国際持続可能な開発研究所(IISD)
包括的政策提言 2023年4月5日
政策の統合:
水、内分泌かく乱物質、医薬品

リズ・ウィレッツ
情報源:International Institute for Sustainable Development (IISD)
Policy Brief, 5 April 2023
Integrating Policy:
Water, Endocrine Disruptors, and Pharmaceuticals

By Liz Willetts
IISD Earth Negotiations Bulletin (ENB) Team Leader and Senior Writer. https://sdg.iisd.org/commentary/policy-briefs/
integrating-policy-water-endocrine-disruptors-and-pharmaceuticals/


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年4月24日(前半部
更新日:2023年4月27日(後半部new_3.gif(121 byte)
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/Int/230405_IISD_
Integrating_Policy_Water_Endocrine_Disruptors_and_Pharmaceuticals.html

要旨
  • SAICM によって認識されているが 世界的な協定には含まれない、水、健康、生物多様性に重大な影響を与えるふたつの化学物質グループは、内分泌かく乱化学物質(Endocrine disrupting / EDCs)と環境残留性医薬汚染物質(Environmentally Persistent Pharmaceutical Pollutant / EPPPs)である。
  • EDCs と EPPPs に対処する政策の進歩は、意思決定の場の中でも特に、2023 年の国連水会議の自主的取り組み、プラスチックに関する新しい国際条約と化学物質と廃棄物に関する科学政策機関の交渉、及び地球規模の生物多様性の枠組の実施、に適用され、強化される可能性がある。
 水と化学物質に関する政策間の関連性は単純であるが、統合された政策は取り組む必要のある課題である。国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)は、これらの領域を横断する新たな問題に注意を向ける上で重要な役割を果たしてきた。

 SAICM によって認識されたが世界的な協定には含まれない、水、健康、生物多様性に重大な影響を与えるふたつの化学物質グループは、内分泌かく乱化学物質 (EDCs) と環境残留性医薬汚染物質 (EPPPs) である。SAICM は 10 年前に EDCs と EPPPs を新たな政策課題として認め(訳注:塗料中の鉛、製品中の化学物質、電気電子製品のライフサイクル中の有害物質、ナノテクと工業ナノ物質、内分泌かく乱化学物質、境残留性医薬汚染物質、過フッ素化学物質とより安全な代替品への移行、危険性の高い農薬/SAICM Emerging Policy Issues and Other Issues of Concern)、知識と意識を動員するために政府と利害関係者間の共同行動を加速させた。EDCs と EPPPs は、化学物質に関する世界的管理にとって重要なトピックスであるだけではない。EDCs と EPPPs に対処する政策の進歩は、数ある意思決定の会議の中でも特に、2023年国連水会議(訳注:プレスキットから[5つのテーマ領域に関する事実と数字])の自主的な取り組み、プラスチックに関する新しい国際条約と化学物質と廃棄物に関する科学政策機関の交渉、及び世界的な生物多様性の枠組 (Global Biodiversity Framework / GBF)などに適用され、それ等によって強化される。

EDC と EPPP のリスク

 歴史的に、汚染のリスクと害は、人々と地球の健康への影響に見合った政策課題で優先されてこなかった。 世界的な消費と生産のパターンにより、環境汚染物質のプラネタリー・バウンダリー(Planetary Boundary)が持続可能性を超えて押し上げられ、1950 年以降に生産された少なくとも 5,000 種類の新規化学物質が、ほぼ普遍的な人間の暴露を引き起こしていることが認識されている。 汚染は、環境による疾病負荷の約 17〜25%を占めており、年間約 900万人が死亡している。 これは、その多くが認識されていない幅広い疾患につながる亜致死性の有害暴露のほんの一部である。

 2017年、世界の健康にかかわる社会組織は、汚染と健康に関するランセット委員会(Lancet Commission on Pollution and Health)の設立を通じて、化学物質汚染による健康への悪影響の可視性を高めたが、5年後の評価報告書は、これらの課題に対処するための各国の進歩が”驚くほどわずか”であると指摘した。実際、世界水開発報告書 2023 によると、課題は増加している。世界的に水の使用量は年 1% 増加しているが、SDG 6 (きれいな水と衛生)(訳注:目標 6 全ての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する) の 11 のターゲット指標のうち 5 つが報告されていない。

