り容器の使用を避けることである。これは、言うは易く行うは難しである。一部の紙の持ち帰り用容器でさえ、BPA または BPA 代替物で裏打ちされていることがある。

 我々の最近の調査のレビューでは、プラスチック製の容器と包装、ファーストフードと加工食品、缶詰食品と飲料を避け、代わりにガラス容器などの代替品を使用し、生鮮食品を消費することで、BPA やその他の内分泌かく乱化学物質への暴露を減らすことができることがわかった。

 飲料水容器、タッパーウェア、持ち帰り用容器、缶など、熱がプラスチックに接触すると、BPA やその他の化学物質が内部の食品に浸出する可能性が高くなることが研究で示されている。また、熱い食べ物をフードプロセッサーに入れたり、プラスチック容器を食器洗い機に入れたりしない。熱がプラスチックを分解し、製品がきれいに見えるかもしれないが、化学物質は食べ物や飲み物、そして最終的にはあなたに移行する可能性が高い。

 また、トマトのような酸性食品を缶詰にすると、BPA のレベルが高くなることもわかっている。また、食品がプラスチックまたは BPA で裏打ちされた缶に保管されている時間の長さも、化学物質が食品にどれだけ移行するかの要因になる可能性がある。

 人々が個人としてどれだけ行動しても、有害な化学物質への暴露を減らすには政策の変更が不可欠である。カリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF) の生殖健康と環境に関するプログラム( Program on Reproductive Health and the Environment)での私たちの仕事の大部分は、規制当局に化学物質のリスクを評価し、公衆衛生を保護する責任を負わせることである。私たちが学んだことは、EPA や FDA などの機関が最新の科学と科学的方法を使用してリスクを判断することが不可欠であるということである。

化学物質問題市民研究会
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