Health and Environment Alliance (HEAL) 2020年5月20日
新たな科学的研究が、ビスフェノールAの
非単調用量反応曲線と低用量影響を強調する


情報源:Health and Environment Alliance (HEAL), 20th May 2020
New scientific study highlights non-monotonic
dose-response curves and low-dose effects of bisphenol A

https://www.env-health.org/new-scientific-study-highlights-
non-monotonic-dose-response-curves-and-low-dose-effects-of-bisphenol-a/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年5月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/200520_HEAL_New_scientific_study_highlights_
non-monotonic_dose-response_curves_and_low-dose_effects_of_bisphenol_A.html


 米国 CLARITY-BPA プロジェクト[1]の一部として実施された新たな科学的研究がビスフェノールA(BPA)暴露のラットの乳腺発達への影響の定量的評価を展開し、90以上の測定値のセットについて非単調用量反応関係[2]の一貫したパターンを発見した。これは、BPA への暴露と観察された健康影響との間のある因果関係を示すものである。

 ”CLARITY-BPA 研究におけるラットの発達中の乳腺の非単調性を評価するための形態計測学的及び統計学的複合アプローチ”[3]は本日、Environmental Health Perspectives 誌に発表された。

 その研究は、発達の重要な期間すなわち、ひとつは妊娠から離乳まで、もうひとつは妊娠から月齢6か月までの臓器摘出までの BPA 暴露の影響を分析するために、新規および標準の定量的方法と標準的な半定量的方法の両方を使用している点で際立っている。 両方の定量的手法は、より低い用量の投与はどの点においても乳腺の発達により大きな影響をもたらす明確な非単調用量反応曲線を示している。 さらに、この研究では、BPA とエチニルエストラジオール(EE2、エストロゲン薬)が同様の効果をもたらすかどうかに関するいくつかの仮説をテストし、それぞれの用量反応曲線を比較した。

研究は次のような顕著な発見を含む:
  • BPA への発達暴露の複数測定による非単調用量反応曲線の明確な統計学的証拠。
  • 25 〜 250 μg BPA/kg body weight/day の用量反応曲線におけるブレーキングポイント。
  • 研究対象となった動物の全ての年齢における非単調用量反応曲線の発生。
  • CLARITY-BPA のコア研究と同じ動物のセットを使用して、 CLARITY-BPA のコア研究で観察された BPA の低用量影響(例えば、既に 2.5 μg/kg/day で乳がん)は、投与された BPA の用量とその影響との間の因果関係のためであるとする統計学的証明。これは、観察された低線量の影響がランダムな事象によるものであったという前の声明との対比を提供する。
  • 測定するエンドポイントに応じて、さまざまなエストロゲンが同様または非常に異なる効果をもたらす可能性があるという明確な統計的証拠。これは、BPAとエチニルエストラジオールが常に同様の効果をもたらすという仮説に反する。
  • 用量反応曲線の非単調性を検出し、乳腺で観察される特性の数を拡大する際に乳腺に使用された新しい方法論の明確な付加価値。
  • 内分泌かく乱物質に関連する非単調用量反応を検出するのに適切な統計的手法を開発し使用することの重要性の明確な説明。線形応答を示すために開発されたツールでは十分に把握されないからである。
 研究で詳しく述べられた定量的方法は、CLARITY-BPA の目的のひとつに対応し、乳腺の様相の自動評価を実行し、用量反応曲線を決定するのに適したソフトウェアツールを開発する。 言い換えると、この方法は、手動の評価ではアクセスできない乳腺の形態のいくつかの様相を評価することを可能にする。

 乳腺は、内分泌かく乱にとって特に敏感なエンドポイント(評価項目)であると考えられており、低レベルの曝露において及びがんの発生よりも早く測定可能な影響が見られる。 したがって、動物実験の一部としてのこのエンドポイントのテストは、EDCs の規制安全評価に特に関連する。