 EDCs と EPPPs は、2012 年の第 3 回化学物質管理国際会議 (ICCM3) と 2015 年の ICCM4 で、それぞれ健康上のリスクがあるため、SAICM によって懸念される新たな汚染物質として認識された(訳注:塗料中の鉛、製品中の化学物質、電気電子製品のライフサイクル中の有害物質、ナノテクと工業ナノ物質、内分泌かく乱化学物質、境残留性医薬汚染物質、過フッ素化学物質とより安全な代替品への移行、危険性の高い農薬/SAICM Emerging Policy Issues and Other Issues of Concern)。世界中で、ほぼ全ての人々が血液中に EDCs を持っている疑いがある。 EDCs はまた、多くの生態系の多様な種の血液にも見られ、哺乳類、鳥類、魚類、及び内分泌系を持つ他の種に特定のリスクをもたらす。現在及び将来の世代のヒト及び他の種の正常な生殖及び発達は、EDCs によって危険にさらされる。これは、2060年までに 3 倍になると予測されている EDC の主な発生源であるプラスチックの使用の増加に伴って増大するリスクである。

 EDCs の亜致死効果(sub-lethal effects)は危険であり長期にわたって持続する。 EDCs は、暴露した生物の内部通信システム (ホルモンシステム) を変化させるため、発達の自然なメカニズムと正常な生理機能を変化させ、本質的に生物学的な再プログラミング、脱プログラミング、又は不正プログラミングを引き起こす。それらはまた、DNA の調節と発現を変更し、複数の世代にわたって遺伝的変化をもたらすことも知られている。 さらに、EDC は、非感染性疾患 (non-communicable diseases / NCDs) (訳注:がん、糖尿病、循環器疾患、呼吸器疾患、メンタルヘルスなどを代表とする慢性疾患の総称。SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」のターゲットにある。)の可能性の増加などの二次的影響に関連している。

 濃縮された EPPPs は、人間が水中で暴露される低用量の薬品混合物を生成し、同時に、これらの物質は他の種に複雑な負の薬品影響を与える可能性がある。 環境中の薬物は、他の種の生理機能に意図した影響を与えるという意図しない結果をもたらす。 たとえば、抗うつ薬、鎮痛薬、抗菌薬、避妊薬のようなステロイドは、行動と摂食、腎機能、排泄物の自然な分解、女性化、繁殖力や出生力を変化させ、最終的には生態学的関係とライフサイクルを乱す。医薬品の意図的な治療設計は、生態系における残留性と他の種へのリスクにも影響を及ぼす。

 EDCs と EPPPs はどちらも、水資源と水生態系にかなりの悪影響を及ぼす。 EDCs は、多様な水生態系、地表水、地下水、飲料水に見られる。EDC の生産と使用は、農業 (農薬)、家庭用品産業 (プラスチック)、エレクトロニクス (プラスチックと重金属)、化粧品、ヘルスケア (プラスチック) の中心であるため、多くの部門が水資源における EDC の”カクテル”に貢献している。EDCs は、難燃性など、他の製品を強化するために使用される工業用化学物質からも発生する。部門レベルでの EDCs の暴露データは驚くべきものになる可能性がある。 ひとつの例として、果物や野菜の生産物は農薬に由来する数十の内分泌かく乱残留物を帯びている可能性がある。親水性 (水を好む) 化学的性質を持つ特定のタイプの EDC、ペルフルオロアルキル物質及びポリフルオロアルキル物質 (PFAs) に関する現在のデータは、それらが地域全体に広まっており、点源への近さに関係なく水中で頻繁に検出され、公衆の健康に重大な影響をもたらしていることを示している。たとえば、欧州環境庁 (EEA) は、9 か国の 10 代の若者の 14%が健康指導レベルを超える PFAs の血中濃度を持っていることを観察している。主導的な機関は、EDCs の影響は一般に過小評価されていると結論付けている。残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約の第 2 次グローバル・モニタリングとレビュー(Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants' (POPs) Second Global Monitoring and Review)によると、水中の EDC 濃度は EDCs 排出量を削減するための政策の有効性に対する重要な指標として機能するため、水汚染に焦点を当てることは EDCs の管理にとって重要である。

