ミズーリ大学 2022年1月12日
BPA の胎盤暴露は胎児の脳の発達に
影響を及ぼすかもしれない

ミズーリ大学の科学者らは、母から子へのビスフェノール A(BPA)の
移動が胎児の脳の発達にどのように影響するかを調べている。

情報源:University of Missouri Jan. 12, 2022
Study: BPA exposure of the placenta could affect fetal brain development
https://showme.missouri.edu/2022/study-bpa-exposure-
of-the-placenta-could-affect-fetal-brain-development/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2022年1月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/220112_Mizzou_Study_
BPA_exposure_of_the_placenta_could_affect_fetal_brain_development.html





シェリル・ローゼンフェルド
獣医学部生物医科学の教授
 新しい研究で、ミズーリ大学の科学者らは、胎盤を介した母親から発育中の胎児へのビスフェノール A(BPA)の直接伝達が、胎児の脳の発達に悪影響を与える可能性があることを示している。同大学獣医学部生物医科学の教授であるシェリル・ローゼンフェルドと同僚らは、この一時的な臓器が胎児の脳の発達にどのように影響するかにもっと注意を払うべきだと提案している。

 ”胎盤は、妊娠中の母子間の栄養素や老廃物の交換を助ける一時的な臓器であるにすぎないが、妊娠中の BPA などの毒物への胎盤の反応の仕方は、長期的な健康への影響につながる可能性がある”とローゼンフェルドは述べた。”私たちは、神経発達を含む細胞機能の調節、及びがんの特定のマーカーの同定における重要な仲介者である胎盤内のマイクロ RNA (訳注1)の役割に焦点を合わせた。”

 BPA 暴露の影響が後年引き起こされる神経障害にマイクロ RNA がある役割を果たしているのではないかとローゼンフェルドは考えている。

 ”これらのマイクロ RNA は細胞外小胞内にパッケージ化され、体内の離れた臓器に送られる可能性がある”とローゼンフェルドは述べている。”私たちは胎盤のマイクロ RNA のパターンを変えることで、これらの小分子が脳に到達し、有害な影響をもたらす可能性があると考えている。脳の神経細胞が発達する前でさえ、これらのマイクロ RNA パッケージはすでに胎児の脳の発達を導いている可能性がある。これらの変化は、女性と男性の胎児でも異なる可能性がある。”

 BPAは、ペットボトルや食品容器、金属製の食品缶のエポキシコーティングなど、多くの家庭用品に使用されている。暴露は、ポリカーボネート製のプラスチック製食品容器ごと食品を電子レンジで加熱するという単純な行為の間に発生する可能性がある。最近、製品を”BPAフリー”にするための取り組みが始まっているが、安全なレベルの BPA 暴露と見なされるものをめぐる 10年以上にわたる議論が続いている。神経行動障害、糖尿病、肥満、さまざまな生殖障害など、関連する健康への影響の可能性を調査した研究が数多くある。

 ローゼンフェルドは、胎盤におけるマイクロ RNA の変化は、BPA 暴露の早期診断バイオマーカーとしても使用できると考えている。

 ”これらのマイクロ RNA と BPA 暴露による胎児の脳の発達との関係を特定することにより、これらのマイクロ RNA が原因で発生する BPA 暴露の有害な影響の一部を防止または逆転させるために、最終的に標的治療(targeted therapies)(訳注2)を開発することができる”とローゼンフェルドは述べている。

 この研究の今後の計画には、細胞培養システムを使用して、体外で胎盤と脳との関係を調べることが含まれる。

 ローゼンフェルドの 10年以上にわたる BPA 暴露の影響への関心がこの最新の発見をもたらした。胎盤と脳の関係に関する彼女の最近の焦点は、科学者らが橋渡し研究(translational medicine)訳注3)の初期段階、または動物科学の発見と人間との関連性を判断することによって人間の健康を改善することを目的とした研究の基盤を開発するのに役立つ可能性がある。

 この研究、”MiRNA changes in the mouse placenta due to bisphenol A exposure(ビスフェノール A 暴露によるマウス胎盤のマイクロ RNA 変化)”は [査読付きジャーナル] Epigenomics に掲載された。共著者には、ミズーリ大学の Jiude Mao、Jessica Kinkade、Nathan Bivensが含まれる。資金は、国立環境衛生科学研究所(1R01ES025547)から助成金が提供された。内容は著者の責任であり、必ずしも資金提供機関の公式見解を表すものではない。


訳注1:マイクロ RNA
訳注2:標的治療
訳注3:トランスレーショナル・リサーチ(橋渡し研究)
化学物質問題市民研究会
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