 健康環境連合(HEAL)の健康と化学物質の上級政策担当者であるナターシャ・シンゴッティは次のように述べている。”この研究は、ビスフェノールAは低用量であってもその曝露が健康に害を及ぼす可能性があること、及びこの広く使用されている内分泌かく乱物質への暴露の安全用量を設定することは不可能であることの別の確認である。 BPA は、消費者製品および食品包装での使用を完全に禁止されるべきであり、耐容一日摂取量をさらに低くする必要がある。

 ”ヨーロッパの機関は、内分泌かく乱物質を規制するために改訂されるフレームワークの提案を起草しているので、人々を潜在的な健康影響から効果的に保護する約束は、曝露に安全なレベルはないという前提に基づかなくてはならず、またそのような物質への人間の曝露を避けることが最優先でなくてはならない”。

 この研究に関連するQ&Aはここから入手できる。

背景

 ビスフェノールAは、ヨーロッパでは高生産量化学物質として登録されており、包装又は工業プロセスの無数の用途に適用される多くのプラスチック製品の製造、又はコーティングに使用される[4]。 BPAへの曝露は、生殖障害、がんリスクの増加(例えば乳がんや前立腺がんなど)、肥満や糖尿病などの代謝障害、免疫系の変更、神経への影響、免疫への影響、子どもを含む脳の発達と行動への影響など、いくつかの重要な健康状態に関連している。

 BPAは、その生殖毒性と人間の健康と環境に対する内分泌かく乱特性のため、非常に懸念が高い物質の欧州化学物質庁(ECHA)の候補リストに含まれている[5]

 欧州食品安全機関(EFSA)は現在、食品中の BPA の潜在的な危険性を再評価している。その評価の結論は 2020年の後半に予想される[6]


連絡先:研究者と連絡を取るには、下記に連絡してください。
NatachaCingotti、Health and Chemicals、 natacha@env-health.org

編集者への注

[1] CLARITY-BPAプロジェクトは、学術機関が主導する研究及びテスト結果と、 ビスフェノールAの安全性評価について規制当局が強く依存する Good Laboratory Practices に基づいて実施された研究との違いを調べるために 2012年に設計された米国の研究プロジェクトである。 国立環境衛生科学研究所、米国国家毒性プログラム、米国食品医薬品局、および独立した学者を結集し、プロジェクトの目的は、 プロジェクトの目的は、ビスフェノールAの安全性に関するテスト結果の繰り返し発生する違いを克服することであった。

 2018年9月にデータの最初の部分セットがリリースされたとき、米国食品医薬品局は BPA の安全性に関するコメントを含む公式声明を発表した。 プロジェクトに関与した多くの研究者は、この発言が時期尚早であり、現在も進行中のプロジェクトの進展を正確に反映していないことに懸念を表明した。

https://www.ehn.org/fda-flawed-statement-science-bpa-2542621453.html"
https://www.the-scientist.com/news-opinion/a-landmark-study-on-bpa-leaves-scientists-at-odds-65004

[2] 非単調な用量反応曲線(NMDR)は、曲線によって特徴付けられる用量反応関係を表し、その傾きは、試験された用量の範囲内で方向を変える。 詳細については、以下を参照のこと。

https://www.endocrine.org/advocacy/position-statements/endocrine-disrupting-chemicals
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6137554/pdf/10.1177_1559325818798282.pdf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4429934/pdf/12940_2014_Article_851.pdf

[3] Mael R. Montevil et al. “A combined morphometric and statistical approach to assess non-monotonicity in the developing mammary gland of rats in the CLARITY-BPA study”, Environmental Health Perspective https://dx.doi.org/10.1289/EHP6301

[4] https://echa.europa.eu/substance-information/-/substanceinfo/100.001.133

[5] https://echa.europa.eu/candidate-list-table/-/dislist/details/0b0236e180e22414

[6] EFSA, BPA update: working group to start reviewing new studies, 4 September 2018,
https://www.efsa.europa.eu/en/press/news/180904



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