 同様に、EPPPs は主に水を汚染する、すなわち地表水、地下水、飲料水、及び土壌を汚染する。主な排出経路は都市廃水の排出であるが、製造、畜産、水産養殖からの排出も重要である。 89か国の報告によると、医薬品又はその変換生成物からの 992 の活性化学物質が水と廃棄物の流れに含まれており、そのうち 703 が地表水、地下水、又は飲料水に含まれている. 別の調査結果では、5 つの国連地域全てに 37 の EPPPs が存在することが示された。 同時に、世界保健機関 (WHO) の欧州地域事務所が開催したリスクに関するワークショップは、EPPPs に完全に適用できる既存の健康監視プログラムは存在しないと結論付けた。

管理体制(Governance arrangements)

 EDCs と EPPPs は、既存の環境管理体制の隙間をすり抜ける。 EDCs のリスクはよく理解されているが、環境における EDCs の複雑さ、有病率、及びライフサイクルを把握する規制の枠組みを構築することは難しい。 EDCs は、土壌、水、空気、及び食品を汚染する可能性があり、評価する専門家に応じて、多数の規制の範疇に分類される。 国際環境法の下では、それらは「POPs」、「有害廃棄物」、「水銀製品」及びその他の「重金属」、「農薬」、「プラスチック」に分類できる。 健康分野では、それらは「発がん性物質(carcinogens)」、「変異原性物質(mutagens)」、「生殖毒性物質(reprotoxicants)」として議論されている。 EDCs はさまざまな管理手段とリンクし、その世界的な広がりにも関わらず、EDCs の主要な発生源は、それらを包括的に包含する世界的な法律文書がないため、世界規模で対処されていない。準地球規模及び国家レベルでの取り組みも、同様に不均一でつぎだらけである。EDCs として現在文書化されている 1,400 以上の化学物質が内分泌かく乱に関連しており、文書化されているものの10%未満が、世界中の既存の法律文書や行動を通じて評価及び/又は対処されている。

 EPPPs にも同様の課題があるが、理由は異なる。化学物質に対処する主要な多国間環境協定(Multilateral Environmental Agreements / MEAs)、すなわち POPs に関するストックホルム条約、有害廃棄物の国境を越える移動に関するバーゼル条約、事前の情報に基づく同意 (PIC) に関するロッテルダム条約、及び水銀に関する水俣条約は、医薬品を検討対象から明示的に除外している。環境中のこれらの物質の膨大な量は、より包括的なアプローチの必要性を正当化している。 一部の高所得国では、人口の約 50%が常に医薬品を使用していると推定されている。 病院や家庭の水や廃棄物の流れにおける累積的な医薬品の流出は着実に増加しているが、リスク評価は不十分である。 たとえば、EU では、3,000 を超える医薬品が環境リスク評価(Environmental Risk Assessment / ERA)なしで流通している。

 水政策は、EDCs と EPPPs の管理の論理的な拠点であるべきであるが、実際には、規模に不一致がある。 水に関するほとんどの規制政策は、地方又は地域レベルであるか、河川流域を対象としているが、EDCs と EPPPs の蔓延と分布は地球規模でかつ国境を越えている。さらに、世界の保健専門家は、工業用水汚染の測定基準が SDGs の一部として合意されたものの、開発は途上であると指摘している。公衆衛生の義務の下では、水と衛生の政策は化学汚染物質を包括的に検討することは対象となっておらず、又は一部の地域では、水へのアクセスを化学汚染によるリスクよりも優先している。 WHO は、2017 年に PFAs に関する飲料水の品質ガイドラインを作成するプロセスを開始した。

 SAICM は、EDCs (2012 年) と EPPPs (2015 年) の進展を促進するために、一連の”協力的行動”を動員した。 2020 年、国連環境計画 (UNEP) は、”懸案事項に関する評価報告書:人間の健康と環境にリスクをもたらす化学物質と廃棄物の問題”を発行した。 その中で、これらの問題の世界的な特質及び/又は完全なライフサイクルに対処するには不十分であると記した。報告書の中で UNEP は、農業政策、健康と職業政策、人権、生物多様性と気候変動の領域にまたがる、EDCs への管理アプローチの様相を発展させ前進させる多くの方法を特定した。 UNEP はまた、EDCs の健全な管理における規範と政策を形成するための課題と機会を特定した。すなわち:
  • 各国の認識と知識を同じレベルに引き上げ、政策環境で使用する準備が整った科学的知識の定期的な評価と統合を確実にする。

