内分泌学会プレスリリース 2017年4月1日
若齢期の BPA 暴露は
脂肪肝に関連する
遺伝子発現を再プログラムする


情報源:Endocrine Society Press Release, April 01, 2017
Early-life BPA exposure reprograms gene expression linked to fatty liver disease
https://www.endocrine.org/news-room/current-press-releases/
early-life-bpa-exposure-reprograms-gene-expression-linked-to-fatty-liver-disease


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年4月25日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/USA/170401_Endocrine_Society_
Early-life_BPA_exposure_reprograms_gene_expression.html


【オーランド】 よくある可塑剤(common plasticizer )ビスフェノールA(BPA)への新生児期の暴露は新生ラットの肝臓中の遺伝子を”ハイジャック”して再プログラムし、成人してからの非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)をもたらす。新たな研究がこのプロセスがどの様に起こるのかを発見し、研究者らはフロリダ州オーランドで開催される(た)内分泌学会の第99回年次総会で発表する(した)。

 NAFLD は肝臓細胞中に余分の脂肪が蓄積しているもので、アルコールによって引き起こされたものではなく、肝硬変又は肝臓の瘢痕化もたらす。この一般的な疾患は、肥満、糖尿病、高コレストロール、又は高中性脂肪(血中脂質)の人に、より多くみられる。

 BPA は、多くの食品や飲料の容器のようなポリカーボネート・プラスチック中に、及び食品の缶の内面処理をするエポキシ樹脂中に見いだされる産業化学物質である。過去の研究が、我々の環境中の BPA と他の多くの化学物質が、体のホルモンをかく乱することができ、最終的には肥満やその他の疾病をもたらすことを示している。

 ”我々は、この疾病は、リスクの持続するエピゲノム(訳注1)の発達的再プログラム(訳注2)を通じて起きると信じており、それはライフタイムを通じて持続する”と、この研究の主調査者であり、テキサス州ヒューストンにあるベイラー医科大学の講師であり研究者であるリンジー・トレビノ博士(Ph.D.)は述べた。”これらの持続する変化は、病気への罹りやすさの増大と関連する遺伝子発現の変更をもたらす”。

 ラットと人間の両方で、エピゲノムは我々の完全な DNA のセット(ゲノム)をプログラムするが、遺伝子欠陥とは違い、エピゲノミック再プログラミングは逆転させることができるとトレビノ博士は述べた。

 ”この内分泌かく乱物質介在のエピゲノミック再プログラミングの基礎をなすメカニズムを理解することは、 NAFLD のための可能性ある介入と治療はもちろん、リスクのある人々のためのバイオマーカー(生物指標)の特定をもたらすかもしれない”と彼女は述べた。

 国立環境健康科学研究所(NIEHS)による資金支援を受けた研究で、トレビノ博士と彼女の同僚らは、過去の動物研究で彼らが観察した発達的再プログラミングの分子的原因を特定することを探し求めた。彼らは新生ラットに対し、生後5日目の肝臓発達の重要な期間に環境的に妥当な低 BPA 量を投与した。肝臓は”脂肪代謝と肥満”に対して中心的役割を果たすと彼女は説明した。そして、彼らは、ラットの BPA 暴露直後、あるいはラットが成獣になった後、その肝臓組織を取り出して検証した。これらの組織サンプルは BPA 暴露を受けなかったコントロール・ラットからのサンプルと比較された。

 トレビノ博士は、成獣の時に高脂肪のエサを与えられた BPA 暴露ラットは肝臓重量が増加し、総コレストロール、”悪玉”(LDL)コレストロールのレベルが上昇したが、コントロール・ラットでは上昇しなかったと報告した。さらに、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の発達に関与する遺伝子は、BPA暴露のラットの肝臓中で発現の増加を示したが、コントロール・ラットでは示さなかった。特に、彼らは BPA が二つの新たな活性なエピゲノムの特徴を NAFLDの発達を促進する遺伝子上に生成することを見つけたと彼女は述べた。これらの特徴は、影響を受ける遺伝子の重要な制御領域に現れ、したがって、遺伝子をオンにするようコード化する”スーパープロモータ”になるように見える。しかし、この変化は、高脂肪食物の摂取のような、後の生活におけるチャレンジが必要であるように見えると、彼女は言及した。

 BPA 及びその他の内分泌かく乱物質がラットの追加的な組織中にエピゲノム再プログラムの促進を研究者らは見たと報告されている。トレビノ博士は、”我々の発見は、他の疾病にも同様に有用であろう”と述べた。これらの内分泌かく乱物質は環境中のいたる所に存在するので、多くの人々が発達的再プログラミングによって影響を受けるかもしれない”。

出典:
Early Life Environmental Exposure Creates “Super-Promoters” By Developmentally Reprogramming the Epigenome of Genes Associated with NAFLD. Presented at ENDO 2017. OR15-1.


訳注1:ゲノム 訳注2:再プログラム
  • リプログラミング/ウィキペディア
    リプログラミングとは、DNAメチル化などのエピジェネティックな標識の消去・再構成を指す。そのような後天的な遺伝子発現の制御の変化を一般にエピジェネティクスと呼び、DNAのメチル化修飾やヒストンタンパク質の化学修飾などによって制御されることが分かってきている。
  • エピジェネティクス
    エピジェネティクスとは、核の中のゲノムを機能的に編成し、遺伝子発現を制御し、細胞のアイデンティティを伝搬して、外部からの刺激に対して転写応答をするメカニズムの組み合であるとの見方が定着している。


化学物質問題市民研究会
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