Environmental Health News (EHN) 2020年10月19日
ホルモン模倣化学物質 今、魚を害し、
後で暴露していない子孫を害する

ブライアン・ビエンコウスキー
有害な汚染物質に暴露した魚は、直接暴露しなかった将来の世代に
生殖問題などの健康問題を引き継ぐ可能性がある。


情報源: Environmental Health News (EHN), October 19, 2020
Hormone-mimicking chemicals harm fish now
and their unexposed offspring later

By Brian Bienkowski
Fish exposed to harmful contaminants can pass on health issues such as
reproductive problems to future generations that had no direct exposure.

https://www.ehn.org/effects-of-endocrine-disruptors-in-fish-2648218063.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年11月19日

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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/201019_EHN_Hormone-mimicking_chemicals_harm_fish_now_and_their_unexposed_offspring_later.html


インランド・シルバーサイド(魚種)
Credit: U.S.Fish and Wildlife Service (USFWS)
 新しい研究によると、内分泌かく乱物質にさらされた魚は、奇形、生存率の低下、生殖の問題など、健康上の問題を将来の世代に伝える。

 Environmental Science and Technology に発表されたこの研究は、淡水、汽水、塩水に生息できる魚で初めてのものであり、水路を汚染する農薬や避妊薬の化合物は今、そこに住む魚だけでなく、それらの子孫及び次の世代にも同様に害を及ぼすことを示唆している。

 生存率の低下や繁殖の問題など、魚の子孫に見られる悪影響は、時間の経過とともに個体数レベルの低下につながる可能性があるため、この研究結果は重要である。

 ”これらの影響は、間接的に暴露した魚及び全く暴露していない魚に引き継がれる可能性がある”と、研究の筆頭著者であり、カリフォルニア大学デービス校の解剖学、生理学、細胞生物学科の博士後研究員コンサルタントであるベサニー・ド・クルタンは EHN に語った。

 この研究は、私たちの環境に広く存在している内分泌かく乱化学物質(天然ホルモンを模倣する)にさらされた人間と動物に深く埋め込まれた生物学的問題の最新の証拠を提供するものである。

   ”これらの発見は、単一世代の毒性試験では、これらの化学物質が長期的な個体群存続可能性に及ぼす影響を決定するのに十分ではない可能性があることを示唆している”と著者らは書いた。

低用量レベルで世代への影響をもたらす

 研究者たちは、インランド・シルバーサイド(魚種)を、ビフェントリン、レボノルゲストレル、エチニルエストラジオール、及びトレンボロンに、現在水路で見られるレベルで暴露させた。

 ド・クルタンは、”私たちの濃度は実際には野生で見られるレベルの下限であった」と述べ、それは ppt (1兆分の1)レベルの低用量化学物質であったと付け加えた。

 ビフェントリンは農薬、レボノルゲストレルとエチニルエストラジオールは避妊用の合成ホルモン、トレンボロンは太らせるために牛によく与えられる合成ステロイドである。

 このような内分泌かく乱物質は、成長の変化、生存率の低下、産卵率の低下、性比の偏り、免疫系への悪影響など、直接暴露した魚のさまざまな健康問題にすでに関連付けられている。しかし、まだはっきりしていないのは、暴露が将来の世代にどのように影響するかということである。

 ド・クルタンは、彼らの研究で魚が胚であるときに暴露を開始し、21日間暴露を継続した。その後、暴露した魚と次の 2世代への影響を追跡し、次のことを発見した。
  • 暴露した魚は、遺伝子発現と DNA メチル化に影響を与え、奇形が増加し、産卵が減少した。
  • 両親が暴露した間接的暴露の第1世代では、孵化の成功と幼魚の発育における奇形が減少した。
  • 暴露がなかった第2世代では、生存率の低下が最も大きく、DNAメチル化が変化した。
 ド・クルタンは、その後の 2世代を見ると、この研究は野生での 3年間にほぼ相当すると述べた。 ”私たちは第2世代の生存への影響を調べた”と彼女は述べた。 ”これは間違いなく個体群全体に影響を与える可能性がある。現時点では、それが野生個体群にとって何を意味するのか正確にはわからない”。

 研究の上級著者であるスザンヌ・ブランダーは、水中の塩分が汚染を含むさまざまなストレス要因への魚の反応を変える可能性があるため、他の魚種、特に他の河口魚や海洋魚も同様に影響を受けると考えるのが妥当だと述べた。

 オレゴン州立大学の準教授であるブランダーは、10年余りの間、インランド・シルバーサイドを扱ってきた。彼女の仕事はもちろん、シルバーサイドは全国の廃水の排水試験で何十年も使用されてきた。

 シルバーサイドは”河口、海洋および沿岸の生息地のモデル生物”であると彼女は EHN に語った。

継承される問題

 ド・クルタンは、変更された DNA メチル化は、将来の世代が前の世代の暴露による健康への影響を経験するもっともらしい方法のひとつであると述べた。ホルモンかく乱物質は、生物がどのように発達するかを示す重要なマーカーである DNA メチル化に影響を与えることが示されている。

 ”メチル基がゲノムの特定の部位に追加される。[暴露]はゲノム自体を変化させるのではなく、ゲノムがどのように発現されるかを変化させる”と彼女は述べた。 ”そしてそれは世代を超えて受け継がれることができる”。

 さらに、ブランダーは、DNA 分子には本質的に異なる「タグ」が存在し、遺伝子にオンとオフの方法を指示すると述べた。彼女は、さまざまな化合物への暴露が”世代を超えて進むにつれて、どのメチルタグがオンまたはオフになるかに影響を与える可能性がある”と述べた。

 研究者らは、この研究は将来の世代への影響を検討するための将来の毒性試験を促すことになると述べた。

 ”結果は…化学物質を規制する現在のアプローチ、−そこでは、成長、生存、そしておそらく遺伝子発現のような単純なものを調べる短期間のテストがしばしば行われる−を混乱させる”とブランダーは述べた。

 ”これらの調査結果は、少なくとも私たちは本当に次のに 2世代を考慮する必要があることを私たちに教えている”と彼女は付け加えた。



化学物質問題市民研究会
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