  • EDCs の評価と管理に対する様々なアプローチの橋渡しを行い、政策の不一致、データ要件、及び共同評価と戦略を修正し、化学品の分類及び表示に関する世界調和システム (GHS) の広範な採用に重点を置く。
 UNEP はまた、既存の規範や政策における障壁への対処を含む、EPPPs で前進するための課題を特定した。すなわち:
  • 対象となる医薬品の範囲は、”環境残留性(environmentally persistent)”という用語によって限定される。これは、例えば、疑似残留性(pseudo persistent)で 生物蓄積性(bioaccumulate)があるものや、短期的暴露の影響が不可逆的(short-term impacts are irreversible)なものは、対象としない。 前進するためのひとつの方法は、単純で一般的な基準を使用してこの範囲を拡大することである。

  • 汚染[浄化]は高価で技術的に難しいため、医薬品廃棄物の防止を強化する必要がある。 利害関係者は、医薬品メーカーがバリュー チェーンに沿って”グリーン ファーマシー”アプローチにさらに関与するよう奨励する必要がある。

  • 発展途上国や経済移行国では、医薬品の悪影響に対処するための支援が必要であり、これらの地域の廃水に最もよくある医薬品に合わせて調整する必要がある。

  • 環境リスク評価 (ERAs) のシステムは、総汚染負荷の既存のリスクを把握するために見直される必要がある。 何千もの医薬品が ERAs なしで流通しており、地表水中でかなりの濃度で測定されている。

  • 製薬メーカーの関与を強化し、政策行動において医薬品のライフサイクル全体を把握することが重要である。

  • 知識への焦点を超えて、政策行動へと移行することが必要である。 とりわけ、販売承認、回収、未使用/期限切れ薬物、及び廃棄物処理を含む一括法律文書が必要である。
 EPPPs に関連する問題のひとつである”スーパーバグ(superbugs)”(訳注:「スーパーバグ (超多剤耐性菌) 」または複数の抗生物質に耐性のある細菌が増加している。尿路感染症、敗血症、およびある種の下痢など、抗生物質による感染症治療に悪影響を与えている。WHO 最新ニュース/2020年11月26日)のリスクと脅威の増大は、世界中でますます注目を集めている。 人、動物、家畜の農業における抗菌薬の使用による多面的な問題は、EPPPs の下での重要な問題である。2023 年の報告書”スーパーバグに備える(Bracing for Superbugs)”によると、UNEP は薬剤耐性(Antimicrobial Resistance / AMR)と生態毒性を防ぐために医薬品[の使用]を最小限に抑えることが”重要”であると述べている。 抗生物質、抗ウイルス剤、殺菌剤、消毒剤が廃水に流れ込むが、ほんの一部しか評価されていない。その規模と AMR 水汚染との相互関連性は、データ収集と研究の強化だけでなく、「上流」と「下流」の介入を含む、包括的で多部門にわたる対応を必要としている。 解決策には、特に農業部門における水の過剰使用の防止と使用削減、及び、水・トイレ・衛生習慣(WASH:Water, Sanitation and Hygiene)プログラムが含まれる。(訳注:参考:ユニセフ 「水と衛生」最新報告書

追加 (23/04/27)new_3.gif(121 byte)
EDsC 及び EPPPs の健全な管理のための資金調達

 主要なリスクと主要なコストは、EDCs と EPPPs の健全な管理に対する二重の課題を提示しており、これらの汚染物質の長期的な経済的影響を強調するために新たな注意が必要である。 健康の専門家によると、汚染防止は費用対効果が高くないという議論は”欠陥があり、時代遅れ”である。 同時に、汚染の隠れたコストを明らかにして伝えるための費用便益分析への新たな投資が不可欠である。

 2015年の欧州における EDCs の不作為によるコストの見積もりは、合計 1,570 億ユーロ(約22兆円)であり、同様に、抗菌薬耐性 (AMR)のコストを予防的に管理するためのコストの予測は、年間 40 億〜90 億米ドル(約5,200億〜1兆1,700億円)(上流) から 130億〜470億米ドル(約1兆7,000億〜6兆1,000億円) (下流)の間である。もうひとつのギャップ領域は、ハザード分析の研究と設計に対する資金が不均衡に不足していることである。 2013 年に欧州環境庁(EEA )は、”過去 10 年間”に研究資金の 1% しかハザード分析/研究に費やされず、残りの 99%は製品開発に費やされたと指摘した。 一部の利害関係者らは、基礎化学品の生産による利益 2.3 兆米ドル(約 300兆円)に対して 0.5% の化学品税を提唱している。

EDCs 及び EPPPs 管理の人権側面

 国連の毒物に関する特別報告者は、事前の情報に基づく同意(Prior Informed Consent)(訳注:事前のかつ情報に基づく同意の手続))なしに人々が有害物質にさらされることを人権問題と見なしている。 報告者は、監視プログラムを確立し、主な暴露源を評価し、健康へのリスクに関する正確でアクセス可能な情報を公衆に提供し、国連総会(UNGA)によって最近承認された清潔で健康的で持続可能な環境への権利を侵害する有害物質への汚染又は暴露を引き起こさないことを含む、汚染及び有害物質に関する国家の人権義務を概説している。具体的には、報告者は、”汚染と有害物質の文脈における安全で清潔で健康的で持続可能な環境への権利の適用と解釈は、未然防止( prevention)、予防(precaution)、非差別(non-discrimination)、非回帰(non-regression)などの原則、そして汚染者負担原則(polluter pays principle)によって導かれるべきである”と述べている。 人間環境に関する国連特別報告者はさらに、有害物質のない環境は、安全で十分な水と健全な水生生態系に依存しており、権利に基づくアプローチをとる水計画で管理されるべきであると述べている。

 汚染は環境不正義(environmental injustice)の主な原因であり、この点に関して男女平等への注目が高まっている。 女性が直面する不均衡な暴露とリスクにより、一部の利害関係者は性別に応じた化学物質管理の重要性を強調するようになり、8 か国が女性の生殖系に対する EDC 毒性を評価する複数年プロジェクトに投資した。 SAICM は、内分泌かく乱に関連する化学物質に関する情報は秘密であってはならないことを認識している。

EDCs 及び EPPPs の健全な管理を促進する機会

 最近終了した国連 2023 年水会議は、EDCs と EPPPs の健全な管理の重要性を高める機会を生み出した。 重要な焦点のひとつは、水行動計画(Water Action Agenda)を構成する自主的な公約に彼らの考慮を組み込んだことであろう。たとえば、汚染に関する定量的な目標を、また清潔で健康的で持続可能な環境への人権と水と衛生への人権との相互関係を、強調又は特定することができたことである。SDG 6 が詳細に検討される 2023年7月に開催予定の持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム (HLPF) と 9月に開催予定の SDG サミットはともに、EDCs と EPPPs の健全な管理の問題について大いに注目を集める可能性がある。

 さらに、2023年は、新たな政策問題を含む、より包括的なグローバルな化学物質管理を前進させる大きな可能性を秘めた忙しい年になるであろう。 SAICM −「2020 年までの行動を動員するために 2006 年に設立されたマルチステークホルダー及びマルチセクターの政策枠組み」 − は、2020 年以降の化学物質と廃棄物の健全な管理を決定するために重要なレビューを受けるであろう。このレビューに貢献する重要なイベントは、SAICM と 2020 年以降の化学物質と廃棄物の健全な管理を検討するためのセッション間プロセス (IP4.3) の再開された第 4 セッションと、世界中で化学物質の安全性を促進することを目的とし、SAICM に従うための新しい手段を検討することを任務とする組織体 ICCM5 である。これらのイベントはいずれも 2020 年以降延期されており、2023 年 9 月に開催される予定である。これらのフォーラムは、懸念事項として EDCs と EPPPs の管理を直接促進する機会を提供する。

 さらに、UNEP のプラスチックに関する政府間交渉委員会 (INC) は、新しい国際的な法的拘束力のある文書 (International Legally-Binding / ILB) の設計に関する審議を継続するために再招集される。この会議では、条約の実質的な範囲とその実施、及び各国がコミットできる世界協定の形式に焦点が当てられる。 一部の政府は、条約の範囲をプラスチックの社会経済的及び環境的考慮事項の両方を考慮することを提案している。これは、社会経済的懸念の健康面で EDCs 及び EPPPs を考慮する余地を確保する方法である。

 化学物質、廃棄物、汚染に関する科学政策委員会(パネル)のオープンエンド作業部会も再開され(訳注:オープンエンド用語解説 コトバンク - 途中で変更や修正が可能であること。また、数量などに制限を設けないこと。)、新しい委員会の範囲と概念に関する議論が進められる。 委員会は、政策に関連する科学的助言を提供することを目的としており、そこでの討議は、委員会の権限が暴露経路 (空気、水、土壌、食品、及び製品中の化学物質) 全体にわたる EDCs の影響を含めるのに十分な広さであり、また、医薬品も明示的に含めることを保証するのに機が熟したことを示すものである。 この委員会に提案されている革新的なホライズン・スキャニング機能は(訳注:ホライズン・スキャニングは、将来大きなインパクトをもたらす可能性のある変化の兆候をいち早く捉えることを目的とした将来展望活動の一つである。対象は幅広いが、社会・経済・環境・政治的にインパクトをもたらす可能性のある科学技術の新興領域に焦点が当てられることが多い。科学技術動向研究センター)、新たな問題に取り組み、早期警戒を促進するために重要である。 2012 年以降の内分泌かく乱化学物質に関する最新の WHO 報告書は進行中であり、2024 年の国連環境総会 (UNEA) の第 6 回セッションまでに予定されている(訳注:参考:WHO/UNEP 2012 版 内分泌攪乱化学物質の科学の現状 )。世界の保健分野が EDCs 及び EPPPs の監視をどのように組み込むことができるかについての検討及び WASH (Water, Sanitation and Hygiene)プログラム(訳注:参考:ユニセフ 「水と衛生」最新報告書)などを通じてそれらに対処するための行動は、貴重な出来事となるであろう。

 その他の国際フォーラムや実施活動は、水汚染、EDCs、EPPPs が世界レベルで適切に対処され、規制されることを確実にする追加の機会を提供する。化学物質の理解と能力構築を強化できる生物多様性政策の余地が数多くある。  ”2030 年までに、あらゆる源からの汚染リスクと汚染の悪影響を、累積的な影響を考慮して、生物多様性と生態系の機能とサービスに害を及ぼさないレベルまで削減し”、栄養損失と農薬及び危険性の高い化学物質のリスクを半減することにより、そしてプラスチック汚染の廃絶に向けて働くことによって、 2020生物多様性枠組 目標 7(GBF target 7)(Global Biodiversity Framework)は、殺虫剤と非常に危険な化学物質を排除し、プラスチック汚染の排除に取り組むことで、化学物質の管理空間に重要な相乗効果をもたらす。 (訳注:ポスト2020生物多様性枠組について/環境省:ポスト2020生物多様性枠組とは、2020年までの国際目標であった愛知目標に代わる、2021年以降の新たな国際目標である。) EDCs 及び EPPPs による水汚染についての具体的な言及は、現在進行中の国家生物多様性戦略及び行動計画 (NBSAPs) の更新に組み込むことができる。 One Health Action Plans の開発は、抗菌薬の管理戦略など、EDCs と EPPPs が関連するもうひとつの手段である。(訳注:ワンヘルス・アプローチとは人、動物、環境の衛生に関する分野横断的な課題に対し、関係者が連携してその解決に向けて取り組むという概念を表す言葉であり、国際的にも認識が高まっている。厚生労働省

 各国の実施と課題設定におけるギャップに新たに焦点を当てることは、世界的な健康に関する推奨事項を取り上げるひとつの方法である。 2022 年のランセットの公害と健康委員会の国家の水管理に関する進捗状況報告書は、汚染管理政策分野への横断的なアプローチの重要性を強調している。 同報告書は、”保健省は引き続き感染症と病気の治療を優先し、汚染防止を環境省に任せている。環境省は通常、保健省よりも権限と資金が少ない”と指摘し、金融、都市開発、エネルギーなどの強力な省庁からのリーダーシップの欠如にさらに言及した。

 水資源、EDCs、及び EPPPs の効果的な汚染管理を進めるには、特に証拠報告書、行動計画、及びコミュニケーションの開発において、国家レベルの保健部門の関与が必要になる。 ベルギー、フランス、日本(訳注:Strategic Programs on Environmental Endocrine Disruptors '98 (SPEED '98) - Chapter I 古い!)、マレーシアなど一部の国では EDCs について進展が見られるが、最近の規制アプローチの分析では、EDCs の悪影響を実証するための in vivo 証拠要件など、主要な技術的障壁が指摘されている。 医薬品については、オランダスウェーデン、及び中国は、進歩的なアプローチを開発した。 しかし、EDCs や EPPPs を含む化学物質の評価と監視には、地域全体で大きな不均衡が存在する。 ランセットの報告書は、以下を含む、医療部門の関与を発展させるためのいくつかの推奨事項を提供している。
  • ハザード特定モデル上などに、発生毒性、生殖毒性、免疫毒性、長期低レベル暴露の影響、化学物質混合物の健康リスクなど、さまざまな形態の暴露に関する監視及び制御システムを確立する。
  • 汚染防止を開発戦略の枠組みに組み込む。
  • 汚染と健康に関するトピックスへのメディアの注目を高める。
  • 多国間開発機関の国別戦略枠組みに近代的な汚染止を含める;
  • 汚染を非感染性疾患、気候変動、生物多様性、食糧、農業の計画に結び付け、汚染を One Health アプローチ(訳注:ワンヘルス・アプローチとは人、動物、環境の衛生に関する分野横断的な課題に対し、関係者が連携してその解決に向けて取り組むという概念を表す言葉であり、国際的にも認識が高まっている。厚生労働省)のより強力な構成要素にし、地球の健康に関する対話を行う。
  • 特に低所得国及び中所得国における汚染暴露の特定と対応付け。
 非感染性疾患の予防と管理のための世界行動計画の中で汚染についてより強く言及することは、国家計画に対するトップダウンのサポートを提供するであろう。

 UNEP の懸念される問題に関する評価報告書(Assessment Report on Issues of Concern)は、人間の健康と環境へのリスクだけでなく、化学物質と廃棄物、及びその他の環境的及び社会的優先事項との関連性にも目を向けることを強調して締めくくっている。 2023 年は、化学物質の管理(ガバナンス)における新たな問題に関する世界的な最善の方法を改善するための多くの扉を提供する。

* * * * * * * * ** * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 この文書は、地球環境ファシリティ (GEF)(訳注:GEFは、日本を含めた183か国のパートナーシップにより構成され、開発途上国や経済移行国が地球規模の環境問題(気候変動、生物多様性、国際水域、土地劣化、オゾン層破壊、水銀)に取り組むための活動を支援している(the World Bank) のプロジェクト ID: 9771 のフレームワーク内で作成された。これは、国際化学物質管理への戦略的アプローチ (SAICM) に基づく、懸念される新たな化学政策問題に関する世界的に最善の実施方法 (Global Best Practices on Emerging Chemical Policy Issues of Concern )に関するものである。このプロジェクトは、GEF によって資金提供され、UNEP によって実施され(implemented)、SAICM 事務局によって実行された(executed)。 国際持続可能な開発研究所(International Institute for Sustainable Development / IISD)は、このポリシー ブリーフ(包括的な政策提言)の作成に対する GEF の財政的貢献に感謝する。

 このポリシー ブリーフ(包括的な政策提言)は、化学物質と廃棄物の適切な管理に関連する分野横断的なトピックスを扱うシリーズの第 4 回である。 IISD Earth Negotiations Bulletin (ENB) チーム リーダー兼シニア ライターであるリズ・ウィレッツ( Liz Willetts)によって執筆された。 シリーズの編集者は、IISD のトラッキング プログレス プログラムのシニア ポリシー アドバイザーであるエレナ・コソラポワ(Elena Kosolapova)である。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る